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肥前に生きるということ

パンデミックによる思いもしなかった光景。磁器の郷、有田町が震えているように思える。

これまでも日本を襲った災害は数知れず。特に近年の台風豪雨による被害は九州にとってライフラインを失いかける惨事だが、それでも我々は助け合いながら乗り越えてきたと今になって実感する。

ところが、感染危機という得体のしれない悪魔に世の中が身をかがめてしまうと、一寸先も遠い未来も同じ暗闇の中に封じ込められてしまう。

人が仕事をし、学校に通い、文化的な暮らしをしていく中で、豊かな時間を求めて家族のために食卓を整え、仲間と食事をしたり、お茶をゆっくりと楽しむことは私たちがお届けする肥前焼に触れていただく最も理想のシーンだ。肥前における産業は芸術ではなく、暮らしから求められたプロダクションなのだから。

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手に取りやすい価格でいかに食卓に優れたデザインを取り込んでもらうか。肥前の窯元すべてが、そこに向かってものづくりに日々向かい合っている。彼らのそのひたむきな精神に関わることができる喜び。手に取っていただいた方とのつなぎ手としてこの価値提供はうつわ屋の真髄とも言える。

手に取るとその価値の違いに誰もが気付いてくれ、言葉では言い表すことのできないうつわがもたらす感触と余韻が残る。多くの職人たちがひとつの気を抜くことなくものづくりをした結果がそこにあるのだ。肥前に生きる作り手とそれを届ける我々は、今や日本のみならず世界中にうつわが広く行き渡るためにだれもが実直に使命をこなしているのである。

外出を制限されるという閉塞した世の中。元に戻るためにはとにもかくにも良識ある行動で治まるのを待つしかない。

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陶器市のとても明るい茶碗の重なり合う音。賑わう往来の人の波。幼いころから当たり前に感じていた風物詩の美しさにあらためて気づかされる。きっと来年はそのありがたさを感じながら復活できる、そう信じて今はひたすらに祈るだけ。

春の始まりに「耐える」ことを学ぶ。


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