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smashing! せわやきのうしろすがたに

白河夏己は、雲母春己の元後見人でフリーの弁護士。雲母とは実の親子以上に仲良しのダディ(仮)とジュニアだ。

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この出来事はきっとラッキーに変わる

視点を変えて転じさせる「災い転じて福となす」諺とは少し意味合いが違う。心痛める出来事であってもそれは全て幸運の素となる、白河が昔からずっと心に留めている言葉。

「大丈夫ですか?さ、肩をお貸しします」
「すまんなハル…それにしてもちょっと足ひねっただけでも、不便なもんだなあ」

年末から年始は長めの連休でもあったので、学生時代の友人たちと久しぶりに会い、雪山でアクティブに過ごそうとした白河は、見事に足首を捻挫してそのまま正月を迎えてしまったのだ。

「昔はな、インストラクター取ろうとしてたんだ」
「ええ、先生のスキーの技術は素晴らしいと思います。ただ今回はちょっと場所が悪かったんでしょうね」

新年早々、事情を聞いた雲母がヘルプに来てくれたせいもあり、ほぼ完治した白河の捻挫。皆には内緒にしておきましたのでご安心ください。何も言ってないのに雲母の察する力は相変わらず半端ない。

恋人の伊達や設楽と暮らすようになって、少し見ない間に雲母は料理の腕を上げていた。もともと凝り性で興味のあるものは何でも極めたがる質。お雑煮や酒の肴、白河の好物なんかを手早く作って出してくれる。白河は雲母の手料理を食べるという、ここ数年で最も贅沢な正月を過ごせたのだった。

ただ気になるのは、雲母が愛用しているというあの割烹着。体を包むようにピシッとしてて、服は汚れないし確かに機能的ではある。これと着物用とあと、伊達さんが買ってくださったピンクのもあるんですよ。少し得意そうに雲母が言う。お前らそんな何枚も。

シュッとした雲母が割烹着を着ても、全く圧迫感がない。幅というか厚みが薄いからだろうか。厚みが薄い、てのはおかしいけど。家中の細々した家事、自分のサポートを迅速にこなし、今度は洗濯物を取り込んできた雲母。なんか懐かしい映像だと思ったらこれ「おかん」だな。

「先生のお母様も、割烹着を愛用されていたんですか?」
「や、お袋はエプロンとか、あんまり気にしないタイプだったな」

「おかん」ていうか、和むよなその格好。白河が呟くと雲母は微笑んで、手元の洗濯物を畳み始めた。それにしても「きっちり」積んでいくものだな。寸分のズレもなくまるで本の山のように積まれていく洗濯物。この几帳面なところも最初は心配したが、雲母のそれは相手に押し付けることのない「完璧」。柔和で人のいい彼はいつもいい意味でマイペースだ。だからこそあの伊達が気に入っているのかもしれない。白河はちょっとだけ、そこが面白くなかったりもするのだが。

「先生、ホットケーキお好きでしたよね?ほらよくお手伝いさんがイチゴジャムをのっけてくださってて…」
「ああ!よく覚えてたな」
「今日僕はホットケーキに挑戦します。少し待っててくださいね」

甘さ控えめでお作りしますね、楽しそうにキッチンに向かう後ろ姿は、おかんどころか長身痩躯の格好いい美青年。そんな雲母を今日は独り占めしている贅沢。まさに痛い目が「ラッキー」になった。伊達くんには悪いが。


こうして俺のために右往左往してくれる春己を、たまには譲ってくれな。


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