継ぎ接ぎの裁断者

スーツの男が差し出した紙切れ‐依頼状‐を一瞥すると、継ぎ接ぎだらけのコートの男は舌打ちをした。

「バラバラにするとこだった」

コートを翻すと、男は明かりの方へと歩き出した。

後をついて行こうとして直ぐに、“スーツ”はそれがどういう意味かを知った。

鼻に何かが触れた。
それは、不用意に触れれば切れてしまいそうな、透明な『糸』。

周囲をよく見れば、いたる所に同様の『糸』が張り巡らされている。
予め張り巡らせていた「仕掛け」と、先の“スーツ”が“継ぎ接ぎ”に仕掛けた一刻の間に仕込んだものだろう。自身を囲む様に張り巡らされている。

まるで『糸』の牢獄。

不用意には動けない状態になっていた。

“スーツ”が後をついてきていない事に気が付いた“継ぎ接ぎ”は、振り返ると「あぁ」と右手の鉈で宙空を斬った。
牢獄の糸が一斉に緊張を解く。

「飯ぐらい経費で落とせるんだろ?」

“継ぎ接ぎ”は向き直ると、再び歩き始める。

【続く】


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