見出し画像

「心が叫びたがってるんだ。」にハマって(8)

9.キャラクター(3)DTM研の2人

チア部の2人ときれいな対をなすDTM研の助さん格さんは,体格が良く色白でメガネの男子と,小柄で色黒の非メガネ男子,と,ルックス面では対照的な造形で示されます。

この2人も,変化の局面で拓実を後押す発言をするという,役割上もチア部の2人とまったく対称形をなしていますが,チア部の2人ほど目立つようには表現されていません。なにしろ野球部と一緒に甲子園に行って全国放送されちゃうかもしれなかったチア部が,「陽」の菜月の背景をなしているのと同じく,PCとボカロという完全インドア派に染まったこの2人は,「陰」と設定された拓実のうしろだてをなしているので,どう描こうにも目立たちようがないわけです。

ただし,この2人は,たんなる「なにもしない帰宅部」ではなく,教員と交渉して用具室を部室として使っていいという許可を得る程度には政治力があり,そうして部室をほしがる程度には学校というものに愛着を持っている層なのです。

拓実が「おれが本気出してミュージカルをやるといったらおまえら,どうする?」と問うた時,彼らが賛同したことは物語の分岐点であり,ある意味ミュージカル推進のカナメを握っているように描かれているところは,チア部の2人にはない役割です。

その時,「拓実がホンキ出すっていうなら,」という条件をあえて発言するのはやや説明的で,「三人麻雀」のシーンで拓実のことを「無気力な男子」と説明を加えた伏線の回収になっています。このあたりは,映画には拓実に関する「前史」的なシーンがほとんどないので(拓実について,表立った部活に所属していないし明るいうちに帰宅してしまうという描写があるだけで,「無気力」とまで言えるかどうかは,本作品の流れからは判断できない),作劇上必要だと思ったのでしょう。

彼らの「本業」?のDTMにおいても,拓実の描き方は判然としません。DTMの面で,相沢が「師匠」で,岩木が「弟子」の扱いというのが明確に示されます。その空間のなかで,主人公の拓実がDTMやボカロにどう関わっているのかは全く描かれていません。

ここらへん,拓実の人物造形がいまいちはっきりしないあたり,本作のちょっと弱いところかもしれません。(「あの花」のファンからは,本作はあの花と違って2時間の尺の制限があるので人物造形が物足りないのはそのせい,という説明がされることがありますが,それはそれ,ちょっと違うかなと。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?