見出し画像

smashing! なんとかなるとつたえて

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

鬼丸は休みの日、午前中が多いけどふといなくなってる事がある。一緒に暮らし始めた頃は心配してたりしたが、大体は大したことのない用事やコンビニが主なので、最近は気にならなくなった。

今朝目が覚めたら隣に鬼丸がいない。もう洗濯機が動いてるし服を脱ぎ散らかしてもない。ああ外行ったかな、そしたらキッチンからコーヒーの匂い。コーヒーメーカーを仕掛けてくれている。ちょっと嬉しくなった。至れり尽くせりだな。冷蔵庫開けるとウチにしては珍しくなんもない。や、なんもないというのは語弊があるけど、常備菜しかない。豆腐とか牛乳とか。ちょっと美味しいやつ、作り置きのやつとかが全然ない。それでも奥の方に突っ込んであった(ウチじゃ買わないやつ)杏仁豆腐のゼリー?を手に取る。おそらくモノノフ関係のだな。コーヒーをマグカップに注ぎ、リビングに移動。

休日の朝なんて、なんだか馴染みのない番組しかやってないもんだ。ぼんやりと画面を眺めながら、杏仁ゼリーを食べる。この風味が意外に鬼丸の淹れといてくれたコーヒーと合うんだ。鬼丸が帰ってきたら教えてやろう。

流石にこれだけじゃハラは収まらないから、重い腰あげてなんか作ろうかな。キッチンに立とうとした時、見てもなかったテレビの画面から、懐かしい曲のフレーズが聴こえた。あこれ知ってる。このくらいの時季だったかどうか定かじゃないけど。

たしか鬼丸と友達になってそんで、そのへんの知り合いと一緒に映画見たんだあの、大学の「シネマ鑑賞同好会」で。まさか今になって付き合えるなんて、一緒に住めるだなんて思ってもなかった頃。それでも俺は、鬼丸が大好きだった。鬼丸しかいらないと思ってた。

「ただいまあー。千弦、朝ごはん買ってきた!」

レジ袋を下げてひょろりと帰ってきた鬼丸。台湾の屋台のやつ売ってたんだ。あったかい肉まんやなんかをテーブルに並べはじめる。鬼丸が笑ってる、なんだかそれだけで胸が熱くなる。黙ったままの俺を訝しげに見て、えこれダメだった?なんでか謝ってくる鬼丸をいきなり抱きしめたくなって。

ああ、あの曲のあの言葉がいちいち、今も胸の中で痛みながら踊るんだ。でも今なら俺は言ってやれる。そん時の俺に。


大丈夫、なんとかなるぞ、って。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?