「新しい、普遍。」をつくる〜さとなおリレー塾第三期5回目〜

第4回ノートの最後に書いたとおり、「使ってもらえることの変化」や「最古×最新」の考えを聞くことを期待して、第5回に臨みました。

今回の講師は須田和博さんです。


須田和博さんのキャリア

1990年に多摩美大を卒業し、その後博報堂にアートディレクターとして入社。2年目から大貫卓也さんのもとで働き、CMプランニングなども経験し、現在はiディレクション局でシニア・クリエイティブ・ディレクター。

現業と平行してスダラボを運営。その他、最近は、課外活動的におかあさんといっしょのコンセプトデザインにも関わる。

結果的に「今までのやり方から逸脱している取り組み」をすることが多いとのことでした。


「新しい、普遍。」を企画するフレームワーク

企画に必要なこととして、下図のようなフレームワークを紹介されていました。

簡単に言うと、「最新」のメディア環境と、「最古」からある人類の普遍的な感情や特性を結びつけるために、大きく分けて4つのアプローチがあるという話です。

※ちなみに、中間の4要素の位置関係に意図は無いそうなので、講義で紹介された図を改変しています。間をつなぐ要素は並列にし、中のテキストが読みやすいように横にしました。また、僕自身が理解しやすいように、あえて言い回しを少し冗長にしています。


0.「新しい、普遍。」とは

まずは両サイドから解説します。

企画を考えていると、新しいことに目が行きがちです。しかし、(新しい)時代認識だけを見ていると、「追いつかなきゃ」という感覚に縛られてプランニングしにくくなります。

それを避けるために、「ヒトの普遍的な部分」も片目で追っていくことで、プランニングをすることが重要です。新しい手法を使っても人を動かせないと意味がありません。

つまり、最新の事象だけでなく、最古からあるヒトの特性も同時に追っていく。最古×最新=「新しい、普遍。」を根本においているという話でした。

「新しいモノは、全て、昔からあった。」という感覚を持てると、プランの幅が広がるそうです。

たとえば、「人体の手のサイズが変わらないから、文庫もマンガも同じサイズだし、タブレットのサイズは同じサイズに最適化しているのではないか」という話は印象的でした。


1.(お役に立って)使ってもらえる

ここからは、最古と最新を繋げる4つの手法の変化を紹介します。

まずは、「訴求から実用へ」と広告が変化してきたという話です。「お役に立って」「使ってもらえる」広告は、人を集め、動かす力を持ちます。

私としては、「お役に立つ」の「お」が非常に大事だと思いました。本当にユーザーの立場で役に立つかを考えるときに、「お役に立つ」というニュアンスはピッタリだと感じます。(「『役に立つ』でしょ」といって役に立たないものを勧められた経験はないでしょうか?)

このような広告として、mixi年賀状、ドミノ・ピザアプリNiveaの子供アラートアプリ、ロッテ・カフカ 泣き止み動画が事例として上げられていました。

特に、メディアやメディアメニューでのターゲッティング無しで、どうやって伝えたい相手に広告を届けるのか、を考える際に効果的だと思います。

このような広告を作る際は、ユーザーをよく見ることが第一その上で、「どうやったら使ってくれるのかな」と考えるというアプローチをとります。

カフカのCMでは、お母さんたちが「アメバッグを持っている」「スマホで子供をあやしている」というところに着目し、その人たちに「このアメよ」と思ってもらうことを目指したとのことでした。

このような手法は実は目新しいものではなく、メットライフの「ラジオ体操」や、ビール会社の栓抜きも使ってもらえる機能を持っていた、とのことでした。

「役立つものが使われる」という普遍的な事実をとらえたアプローチといえるでしょう。


2.(愛情を持って)ツッコまれる

2つめは、「つっこまれクリエイティブ」の紹介です。「メディアに投下からメディアに伝播」させることを主眼においた広告の形です。

須田さんは、Webのプランニングをやっているとき、従来のメディアに広告を投下して伝わるだけでなく、それがSocial mediaを中心に情報が伝播していく、という変化を感じたそうです。(下図参照。こちらも改変してます)

特に、買って欲しい世代がスマホでYoutubeを見る世代であれば、投下型広告をする際に、その後の伝播の要素を盛り込むことが重要だとおっしゃっていました。例えば、メディアに短期集中出稿をした後に、Youtube経由で伝播を促すようなイメージです。

このアプローチの事例としては、docomoの歩きスマホ参勤交代、満足一本バー、Wonder Core、カレーメシが紹介されました。

これらは、ツッコミどころをたくさん用意して、どんどんSNSやソーシャルメディアでツッコまれながら拡散されていくように作られていきます。そして、ツッコまれるだけでなく、Mad動画も作られてどんどん拡散されていくという予測不可能な広がりも見せることがあります。

このアプローチで気を付けることとしては、ツッコみには愛情が必要だということでした。

愛情がないと共感は生まないし、良い形で伝播されません。露骨なアプローチはむしろ逆にユーザーの信頼を損ねる結果になりかねません。

これは、「おかしいものは指摘したく鳴る」「愛着のあるものはツッコみたくなる」という普遍的な特徴をおさえたアプローチといえます。


3.身近なモノになる

これは身近に感じられる仕組みを作るアプローチです。

事例としては、ポカリスエット ブカツの天使や、インハイ.TVが紹介されました。

インハイ.TVでは、インターハイのスポンサーであるポカリスエットが、インターハイに来たくてもコレない人達のために、インハイ.TVというプラットフォームを制作し、スポーツをする多くの人にとって身近なメディアが作られました。

これも相手の「お役に立つ」アプローチとも言えるので、1に似ています。

ただ、これはどちらかというと、メディア環境の変化(=最新)側に寄った考え方なのかもしれません

企業どころか個人単位ででも様々なモノを作れる今だからこそ、今まだ存在しない役立つ仕組みやユーザーの不満を解消プラットフォームが提供可能になってきたのだと思います。


4.(言うだけでなく、)実現する

「表現から実現へ」と変わった広告の形です。メッセージを「言う」だけでは伝わらず、メッセージを「やる」というところまで見てもらうことで、影響力を持つアプローチになります。

この事例では、ギャラクシーSⅡ スペースバルーンプロジェクト、九州新幹線CM、Sound of Honda、ボルボ・トラック実証実験、British AirwaysのThe magic of flying、APOTEKの電車広告などが紹介されていました。


ホントにやるから、価値があり、ネタにもなる。

言うだけなら誰でもできるし、多くの人が「言うだけの人や企業」を目の当たりにしてきたからこそ、信じてもらうためにやってみて示すことが重要になってきたのかもしれません。


受託から実験/開発へ:なぜスダラボが必要だったか?

須田さんは「思いついたらやって良い。」という場所を用意し、育成と実験をするため、スダラボという組織を立ち上げられました。「受託から開発へ」という広告ビジネス自体の変化を捉えようとする試みとのことです。

スダラボでは、広告屋スキルをどう活かすかを考えていて、広告の売りものをもっと増やそうと色々な実験をしているそうです。

具体的に以下の取り組みが紹介されました。それぞれ国内外で評価されるものにばかりです。

-#1ライスコード

1本目は、広告の新商品開発の事例です。外人でも一見で分かるアイデアで、新しいものと古いものを組み合わせて、「新しい普遍」が生み出されています。

世界の「地域」が抱えている問題は、案外世界共通で、「地元から世界へ」というテーマでの取り組みが世界でも受け入れられたとのことです。

-#2トーカブルベジタブル

野菜を触ると電位変化が起こるので、触れた瞬間に録音した言葉を再生できるようにし、農家の生の声を売り場で聞いてもらえる仕組みです。

SXSW 2015に出展し、こちらも外国でも沢山の人に評価されたそうです。

-#3パニックーポン

3Dよりも怖い360度ホラーをやりたい。出口のないお化け屋敷。

プロダクトありきで開発を進めて、体験中に心拍を図り、心拍数に応じてクーポンをプレゼントする企画に結びつけたそうです。

-#4 dig log

これは、雪かきとゲーミフィケーションを掛けあわせて、若・中年層離れが進む豪雪地域で、雪かき自体を楽しめる仕組みを取り入れるための試みだそうです。

これは、先ほどの「身近にする」というアプローチといえるかもしれません。


本当に「荷を動かせる」のか

須田さんは、アプローチの紹介や、スダラボの説明をする中で、よく「荷を動かすのか」というフレーズを口にされていました。

適当に検索したページ(須田さんしかコメントを寄せていない笑)でも、「荷を動かす」ことの重要性を語られています。

ソーシャルアプリがコミュニケーションを生み、盛り上がるのは大いによろしかろうと思う。しかし、マーケティングのためにその開発と普及を担うなら、コミュニケーションが活発化した結果、本当に荷が動くのか?何が商品を買ってみたく思わせるものなのか?を、よくよく自身の日常の中で、問い続けることをお薦めする。良いと思って買うものがすべてではない。なんとなく選んで買ってしまうもの。要らないのについ買ってしまうもの。みんなが買ってるから欲しくなって買うもの。人がものを買う動機はいろいろある。そのいろいろを、どれだけ自身の日常の中で観察し、行動の原理を洞察できるか?そこに企画のヒントがある。他にはない。大学生のためのソーシャルアプリ×マーケティングコンテストapplim

これは、大貫卓也さんが常に意識されていたことだそうです。

さとなおさんの講義ノートでも書きましたが、目的がまず最初にあるということが抜けてしまってはいけません。

「使ってもらえる広告」を読むと、出版から今までで、アプローチ自体は変化していることが分かります。一方で、「荷を動かす」ということは一貫して変わらない目的として意識されているように思いました。


番外編:では、依頼側は何をすればよいのか。

講義後、「依頼側(いわゆるクライアント側)には何をして欲しいか」と聞いてみました。

回答は「誰に売りたいか」と「予算」というシンプルなものでした。

「誰に売りたいか」に関しては、できるだけ正確に捉えてもらえると嬉しいとおっしゃっていました。


この講義を自分が「使う」には

講義を振り返ってみて、聞いた内容を学ぶだけでなくて、どう使えば良いだろうか考えました。

まずは動かしたい相手の生活や考えのクセをよく知り、チーム全員で同じユーザー像を共有すること。

そして、その人達に「使ってもらえるには?」「ツッコまれるには?」「身近になるには?」「実現できると感じてもらうには?」などと、「最古」と「最新」を捉えるための企画を考える。

最後に、その結果「それは本当に荷を動かすのか」という確認に立ち戻り、企画を磨き上げていく。

このような工程をクリアして、やっと受け入れられる広告が1つできるのだと思います。


書くのは簡単なことは分かってます。これも言うだけでなく、実現しないといけません。

そのために、まず相手のことを理解しないと。というものすごく一般的な締めになってしまいました…。


なお、今回は時間の都合上、次回予告はナシにして、そろそろ出かけようと思います。


・参考:第5回の参考文献

「使ってもらえる広告 「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション」(須田和博)

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