JW152 舞い降りた白い鹿
【孝霊天皇編】エピソード7 舞い降りた白い鹿
紀元前288年、皇紀373年(孝霊天皇3)1月、第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))の元に、二人の人物がやって来た。
物部六見(もののべ・の・むつみ)と三見(みつみ)の兄弟である。
六見「ただいま参りました。一体、何事でしょうか?」
三見「エ・・・エピソード125以来の登場です。」
笹福「うむ。二人は、先代の御世より、宿禰(すくね)として勤めておったな・・・。」
六見「その通りです。夜間の警備を司(つかさど)っております。」
笹福「これまでの忠義、まことに祝着(しゅうちゃく)である。」
六見・三見「かたじけのうございます。」×2
笹福「されど、二人とも、もう、お歳を召されておられる。」
三見「た・・・確かに、先代と同世代ですから・・・。」
笹福「そこで此度(こたび)、二人には隠居してもらい、他の者を宿禰に任じようと考えておる。」
六見「ようやく・・・この日が来ましたか・・・。」
三見「こ・・・こんなに嬉しいことはない・・・。」
笹福「嬉しいのか?」
三見「ひ・・・昼と夜の逆転生活ですからね。けっこう大変なんですよ。」
笹福「そうか・・・。まあ、そこでじゃ。此度、若い者を宿禰に任じようと思うておる。」
六見「後任は、一体、誰になるのですか?」
そこに大臣(おおおみ)の物部出石心(もののべ・の・いずしごころ)(以下、いずっち)がやって来た。
いずっち「わての息子たちでんがな!」
六見「叔父上(おじうえ)の息子たち・・・ということは・・・。」
三見「お・・・大水口(おおみなくち)と大矢口(おおやぐち)ですか?」
いずっち「その通りやで! ほな、紹介させてもらいましょか。大水口こと『みなお』と大矢口こと『ぐっさん』やで!」
みなお「お初にお目にかかりますぅ。『みなお』やで!」
ぐっさん「わてが『ぐっさん』や。よろしゅう頼んます。」
六見「我々から見たら、従兄弟の関係・・・同世代ではないのか?」
いずっち「まあ、あれやな。わてとあにさん(出雲色)は、歳の離れた兄弟やったんとちゃうか? せやから、問題ないっちゅうことや。」
三見「そ・・・そうなるんですか?」
笹福「まあ『いずっち』の申し分に賛同するわけではないが『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』に、今年の1月に『みなお』と『ぐっさん』を宿禰に任じたと書かれておるのじゃ。致し方なかろう。」
六見「なるほど・・・。書物に書かれているとなると、何も言えんな・・・。」
みなお「ほな、今日から、昼と夜の逆転生活やるで!」
ぐっさん「しっかり用心しますよって、任せておくんなはれ!」
笹福「うむ。頼んだぞ。」
こうして、六見と三見の兄弟は引退し、大水口と大矢口の兄弟が宿禰となったのであった。
そして、それから二年の歳月が流れ、紀元前286年、皇紀375年(孝霊天皇5)となった。
そんなある日の淡海国(おうみ・のくに:現在の滋賀県)で・・・。
笹福「一体、何があったと申すのじゃ?!」
そこに、中臣伊香津臣(なかとみ・の・いかつおみ)(以下、イカ)が、息子を連れてやって来た。
イカ「それについては、代替わりも兼ねて、息子の梨迹臣(なしとみ)が解説致しますぅ。トミーと呼んでくださいませ。」
笹福「ト・・・トミー?」
トミー「我(われ)がトミーにあらしゃいます。さて、何があったかと申しますと、鹿が舞い降りてきたのであらしゃいます。」
笹福「鹿が舞い降りる? どういうことじゃ?」
トミー「白い鹿が、空から舞い降りて、駆けまわったのであらしゃいます。」
笹福「鹿が? なにゆえじゃ?」
イカ「分かりません。ですが、それを見た地元の民(おおみたから)は、神の使いが来たものと解釈したようにあらしゃいますなぁ。ちなみに、鹿は駆けまわった後、死んだそうですぅ。」
笹福「・・・ということは、そこに神社が創建されたのじゃな?」
トミー「御明察にあらしゃいます。」
笹福「全く意味が分からぬ話じゃが・・・。それで、その神社とは?」
トミー「春日神社(かすがじんじゃ)にあらしゃいます。二千年後の滋賀県彦根市(ひこねし)は松原町(まつばらちょう)に鎮座しておりますぅ。」
笹福「春日神社・・・鹿・・・神の使い・・・。もしや!」
イカ「その通りにあらしゃいます。我(われ)らの祖神、天児屋根命(あめのこやね・のみこと)を祀(まつ)ったのであらしゃいます。」
笹福「武甕雷神(たけみかづち・のかみ)ではないのか? 奈良の春日大社(かすがたいしゃ)の祭神は、武甕雷神であろう?」
イカ「まだまだにあらしゃいますなぁ。春日の神は、武甕雷神だけではあらしゃいません。」
笹福「ど・・・どういうことじゃ?」
トミー「春日の神とは、武甕雷神と経津主神(ふつぬしのかみ)、そして天児屋根命、それから比売神(ひめがみ)の総称にあらしゃいます。」
笹福「武甕雷神と経津主神は、出雲(いずも)の国譲りに出てくる神じゃな? して、比売神とは、一体、如何(いか)なる神じゃ?」
トミー「比売神とは、主祭神の妻や娘、関わりの深い女神のことで、特定の神を指すのではあらしゃいません。」
こうして、春日神社についての解説に成功したのであった。
つづく
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