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優しい余韻!「菊の司 髭 BLACK」

こんにちは、ボンです。

今日の酒はこちら!!

菊の司酒造㈱「菊の司 髭 BLACK」

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アルコール度数:17度
他スペック:非公開

9月よりスタートした当蔵の新シリーズ「菊の司 髭シリーズ」の第1弾です。「クラシカルな日本酒の味わい」をテーマに、冷や酒(常温)や燗酒で滋味深く味わえるお酒を念頭に置き、酒質設計をしました。「燗」でピンときた方もいるかもしれませんが、私ボン肝いりの新商品です(笑)

大まかな内容は菊の司酒造WEBにて公開しておりますので、先にそちらをご覧になってからこのnoteを見た方が理解しやすいかもしれません。

「やってみたい」の酒

今回の髭BLACKでは、

・生酛造り
・蓋麹
・大吟醸米「結の香」を70%の低精白で使用

と、当社では長らく行っていない工程や、実績の少ない原材料を多く取り入れた酒造りとなりました。もちろんイメージする酒質へのアプローチとして「適切と思われること」を採用しましたが、ここだけの話、「やってみたかった」が一番理由として大きいです。興味本位ですね(笑)

当社では秋田の「太平山」さんが開発した通称「秋田式生酛」を長らく採用してきました。通常生酛との一番大きな違いは内容物をすりおろす「山卸(酛擦り)」の工程を手作業で行うか(通常生酛)、ミキサーやドリルで行うか(秋田式生酛)という部分で、そこを対比して語られがちです。

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僕は燗酒が大好きなので、通常生酛で造られる製品に遭遇することがおそらく普通の人より多かったわけですが、ずっとこの2つの生酛の具体的な違いがわかりませんでした。

今までいろんな先輩方にこの質問をしてきましたが、正直、論理的な返答より、感覚的な返答に終始する場合が多く…。これは2つともやってみねえとわかんねえな、ということで、髭BLACKで通常生酛を採用しました。

ちなみに初回の飲みだおれ日記で取り上げさせていただいた、「睡龍」を醸す奈良県・久保本家酒造さんの加藤杜氏は酒蔵のWEBサイトにて、

生酛造りは、日本酒造りの基本であると考えます。 香り系の速醸酛の造りとは違う、米洗い・蒸し・麹・酒母(しゅぼ)・醪(もろみ)それぞれの操作、作業があり、ある意味完成されています。生酛造りの作業の一つ一つの道理を理解してこそ、新しい技術である速醸を、難なく行うことができるものと考えています。
http://kubohonke.com/item

とおっしゃっています。生酛は現在の日本酒市場においては珍しい、あるいは特別なものとして見られがちかもしれませんが、実際には酒造りの基本と言っても過言ではない技術です。ここを完璧に理解すれば、技術に幅が生まれてくるのではないでしょうか。

昨季は総米600㎏の仕込みが1本だけで、違いがわかるまでには当然行き着きませんでした。これから仕込みの量、種類、本数が増えていく中で、ここを十分に語れるようになることが目標です。

次に蓋麹。蓋麹は製麴法としては超基本的なものです。当社では20数年間使用しておらず、専ら箱麹や機械製麹が中心です。僕が「聖典」と呼んでいる故上原浩先生が著した『いざ、純米酒』(2002年、ダイヤモンド社)には、

「麹造りの基本である蓋麹法を習得し、いかなる造り方をするにしても、常に麹蓋での状況を念頭に置いて機械を操作することが大切である」(P.87)

とも書かれていて、麹造りのイロハを理解していくにはやはり有用な製法です。破精落ちが比較的多くなるデメリットもありますが、基本的には力価の強い麹を造れる蓋麹。どんどん活用していきたいと思います。

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最後は「結の香」低精白使用。2013年からこの米を使った酒の醸造が開始された歴史の浅い米で、高精白に耐えられて心白が大きい大吟醸用酒米として、岩手県で開発されました。お父さんは酒米の王「山田錦」、お母さんは青森の「華想い」というサラブレッドです。

そんな結の香ですが、現在はかなり「制限」の多い米です。

「岩手県南部の栽培適地として認定された地区で育てられた米のみ「結の香」として出荷できる」
「更に50%精米以下の米で造られた吟醸酒のみ「結の香」とラベル表記できる」

という具合。今回の髭は盛岡の隣町で栽培適地外・雫石町で契約栽培していただいた「1等米」(※理由は言いませんがあえて強調します)を使い、更には精米70%の純米酒なので、農家さんから出荷された時点でも結の香と名乗れず、ラベルにも結の香と記載できない「超絶はみ出し者結の香使用酒」です。

出来上がりについては後から詳述しますが、この米の可能性が少しでも広がった未来を想像しながら造りました。

違いを知って本質を知る

よく「日本酒業界の人間はもっと他のアルコールを知らなあかん」という言説を見かけます。僕はこの意見に賛同しますが、日本酒自体を自分はまだまだ知らないので、とにかく日本酒という狭いフィールドだけをまずは突き詰めて理解したいと思っています。それは造りでも同様です。

今回「やってみたい」という理由で従来の当社の造りとは異なる製法を試したり、誰もやったことがない原材料を使用するのもその一環。他のアルコールを理解することで日本酒の新たな一面が見えてくるように、他の製法を試すことでそのもの自体を理解でき、尚且つ従来通りの酒造りの有用性が新しい視点で見えてくる。そう思っています。

飲み手の皆様にとって、この酒を美味しいと思ってもらえるように造るのはもちろんですが、それぞれが元々好きな酒の価値が、新たな視点で見えてくるような存在になればいいなと思います。

肝心の出来上がり

初年度である令和1BYの髭BLACK。色々と苦労しましたし、着地点としては「まだまだ改善の余地しかない」というのが事実ですが、正直、今年の酒の出来上がりはアプローチとして間違っていないと、価値観に広がりを持たせる結果になったと思います。

自分の中では「熟成させないと本当においしくならない酒」はあまり好ましく思っていなくて、「新酒から1年以内に飲んでも十分おいしいけど熟成させたらもっとおいしくなる」が理想です。そういった意味で今回の酒は、理想に向かうレールに乗りながらもまた新たな視点を持たせてくれました。

その中でも特徴的なのは甘の消え方。酒度が実は-3なので辛口とは言い難い酒なんですが、酸を含めた他の味の構成の影響か、後に引くどころかすーっといなくなります。燗にしたときが顕著で、そこから来る優しいタッチは今まで飲んだ数ある酒の中でも特筆すべき点かと思います。

甘みは最も直感的においしく感じられる味の要素です。しかし甘さがくどかったりすると、量を飲めない原因にもなってしまいます。砂糖がバンバン入っている餡子を食べ続けられない的な…。そういった部分でこの酒の甘はバランスが良いです。

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米は先述したように大吟醸用酒米として開発された「結の香」を70%精米で使用していますが、低精白ならではのふくよかさを感じさせながら、結の香特有の洗練された上品な、クリアな口当たりにつながっています。

先ほどから書いている甘のバランスや優しいタッチは、結の香のこういった米の良さというのが反映された結果なのではないかとも思っています。

令和2BYは髭シリーズの仕込みの種類が増えるので、1BYの味を踏まえ如何にBLACKの良さや存在感を際立たせていくか。そこをしっかり練っていきたいと思います。

実際に飲んでみた

レビュー編は完全に主観なので参考までに。

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まずは冷酒。冷や酒以上でおいしいに決まっているので常温保管していますが、わざわざチロリに入れ冷蔵庫で冷やしました。

結論から言えば悪くないです。冷や酒、燗酒はもっと旨いのであえてオススメしませんが、悪くない。酸渋が激しい方に目立つのでそれが好きな方はどうぞ、という感じ。

次に冷や酒。渋みはやはり感じます。たぶん若渋系統だと思うので、熟成という時間が解決してくれることでしょう。ただ冷酒の時とは違うのが、なにかを食べながら飲んだ時に渋がほぼ感じられません。温度上がった方が柔らかくなりますね~。燗で期待が膨らみます。

燗は上げ落としからのチョイ上げがベスト。渋が取れ格段に飲みやすくなります。酸も角が取れて良い感じになるので、万能にするならこれが一番。渋を含めて楽しむなら上げきってから冷めていく過程を飲んでみるのが良いかも。

楽しみ方の幅を持たせるために17度の原酒で出していますが、そのままでも十分柔らかいタッチで楽しめます。なにかちょっと手加えるならおすすめが割水。温めた酒を平杯に注ぎ、そこにお好みで割水してみると、さらに優しい仕上がりに。長く飲み続けるならこういったアクセントを加えても面白いでしょう。

料理との相性は割と万能な気がしますが、現時点での熟度では醤油には合わない感じ。酸を効かせてシンプルに塩で味付けしたものが好相性ですね。わかりやすく言えば「さんまの塩焼き×すだちorかぼす」や、「豚トロ×レモン」、「タコとグレープフルーツのマリネ」的な…、自分が好きなものばかり書きました(笑)

最後に

ここでは書かない方がいい色んな考えがまだまだありますが、あんまりさらけ出してしまうと楽しく飲めないので今日はここまで。

繰り返しますがまだまだ良くなる酒でゴールは遥か先です。年に同じ仕込みをたくさんこなせる商品ではないので、1回1回の造りが本当に貴重…。おいしく飲んでもらうことと、自分の考え、大層な言い方をすれば哲学とがうまく両立する形をとりながら、着実に進んでいければいいなと思っています。

令和2BYの出来上がりは来年2021年4月以降。その頃の日本の経済はどうなっているでしょう…。期待と不安が入り混じる状態で来年をイメージしていますが、熟成する火入れとは別にとあるシリーズを新設予定。しかもアイテムも増えます。トータルでは期待の方が大きいですかね…。

とにかく今季は余計に気合い入れて頑張ります。

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