憧れ

小学校のころ、地元の少年野球団に入っていた。

遠い記憶の中では、たしか最初はサッカーチームの見学に連れて行かれたんだけど、体験でボールを触らせてもらった時点でサッカーボールと友達になれる気がしなかった。思えばこの時から僕のサッカー嫌いは始まったんだと思う。

どういう経緯で野球チームに入ったのかはいまいち覚えてはいない。
仲が良かった友達が入っていたわけでもないし。それでも小学4年生の頃に野球を始めた。

特別センスがあったわけでもないが、人数が多かったわけでもないので5年生にもなれば試合に出してもらえた。

バットに当てるのに必死、ボールに追いつくのに必死。遠投なんてできないのになぜかサードを守らされて、送球が苦手だったけどそれでも楽しくてなんとなく続けていた。

チームの同級生にヒデくんという子がいた。

背の順で並べば前から数えたほうが早かった僕とさほど身長は変わらない、それなのにピッチャーをやっていて、足も速くてバッティングも上手だった。

おまけにかっこよくてコミュ力も高くて友達も多い。

自分の対極にいるような存在だった。

でも、なぜかヒデくんとは仲が良かった。

親同士が仲良かったというのもあって、わりと家に遊びに行ったりお泊り会をしたりで多くの時間を一緒に過ごしてきた。

中学生になり、そのままなんとなく野球部に入った。
本当はソフトテニス部にも興味があったのだけど、希望者がめちゃくちゃ多くてろくにコートに立てそうになかったし、少年野球の頃の先輩たちにも誘われたし、しかたなく野球部に入った。

ヒデくんは部活には入らず、市外のクラブチームに入った。
野球が上手でやる気のある彼なら当然の選択だった。

お互いに休日はもちろん平日でも練習や試合があり、彼と遊ぶ機会はほとんどなくなってしまった。

それでも学校の休み時間に話をしたり、研修合宿で同じ部屋を選んだり、交流は続いた。

中学でもお互い身長は伸び悩んでいて、ちびっこ同士収まりが良かったのかもしれない。

高校受験を考えるようになった頃、ヒデくんと進路の話をする機会があった。

めんどくさがりの僕は、隣の市の進学校を猛プッシュしてくる担任や学年主任を振り切ってチャリで通える地元の高校に進むと決めていた。

どうするのか彼に尋ねたところ、県内の野球の強豪校に進むという。
迷いのない真っ直ぐな眼で。

その瞬間に、あぁ彼は自分のなりたかった姿なんだなって唐突に理解した。

プロ野球選手とか芸能人とか、そういう現実味のない目標じゃない。

こんな人間になりたいなって憧れ。

でも中学生にそんなストレートな感想を口に出せるわけもない。

早起きと通学大変やなってからかうのが精一杯。

高校進学後は会う機会もなくなってしまったけど、僕も高校で自分の進みたい道を見つけて、なんとかその夢を叶えることができている。

今なら俺、ヒデくんに憧れてたんやでって言える気がする。

いや、お酒の力を借りないと無理かな。

まぁそれもいいか。