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18thショパンコンクール イチオシコンテスタント【STAGEⅡ感想②】

昨日からSTAGEⅢが始まりました。

STAGEⅠではノクターンで歌を、STAGEⅡではポロネーズとワルツで踊りの表現を審査され、ここまでたどり着いた猛者たち。STAGEⅢではやっとソナタないしプレリュードという大曲を聞かせてくれます。
ここまで調子の良かったコンテスタントが苦戦していたり、あれ、この人こんなに良かったっけ?などと気付かされたり。
こういうことがあるので、コンクール鑑賞、中毒性があるんですよね笑

さて、STAGEⅢでの期待のコンテスタントについて。
STAGEⅡでのそれぞれの曲の感想とともに述べていきます。

Martín García García / Spain

ワルツ Op.34-1
すごく上品!音楽性もすばらしく、落ち着いてるけどハッピーな感じが滲み出ていて、まさに踊れるワルツ。のびやかで明るくて。STAGEⅠとは全然別人みたいだ…

バラード Op.47(3番)
歌う。音楽が、じゃなくて本人が。(音楽もとてものびやかに歌っている)「ふ~ん♪」って言ってるの……しかもなかなかええ声。こちらも本当にのびやかで、素直で、きれいな音。中間部、大変情熱的に。テンポが若干乱れるところもあったけど、めちゃくちゃチャーミングなバラード!

アンプロンプチュ Op.51
深く丸く歌う左手、すべての声部を聞きながら自由に歌わせてる。最高。最後まで安定して歌い切った。

スケルツォ Op.31(2番)
繊細な導入から、キラキラ、すっきり抜ける音、暖かい音、情熱、切なさ。響きも素晴らしくて、なんて豊かな音色。ファツィオリもいい仕事してる。緩急も素晴らしい。開放感と同時にぎゅっとつまった情熱、感情のほとばしりみたいなものを感じる。小鳥が歌う、絵本のような世界観を見せてもらった気がする。

ポロネーズ Op.53(英雄)
さすがにこれだけぶっ通しで弾いていると集中力も体力も辛いだろう…なんとか最後まで走り切った。本当にいい音楽家だと思う。人間的で、音楽の喜びを全面で感じ、表現しているショパン。観客にも大人気!


Nikolay Khozyainov / Russia

ポロネーズ Op.53(英雄)
ペダルをしっかり踏んだ導入。トップへの持って行き方やポリフォニーなど、なかなか独特。ずっと聞いてると癖になってくる。スルメみたいだ。

ワルツ Op.69-1
ワルツ Op.34-3
とても内向的なワルツ。座禅を組むときのBGMに良さそう……ショパンの和声の面白いところが見えてくる演奏。ピアノは「美しいものを美しく弾く」だけではない、ということに改めて気づかされる。猫のワルツはきれいな音。同じフレーズで同じ表現はしない、という意思を感じる。簡単には懐かないロシアンブルーのような。こちらも内声がちょこちょこ変わっていて、色々実験してることがわかる。

バラード Op.38(2番)
怪演。独自の世界観。深く……ズブズブと沼に沈むようなバラード。でもあながち間違った解釈ではないようにも思う。緊張しながら弛緩して、弛緩しながら緊張する。耳が釘づけ。

フーガ Op.posth
うわぁ、フーガだ。初めて聞いた。コンクールでこんな意欲的なプログラムを聞くことになるとは(こういうの嫌いじゃない、そしてちょっと弾いてみたい)。対位法の妙……

マズルカ Op.41-1
マズルカ Op.68-4
もはやリサイタル。これもすごく、内省的で…人間の内面の蓋を開けるような、踊りとは無縁のマズルカ。ともすれば観客を置き去りにしてしまう、もはや別次元の演奏。

バルカローレ Op.60
正統派の夢見るようなバルカローレではなく、ペダル最小限のフレーズに内声が際立つ。明るく華々しいバルカローレではないが、妙な説得力があって、音楽ではない新しいジャンルにヒョイっと突っ込まれたような、不思議な感覚に陥る。「気持ちいい」とはまた違うんだけど、高揚感があって。うまいかどうか、ショパンかどうか、などの指標では測れない音楽。エンタメとして消費される音楽とは一線を画す。


Jakub Kuszlik / Poland

ワルツ Op.34-1,2,3
若さや元気さ、と言うよりは悠々とした大人のワルツ。美しい。音楽が自然に流れて、気持ちが洗われるような清々しさ。爽快感、というよりは癒し。山、小川、森…自然の風景が見える。まさにピアノの森じゃん!
2曲目、短調ではあるけどズドーンとした陰鬱さじゃなく、歩みや流れがあるのがいい。泣いてるけど歩みは止まらず、進む。すぅっと入ってくる。秋の色。そしてセンスのいい内声…美しい女性が綺麗な声でコーラスしてるみたい。譜読みするだけなら簡単なワルツなはずなのに、こんなん弾ける気がしない。
3曲目、猫のワルツ。これまた上品な、お行儀のいい猫ちゃん。ずっと美しい弱音で、全くもって自然。ショパンはまさにこの曲を書いたんだ、ってすうっと納得してしまう。

バラード Op.38(2番)
つぶやきながら歌うような導入。ショパンを大層大袈裟に褒めたシューマンのことをショパンは苦笑したってエピソードを思い出した。そんな仰々しい曲じゃないよ、ってことだと思うんだけど、つまり音楽は意図的なものではなく、自然から湧き出るものなんだよ、とショパンは言いたかったのだろうと。そしてそれをその通りに体現できてしまう彼の感受性。盛り上がる箇所やコーダもあるがままで気持ちがいい。

ポロネーズ Op.44(5番)
大好きな5番のポロネーズ。非常にノーブル。それでいて悲劇、嘆きを感じさせる、ポーランド魂。彼らが描く風景は、他の国の人間が描く風景と何が違うんだろう…なんてことを思いつつ、耳を澄ませる。ただ優しいだけではなく、遠い故郷の春を想うような中間部。安らかな場所を「想っている」=実際は全く安らかじゃない場所にいる、ということが自然と分かる。この表現力…なんで音楽だけで、音だけで、そこまで読み取れてしまうんだろう。ただただ嘆く、ただただ慟哭する。歌いすぎず敢えて淡々と進むポロネーズのリズムが、かえって辛い感情を伝えてくる。本当に辛い人間は泣くこともできない……そんな叫び。見ないフリをしていた事実、現実を突きつけられたような感情を呼び起こされた。まさしく芸術。


STAGE2以降、私のポエマー魂が爆発しております……お恥ずかしい。
よい演奏であればあるほどどう言葉で表していいか分からなくて、でもできる限りその音が想像できるような表現を、なんて考えていると、どうしてもポエムになってしまう……
音楽を言葉で表現する、なんてこと自体がナンセンス。それでも書かずにはいられない、悲しい性です。

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