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すべての、白いものたちの

{読書の小窓}
白いものの目録、15の単語が並ぶ。おくるみ、うぶぎと赤ちゃんに関係する言葉が最初に出てくる。
お母さんが初めて産んだ赤ちゃんは生まれて2時間で死んだ。一人で産んでへそのおを切って血まみれの小さな体に産着を着せた。しなないでおねがい。しかし、2時間で死んだ。
わたしのお姉さん。
散文詩とかエッセイとか短い文章で綴られた「白いもの」にフォーカスされた想い出からの心象風景が繊細な感性で語られている。


1、私
赤ちゃんのおくるみ、産着、そしてゆき、こおり、はくし(白紙)、はくはつ(白髪)・・・・・・
産まれて2時間で死んだねえーさん。
産着
母が産んだ初めての赤ん坊は、二時間で死んだと聞いた。タルトックのように色白の女の子だったそうだ。八か月の早産で、体はとても小さかったが、目鼻がはっきりして美しかった。真っ黒な目を開けてこちらを見た瞬間が忘れられないと、母はいった。(略)


2、彼女
霧、雪、みぞれ、吹雪、灰、塩、月、レースのカーテン、息、白く笑う、角砂糖、白い骨、米と飯などなど
ワルシャワの街を歩きながら白いものに想いを馳せる。
 姉との現世でのめぐり逢いは不可能な運命と悟る。
みぞれ
生は誰に対しても特段に好意的ではない。それを知りつつ歩むとき、私に降りかかっで来るのはみぞれ、額を、眉を、頬をやさしく濡らすのはみぞれ。すべてのことは過ぎ去ると胸に刻んで歩くとき、ようやく握りしめてきたすべてのものもついには消えると知りつつ歩むとき、みぞれが空から落ちてくる。雨でもなく雪でもない、氷でもなく水でもない。目を閉じても開けていても、立ち止まっても足を速めてもやさしく私の眉を濡らし、やさしく額を撫でにやってくるのはみぞれ。


3、すべての白いものたちの
あなたの目、寿衣(埋葬の際に着せる衣装)、白服、わかれ.…
だから、もしあなたが生きているなら、私が今この生を生きていることは、あってはならない。
今、私が生きているのなら、あなたが存在してはならないのだ。
わかれ
しなないで しなないでおねがい。
・・・それを力こめて、白紙に書きつける。それだけが最も善い別れの言葉だと信じるから。死なないようにと。生きていって と。

この本は、散文詩、自由詩、エレジーなどまた、短編小説風と言う言い方があるかもしれない。やさしい言葉、短い文章しかし、深く想像させられたり、考えさせられる言葉。
初めから終わりまで通してお母さんが初めて産んだ赤ちゃんのことが全体を覆っている。今の季節にも似た寒々とした風景に立たされているような雰囲気を味わった。

「すべての、白いものたちの」
ハン・ガン  (高橋真理子訳)
2024年 ノーベル文学賞受賞


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