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リーチ&フリークエンシー最大化で「認知」+「意欲」を作る、『シン・ウルトラマン』のマーケティング戦略

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。

待ちに待った『シン・ウルトラマン』が、遂に5/13に公開されます!

公開を1か月後に控えた直近は、本作に関わる様々なリリースが発表され、多方面で話題になっています。特につい先日の4/15には、82秒の特報映像が初解禁され、瞬く間にTwitterでトレンド入りを果たしていました。

本作については、まだ本格的な広告出稿は行われていませんが、マスメディアやSNSなど、大規模なリーチを見込めるメディアで話題となっており、既に作品の「認知」については、相当高い状態であることが想定されます。

今回は『シン・ウルトラマン』の「認知」に特化したマーケティング戦略、その狙いと効果について考察していきたいと思っています。

■映画を観てもらうためのマーケティング3大鉄則

『シン・ウルトラマン』の具体的な施策にいく前に、まず映画を観てもらうための3大鉄則を整理してみましょう。

①認知…作品を「知っている」状態
②意欲…作品に興味関心を抱き、「観たい」と思っている状態
③想起…観たいと思った作品を「思い出せる」状態

今回は「想起」については詳しくは扱いませんが、映画館に来てもらうためには、作品の内容×マーケティングで、認知・意欲・想起の3つの状態を最大化することが重要となります。

「認知」に効く施策としては、リーチ力の高いTVCMやパブリシティ、それからSNSプロモーションなど、映画業界での常套手段が挙げられます。

ただし一般的に、「認知」はお金で買えますが、「意欲」は買えません。

現代は「情報の大爆発」といわれ、あらゆる情報が世の中に溢れています。多岐にわたる情報や、様々なコンテンツを処理しきれない現代人は、情報を取捨選択し、「自分の好きなもの」にしか興味関心を抱きません

そのため例え予算をかけて、大勢の生活者の「認知」をとることができたとしても、その先の「意欲」まで醸成することは非常にハードルが高くなっています。(公開しているのは「知って」はいるけど、劇場まで「観に行きたい」とまで思ってもらえない

そうした現代人の「意欲」を引き上げるには、興味関心・趣味嗜好で繋がった集団(「トライブ」)をターゲティングし、その集団に対してパーソナライズされた、”刺さる”(その人が好きな)コンテンツを提供することが重要になります。(トライブについて詳しくは以下記事をご参照ください)

そうした映画におけるマーケティングの鉄則を前提に、『シン・ウルトラマン』の実際のマーケティング施策を見ていきましょう。

■徹底的に「認知」を抑えるリーチ&フリークエンシー最大化

●『シン・ウルトラマン』×マクドナルド「タツタ」
まず大きな話題となったのが、マクドナルドとのタイアップです。

映画『シン・ウルトラマン』の公開に合わせ、4月20日から、全国のマクドナルド店舗で特別パッケージの「チキンタツタ」と新バーガー「シン・タツタ 宮崎名物チキン南蛮タルタル」、5つのサイドメニュー「シャカシャカポテト レッド&ブラック ダブルペッパー」「マックフィズ青森県産ふじりんご(果汁1.3%)」「マックフィズ熊本県産すいか(果汁1.2%)」「マックフロート青森県産ふじりんご(果汁1.3%)」「マックフロート熊本県産すいか(果汁1.2%)」を展開する。

https://www.ssnp.co.jp/news/foodservice/2022/04/2022-0414-0640-15.html

マクドナルドは誰もが知っていて、一度は食べたことのあるブランドです。また最近のマクドナルドは、枠にとらわれない斬新な施策を多く展開し、SNSでもたびたび話題になることでも知られています。

ハッピーセットなど、オーソドックでハードルが低いコラボレーションにとどまらず、メニュー開発からプロモーション展開まで、ウルトラマンの文脈に沿ったタイアップは、リリースと同時に非常に話題になりました。4/19からは、TVCMの出稿も始まっているので、このタイアップはこれからより盛り上がっていくことでしょう。

●『シン・ウルトラマン』×アルソック
企業関連では、アルソックとのタイアップもTwitterのキャンペーンと連動して展開され、SNS上で話題になっています。

アルソックも定常的に広告を出稿していたり、レスリングの国民的選手である吉田沙保里さんや伊調馨さんのイメージ想起もあり、日本人には強く定着しているブランドです。家や公共施設を守るホームセキュリティと、地球を守るウルトラマンとの親和性も相まって話題になっています。

●『シン・ウルトラマン』×米津玄師
最後に、冒頭で紹介した特報映像とともに解禁されたのが、あの国民的アーティスト、米津玄師とのタイアップです。

『海獣の子供』や直近でもPLAY STATIONなど、毎度米津さんと企業・作品とのタイアップは非常に話題を集めます。今回の『シン・ウルトラマン』でも主題歌をオリジナルで書き下ろしており、楽曲のタイトルはなんと「M八七」(エム ハチジュウナナ)。「ウルトラマンの故郷」として知られるM87星雲にちなんでおり、ウルトラマンの文脈と密接に結びついたタイアップは、大きな盛り上がりを作りました。

以上紹介したのは、まだまだほんの一部です。このnoteを書いている現在も、『シン・ウルトラマン』に関する様々なリリースが発表されています。

既にお気づきの方もいるかもしれませんが、こうしたタイアップ先に共通しているのは、「メジャーさ」です。マクドナルドもアルソックも米津玄師も、全く知らない・全く興味がないという人がほとんどいないくらい、日本においてはメジャーなコンテンツです。

そのためマスメディアで扱われやすく、生活者もクチコミやすいので、様々な方面で露出し、様々な場所で話題になり、インプレッションとフリークエンシーが最大化されることで、『シン・ウルトラマン』の「認知」に寄与していると言えるでしょう。

『シン・ウルトラマン』は国内ではマーケティング予算が相対的に多いかと思いますので、ここまで大規模に「認知」を引き上げる施策を打つことができているのだと思います。

■それで「意欲」は上がるのだろうか?

ここで一度立ち止まって考えたいのが、冒頭にあげた「『認知』はお金で買えるが、『意欲』は買えない。」という命題です。

『シン・ウルトラマン』のタイアップ先は、”良くも悪く”も「メジャー」です。多くの人が話題にはするのですが、話題にしている人の大半の興味関心の深度は浅いでしょう。

マクドナルドとタイアップしていること自体は、多くの人が「面白いな」とは思うかもしれません。それでも、「マクドナルドとタイアップしているから映画を観たい」にまでは繋がる人は少数派でしょう。

たしかにこれまで挙げた施策によって「認知」は上がっていそうです。ただし、同じくらいかそれ以上に重要な「意欲」については上がっているのでしょうか?

■『シン・ウルトラマン』は「認知」=「意欲」なのである

私は結論として、「意欲」も上がっているのではないかと思います。

前述のように、基本的には「意欲」を効果的に上げるためには、マクドナルドや米津玄師のような誰にも喜ばれるようなコンテンツではなく、局所的なトライブに対して刺さるコンテンツを提供していく必要があります。

一方で今回の場合、『シン・ウルトラマン』にしかできないロジックで、「認知」だけでなく、「意欲」も引き上がっていると考えています。

ポイントとなるのが、『シン・ウルトラマン』がそもそも、「国民的コンテンツのリブート」であるということです。

「メジャー」であるとか、もはやそのレベルの話ではなく、国内で「ウルトラマン」といえば、どんな人も名前を知っていて、どんな見た目のキャラクターなのかも想像ついて、どんな特徴を持っているのか(3分しか戦えないなど)を理解している。そんなサザエさんやドラえもんのごとく、国民的なコンテンツとして日本人に浸透しているのが「ウルトラマン」です。

特に男性であれば、少年時代にウルトラマンに触れていない人がどれほどいるでしょうか?ほとんどいないのではないかと思います。

それほどまでに日本人に深く根付いているからこそ、「ウルトラマンの最新作が劇場で公開する」ことを知りさえすれば、過去の記憶が呼び起こされたり、ウルトラマンのイメージが沸き上がったり、「観てみたい」とまで思ってもらえる可能性が高い。

すなわち、「認知」をしてもらうことが、そのまま「意欲」にも繋がっていくというのが、「ウルトラマン」ないしは『シン・ウルトラマン』の強みだと思います。

だからどんな形であれ、『シン・ウルトラマン』は、知ってもらえる機会を増やすために、国民的コンテンツ×メジャーなタイアップ先の相乗効果で、インプレッション&フリークエンシーを最大化しているということができるでしょう

■「シン・」シリーズ独自の強み

これは他の作品にはほとんど真似できない「意欲」の引き上げ方です。

例えば、『シン・ウルトラマン』のちょうど一週間前に公開する映画で、『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』があります。

MCU(Marvel Cinematic Universe)の作品は、意欲の高い熱狂的なファンダムが興行収入を押し上げるのが特徴です。ただ、MCUは海外から来た、それも歴史が新しいコンテンツということもあり、現状国内ではそこまで深く根付いているとはいえません。たとえ作品の「認知」を最大化したとしても、MCUを追っていない人の「意欲」まで醸成することは難しいでしょう。

これは『シン・ウルトラマン』含め、「ゴジラ」「エヴァンゲリオン」「仮面ライダー」と、国民に根付いたコンテンツをリブートしている「シン・」シリーズだからこそ許されるパワープレイです。

ずいぶん前になりますが、『シン・ゴジラ』もキービジュアルのIPを公開し、様々な業界・会社との自由闊達なタイアップを奨励していました。これも生活者が作品を「認知」する機会を増やすことで、国民に根付く「ゴジラ」を呼び起こし、「意欲」をも引き上げようとした施策ということができそうです。

■最後に

以上、「認知」に振り切ることが「意欲」にまで繋がるという、『シン・ウルトラマン』のイレギュラーなマーケティングについての分析でした。

基本的には限られた予算の中で、いかに多くの人の「意欲」を引き上げるかを考えるのが定石となりますので、これは「ウルトラマン」のリブートだからできる、かつマーケティング予算があるからできるということを、改めてご承知おきください。

余談ですが、今週末はA24×マイク・ミルズの『カモン カモン』を観に行ってきたいと思います!!

ということで、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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