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【ココ塾】#4 人に寄り添う仕事のなかで一番大切にしていること

 先日、母校である秋田県立秋田高校の2年生に、講演する機会をいただきました。高校時代の思い出、どのようにして進路を決めたか、大学・大学院時代のこと、今の起業に至るまでの経緯など…、成功したことよりも失敗したことの方がずーっと多い人生ですが、さすがは秋高生!こんな先輩の話にも、終始真剣に耳を傾けてくださり、反応を示してくださり、最後はたくさん質問もしてくれて、私の方こそ勇気づけられ、勉強をさせていただいた貴重な時間でした。 

 当日は、同じ高校2年生の長男も同席させていただいたのですが、某国立大の附属高校(偏差値的には秋田高校と同じくらいのはず)で学んでいる長男は、「うちの学校に〇〇さん(某有名ジャーナリスト)が来ても誰も質問しなかったのに、ママなんかの講演でこんなに質問が出るなんて、本当に優秀な人たちなんだね!!」と、よく分からない刺激と感動を与えてもらったようでした。(←母としては素直に喜べない感想ですが…。)

写真は長男が撮影してくれました

 実際に、秋高生からの質問は、素直で、機転が利いていて、核心を突く、どれも素晴らしいものばかりでした。それに対して私の回答は、①揺るぎなく答えられたことと、②すごく悩んでもうまく答えられなかったこと、の真っ二つに分かれました。
 今日はそのうち、①揺るぎなく答えられたこと、についてお伝えできればと思います。  

「障がいのある方に寄り添う仕事をするうえで、一番大切にしていることは何ですか?」  

 きれいな瞳の女の子から出た質問です。障がい福祉だけではなく、どんな仕事にも共通している価値観だと思いますが、障がいのあるなしにかかわらず、私たちが日々接しているのは、人間です。すべての人間には、産んでくれた親がいて、育ててくれた人がいます。たとえ言葉が発せない方であっても、尊重されるべき「意思」があり、守られるべき「人権」があります。それは、子どもであろうと、大人であろうと平等であり、変わりません。

 私はこれまで、重度の知的障がいのある方や、精神障がいのある方、あるいは発達特性のあるお子さまの支援に携わってきましたが、どの場面でも変わらずに大切にしていることは、「支援者が利用者さんを見るのと同じように、利用者さんもまた支援者を見ている」という「鏡面関係」です。利用者さんと支援者との信頼関係は、どちらかの一方的な作為によって作られるものではありません。しかし、このことを本質的に理解するのは、とても難しいことです。

 お子さまの支援においても、「鏡面関係」が大切であることに変わりはありません。大人は子どもを見ているが、子どもも大人を見ているのです。しかし、子どもに何かを「教える」という立場から仕事をスタートした大人は、なかなかそれに気づくことができません。「見られている」ということを忘れて、どんどん「見る」側としての立場を強化してしまうのです。それが、支援者側の誤った自己愛や、全能感につながってしまうことがあります。療育の場でそうしたことが起きることは、何としても避けなければいけません。 

 そう考えたとき、人材育成の難しさを感じます。職員がテクニックを磨くことにばかり走ってしまうと、人権の視点が置き去りになるからです。この方法がダメだったら別の方法を…と、方法論ばかり磨いても、お子さまは言うことを聞いてくれません。方法論の前にある、自分とお子さまとの関係性を、まずは見つめなければいけないのです。しかし、失敗を認められない職員には、それができません。  

 言葉の選び方、声のトーン、表情、服装、間の取り方…。自分の中に1ミリでも相手を思い通りにしたいという気持ちがあったと自覚できるなら、まずはそれを捨ててから次の方法を考えることが重要です。自分の鏡を磨くことに、労力を惜しんではいけないのです。日々、自分の感性や人権感覚を磨くことで、お子さまの人権を守り、社会問題を解決することにつながると私は考えます。たとえ時間がかかろうと、そんな信念から生まれたお子さまとの信頼関係は揺らぐことはなく、結果としてそのお子さまが社会に出ていくときの大きな支えになるのです。  

 とても大切なことを、あらためて考え、こうして言葉にまとめるきっかけをくれた秋高生には、感謝しかありません。貴重な経験をありがとうございました。