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友人家族が被害に遭って

 今回は少し物騒な話になってしまいそうだが。。ありのままのブラジルということで、私がこちらに移住したそれなりの期間(この母の日で丸29年!)に見聞きした物々しい出来事について少々書いてみたいと思う。


 ちょうど1週間前の土曜日の朝だった。私達とは別行動で出かける娘が、アパートの駐車場からメッセージを送って来た。

「隣の車が大変なことになっている!」

 その時、私たち夫婦はいつもの公園でのウォーキングを終え、コーヒータイム中だった。そのメッセージから友人(階下のクッキング男子ファミリー)の車のうちの一台の、助手席の窓が大破しているということが分かった。只事ではないことは理解出来たが、どうか被害が最小限でありますように、と祈りながら家路についた。

 駐車場でその車をチェックすると、確かに助手席の窓は粉々に壊れ、座席に窓ガラスの破片が散らばっている。でも、車体には傷ひとつついておらず、へこんでもいなかった。その様子を見た夫が一言

「強盗にやられたね」

と言った。その当日の朝に、ご主人が親戚を訪ねて渡米することは知っていた。空港への道中(または帰り道)で事件は起きたのか。友人にメッセージをすると、果たしてビンゴだった。助手席に居た次男くんのスマホが盗難に遭ったが、幸いなことにご家族は無事だと言っていたので心底ホッとしたが、改めてこの街の治安の悪さを実感する出来事だった。

 昨日のこと、味噌を買い求めようと少し離れた場所にある大型のスーパーに向かった。店舗に入るとすぐに、見慣れた後ろ姿を見つけた。クッキング男子のお母さん、まさしく事件に巻き込まれた友人だった。声をかけると予想以上に驚かせてしまい、改めてその恐ろしい経験が、友人の心に深い影を落としていると知る。

 その日はご主人が朝7時台のフライトで発つので、早朝に家を出たとのことだった。ご夫婦の他に空港まで行ったのは長男くん(クッキング男子)とその弟くん。帰りの運転は友人で、助手席には弟くんが座り、後部座席ではクッキング男子が爆睡していたという。

 時間は朝7時、自宅アパートまであと10分ほどの、東洋人街の信号手前を徐行運転で進んでいた時、強盗に遭遇したそうだ。単独犯はガツンと窓を一撃、ガラスが割れ落ちた窓から手を差し入れ、次男くんのスマホを奪い脱兎の如く走り去ったという。あっという間の出来事だったそうだ。

 男子たちは犯人を走って追おうとしたが、友人はそれを止めたという。それは正しい判断だ、武器を持っているかもしれないのだから。急いで帰宅し、スマホに入っている銀行のアプリをブロックしたり各所に連絡したり、恐怖に怯える間も無く迅速に事に対処したそうだ。最近はスマホ自体を闇で売るというよりは、中に入ってる銀行のアプリからお金を盗むのが主流となっている。

 今のところ、そちら方面での被害はないようで安心しているという。ただ、助手席に座っていた次男くんの顔にガラスの破片が飛び散って、傷を負ったが軽傷だそうだ。メガネをかけていために目は無事だったと。不幸中の幸いだった。

 ご主人様は3週間ほどあちらに滞在して帰国するそうで、事件については知らせていないらしい。遠くから心配されてもどうしようもないし、せっかくの旅を楽しんで欲しいから、との友人の配慮だった。窓ガラスの修理の手配は息子さんたちがちゃっちゃと済ませていた。お子さんたちが成人されていて、友人も心強いだろうと話を聞いて思った。

 もちろん警察にも届け出たそうだが、こういった事件はもう日常茶飯事で、例え犯人が捕まったとしても盗品が戻る可能性は殆どないし、犯人もその日のうちに釈放されるそうだ。警察もパトロールはしているだろうが、何せあちこちで起こることで手に負えないらしい。犯罪に遭わないように気をつけたからと言って防ぎきれる訳ではない。もう、ルーレットに当たるようなものなのだ。

 私がこちらに来たばかりの頃は、車自体が盗難に遭う例も多かったし(カナダに越した義弟は、新車を狙った強盗に2度遭遇した)、車上荒らし?駐車されている車からオーディオが抜き取られる事件も多発していたようだ。アラームが車に搭載されていればまだ良いが、そうでない場合、車から離れる度にオーディオを抜き取って持ち歩くドライバーの姿もよく見受けられた。その後はオーディオが簡単に抜き取れるような仕様では無くなって、そんな光景はすっかり見かけなくなった。

 夫も2度ほど強盗に遭遇したことがあった。あれは日本の企業に勤務していた時のこと。日本からの出張者を社用車に乗せて、会社に向かっている途中での出来事だった。コツコツとピストルで窓を小突く強盗に日本の方は顔面蒼白だったそう。それはそうだろう。そんな経験をすることは人生長しと言っても滅多にない。車が防弾車であることを告げ、信号が変わるまでなんとか宥めたそうだ。強盗もその音で悟ったのだろう、執拗に脅してこなかったそうだ。

 2度目はローマからの出張帰りで深夜の空港に着いた日のこと。空港から拾ったタクシーで自宅アパート前に着き荷物を下ろしていると、バイクで付けてきた強盗が襲って来た。暫しの格闘の末、手荷物として持っていた鞄を奪われた。本人に怪我もなく、財布やカード、パスポートなどは無事だったが、社用のPC、デジカメが奪われ、返ってくることは無かった。それにしても格闘するって...…話を聞いて震え上がった。そんなことは2度としないで欲しい。

 20年ほど前まで一軒家暮らしだった義母の家にも強盗が押し入ったことが2度あった。空き巣ではなく、人がいるうちに押し入る手口。出勤する家族を見送って義母がガレージを閉める隙を狙って入り込む。電気の検針員を装って現れ、すっかり騙され招き入れてしまったのは2度目の時。その後義母義妹は、新築で見つかった近所のアパートに引越しを決めた。次も一軒家でと言っていたが、もはやそんな選択肢はなかったのである。

 サンパウロ街なかでの一軒家には「庭付き一戸建て」という概念はない。決して広くない敷地ぎりぎりに建物がたち、ガレージのためだけのスペース、そして鉄格子または電気柵ががっちりとガードする。広い庭で草花を育て家庭菜園をして、などという環境ではない。だから癒しを求めて、田舎にセカンドハウスを持つ方も少なくないのだと思う。このパンデミックの間に治安がますます悪化したせいか、一軒家の立ち退き、アパートの建設工事が急ピッチであちこちで進む。

 この国の人々の、外国人に対するおおらかさ、優しさには何度救われて来たか分からないが、治安の悪さには長年住んでも決して慣れることはない。

我が家正面に見えるアパートも大分立ち上がって来た。この小径にはずらっと一軒家が
並んでいたのだ。対面する家々も今に無くなってしまうのだろうか。よく見ると左奥にもアパートが建設中のようだ。


***


 少々暗い話になってしまったので、別の話題をもう一つ。今日はいつもの「金曜の朝市」の日だった。思いのほか暖かな日が続いて、先週のカーネーションが開ききってしまった。本番の日曜日まで保つかどうか微妙な状態になったので、あの「愛想の良くない日系の?おじさん」の店を再訪することにした。

  母の日=カーネーションという決まりがないこの国では、特別な時期とはいえその花に出会うことはなかなか難しい。今週は外出する度に方々の花屋さんを覗いたが、多分贈り物の主流は小ぶりの蘭の鉢植え。または薔薇の花束。その他は普段店頭に並ぶ花と大差ない印象だった。だからこそ、日本の伝統?を守っている、日系人のあのおじさんの店に行く必要があった。母の日にカーネーションはやっぱり必要だ。

 朝市での他の買い物を終え、財布の中身を確認すると(少しの現金しか持って出ないからここは重要)、行きとは反対側の入り口に向かった。今朝のカーネーションはどうかな?見たところ、分かりにくい場所のバケツにひと束しかない。これって売り物?お取り置き?ここまで来て確認しないわけにはいかなかった。

君は最後のひと束よ。

 幸い?おじさんは他のお客様をアテンド中。もう少し話し易そうな奥様に声をかけた。

「これって売り物?お取り置き?この他には無いのですか?」

 奥様はちょっとバツが悪そうに応えて下さった。

「お取り置きのはずだったのだけれど......。彼女は店じまい前に現れるか分からないのですよ。そう、これが最後のひと束になります。」

 少し話をしている間、彼女が日本語のワードを入れて来たのを聞き逃しはしなかった。

「2世の方?」

「いいえ、3世です。」


 結局、その最後の束を売ってくださることになった。ここまで接客中のおじさんの出る幕はなし。最後は「ありがとう」の言葉と共に見送られた。価格が先週より若干高めだったのは気になったが、特別な日の特別な花のためだ、仕方がない。


 14日は世界中のたくさんの国々(全てとは言わない)で母の日が祝われる。それぞれの母に想いを寄せる日だ。どうか皆さんにとって、心温まる日曜日になりますように。


  Feliz dia das mães 💐 母の日おめでとうございます。


追記
 ヘッダーの花は、アオイ科のキンゴジカ(金午時花)というそう。どこからか種が飛んできて、ベランダの花壇の隅で芽吹いた。まるで風車のような花弁が可愛らしい、小さく可憐な花だ。









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