見出し画像

smashing! のぞみときたいのさぶん

「伊達さん、ちくわ平気ですか?」
「…ごめ設楽、なんて?」
「ちくわ。細かくして入れるんですけど」
「えっと、じゃ、お願い」
「御意」

オムライスにちくわ。うんうん、想像できないことってっ結局、別次元への入り口よね最高のハーモニーが待ってるんよね。伊達は鼻歌を歌いながら、台所に向かう設楽の後をついていく。

「ちくわ、そんな細っかくすんだ?」
「ちくわ感を消すっていう技術なんです」
「ああ、そういう…」

玉ねぎ、ピーマンみじん切りも入れて手早く仕上げられたチキンライス(ちくわライスだけど)を薄焼き卵で器用に包み、設楽は仕上がったオムライスを居間のテーブルに並べる。手にはケチャップの容器。

いつものようにケチャップでリクエストを書こうとして「まさむ」までしか入らなかった。上からざっと大きなハートで締めくくられ、そのまま伊達の前に。もーお前わかんないわあ。伊達はぶつくさ言いながら満更でもない様子。

「あ、うん旨いわこれ!あっさりしてんね」
「家族多いと意外にヘルシー志向なんです」
「…ちょっと炭水化物多いかねえ」
「御意」

大盛りオムライスをそれぞれ完食し、片付けを終えた設楽が缶ビールを手に居間に戻ると、伊達は座布団を枕に大の字になっていた。今日は少しだけ肌寒い。大抵窓が開けっ放しな伊達の平屋は流石にカーテンを開けてあるだけ。設楽は手近にあったブランケットを腹の上に掛けてやり、軽い音を立て缶ビールを開ける。

「あ俺も」
「起きてたんですか」
「なんかあ、ちょっと寒いんよね今日」

伊達は設楽の膝に半身を乗り上げる感じで暖を取る。固いねえ。猫ですかあんた。それでも双方暖かいのでよしとして、テレビをつけようとした設楽の手を取り、枕のように伊達は頬を乗っけた。指先でその顔を擽りながら呑みかけたビールが設楽の口元から零れ、思わず伊達が声を上げる。

「冷たっ、設楽はもー」
「あ、ビール臭が。ちょっとじっとしてて下さい」
「ちょっおまそれ台拭き!やーめーてーえーーー!」

大丈夫問題ないです。設楽はビールを一口含むと、伊達の顎を掴み徐に口移し。伊達の声なき抗議は苦い泡と一緒に飲み込まれ、そのうち味なんか消え失せて。設楽の固い膝の上のはずが畳の上で、ブランケットの代わりになんでか設楽が被さってて。やっぱり今日もなし崩しなんよね、しかも特に重いね今日。そんな時、伊達は気づいた。

アレ?これ、寝落ちてね?

お腹いっぱいの炭水化物の弊害とは。静かに低い寝息を立てる設楽の下から何とか抜け出し、伊達はブランケットで設楽の体を雑に包む。さて風呂でも入ってくるかな。そう言いかけた伊達は設楽の寝顔を覗き込む。

「拍子抜け、てやつねえこれ」

期待してたことが外れて初めて、期待してたことに気づく。期待かあ。俺は最近そんなのばっかよね。嬉しそうに笑いながら、伊達は風呂場に向かった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?