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『学習する組織』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(9)第5章その2 p136~

 第5章の中盤くらいからは、システム思考の中核概念の一つである「フィードバック・プロセス」のパターンとそれがもつ意味が語られることになる。

2つの影響関係

 システムの中の2つの構成要素を結ぶ関係に流れる影響関係は大別すると2つの種類しかない。この影響関係については『学習する組織』の第5章では、直接取り扱っていないが、「フィードバック・プロセス」の2つの基本型を構成する基礎部分の話でもあるので以下に簡単に書いておく。

 それは、
 ①ポジティブな影響関係
 ②ネガティブな影響関係
 である。

 ポジティブな影響関係は、ある構成要素がある方向へと変化したとき、もう一つの構成要素を同じ方向へと変化するように作用する。このとき、数量的に測定できる変数として想像するとより理解しやすい。ある変数(X)が増えたとき、もう一つの変数(Y)も増えるならば、それをポジティブな影響関係にあると見る。これがもし、Xが減るならば、Yも同じように減ることになる。

 ネガティブな影響関係はポジティブな影響関係の逆である。つまり、ある構成要素がある方向へと変化したとき、もう一つの構成要素が逆の方向へと変化するように作用する。ある変数(X)が増えた時、もう一つの変数(Y)が減るならば、それはネガティブな影響関係である。ネガティブな影響関係のもとでは、もしXが減れば、Yは増えることになる。

 システム思考では、影響関係をこの二種類に単純化しかつ限定することによって、システムを構成する構成要素の数が増えても、システム全体の動きについて推測ができるようになっている(そうはいっても人間にとっては十分複雑ではあるが)。また、コンピュータ上でのシミュレーションもできるような形式にできたことはその応用可能性を大きく広げるものになった。

フィードバック・プロセスの2つの基本型

 前項で扱ったポジティブな影響関係とネガティブな影響関係を組み合わせて「フィードバック・プロセス」を構築していくと、二つの基本パターンが生まれてくる。

 その2つとは
 (A)自己強化型のフィードバック・プロセス
 (B)バランス型のフィードバック・プロセス
 である。

 (A)自己強化型は「継続的な成長」もしくは「継続的な衰退」の原動力である。その動きを観察していると、良い方向にも悪い方向にも関係なく、ある傾向が強化されていく。「雪だるま式効果」、「バンドワゴン効果」(行列先頭の楽隊(バンドワゴン)に引きよせられることがきっかけになって人が人を呼ぶこと)、とも呼ばれる。
 最初は自らの思いが先行して小さな行動を起こすだけだったものが、相手の反応も手伝って徐々に強化されて現実のものとなる「自己成就予言」(「ピグマリオン効果」)なども、この自己強化型フィードバック・プロセスの結果として解釈できる。
 自己強化型は、強化される方向がその人にとって良いものであれば「好循環」と呼ばれることになり、強化される方向がその人にとって好ましくないものであれば「悪循環」と呼ばれる

 (B)バランス型は、ある水準を保つように働く。「安定」や「恒常性」をもたらすフィードバック・プロセスであるといわれる。ある「目標」に向かってそれを達成するように働く「計画に沿った行動」もバランス型のフィードバック・プロセスである。別のところから、その「目標」から離れようとする動きが起こったとしても、それを打ち消すように力が働く。
 ある「目標」を達成したいと思うマネジャーにとって、活動の現場にバランス型のフィードバック・プロセスが存在することは目標達成のための大変心強い力であろう。それと同時に、その「目標」を好ましく思わない(もっと高い目標や別の目標を達成したい)マネジャーにとっては、何をしてもその「目標」の方に引き戻されてしまうことになるため、そのフィードバック・プロセスは手強い抵抗力と感じられるだろう。

 この2つの基本プロセスは、それぞれどちらが良いとか悪いとかいうことではない。「良い」とか「悪い」とかを決めているのは、そのプロセスを見ている(多くの場合、その影響を受けている)人である。

影響の伝わるスピード

 システム思考では、この2つの基本プロセスに、影響力の伝わるスピードという考慮すべき点が加わる。システムの一部となっている人間は、望む結果を得ようとシステムに影響を与えるべく行動するが、その結果が得られるまで時間がかかることがある。すなわち「遅れ」て結果が出てくる。

 そのシステムにおいて、すぐに行動が結果に反映されるのであれば結果を得るための行動量も調節しやすい。しかし、すぐに結果がでてこない、いつ結果が出てくるかわからない場合では、行動する側が結果を望む気持ちが強ければ強いほど必要以上に行動を重ねてしまい、結果として必要以上の反応をシステムの中で生み出してしまうことがある。
 古びてなかなか開かない重たいドアを想像するとこの「遅れ」に関する失敗がイメージできる。時間をかけて少しずつ力を増やしてドアを開けていけば良いものを、短い時間で開けようと必要以上に力をいれすぎてドアを壊してしまったり、あまりにも勢いよく開けたことで体制を崩して怪我をしてしまうような場面を思い描く人は多いだろう。
 森林の開拓や水産資源の乱獲などの地球環境の生態系破壊問題においても、私たちはこの「遅れ」の罠に嵌っている可能性がある。木を切った瞬間に気温上昇は起こらない。魚を取った瞬間にその魚が取れなくなることはない。しかし、ずっと後にそして別の場所で異常気象が起こったり、別の種が以上繁殖したり、総個体数が激減しているといったケースは至る所で見られている。
 時間も貴重な資源とみなし、即効性や生産性を追い求める現代社会と私たちにおいて、影響力の「遅れ」は決して軽視できるものではなく、われわれの中の欲が絡んでいるだけに、何よりも慎重に取り扱わねばならないものである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 まず、システムの要素の間を結ぶ影響関係をポジティブとネガティブの2種類に絞っていることをどう考えるかがある。レゴ®︎ブロックには、さまざまなパーツがあるので、2種類以上の影響関係を表現することが可能である。パーツの多様性は人々の中に眠る影響関係についての内観の多様性をより反映できるという点おいて利点がある。一方で、影響関係の表現の多様さは、フィードパック・プロセスの種類も爆発的に増える(同じものはない)ことを意味する

 フィードバック・プロセスの種類が増える(同じものはない)ということは何を私たちファシリテーターに示すのだろうか。

 それを考えるために、例えば、以下の写真のように、3つの要素の間をつないでフィードバック・プロセスを、参加者が作った場合を考えてみよう。参加者にはこの写真のモデルを指差しながら語ってもらう。参加者は「灰色の棒は、植物が草食動物(赤と黄色のかたまり)の餌になることを表していて、動物から出る黒から赤のチューブは、動物は捕まっていやいやながらペットになり人間の気持ちに癒しを与えていることを表しています。人間から植物に出ている鎖は気にせず歩くときに植物を踏みつけています」と説明する…

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド的なフィードバック・プロセスのモデル

 この写真で表現されている異なる3つの影響関係の個別は大変興味深いものだが、大事なのは「全体を見る」ことである。システム思考では、影響関係を単純化することで、「全体を見る」ことも容易くしている。「自己強化型」や「バランス型」がどこに見られるかを探して考察するということである。
 つまり、上記のモデルをシステム思考が行なっていることと同じように取り扱おうとするならば、参加者にこのフィードバック・プロセスがどのような性格であるか(このシステムの部分となっている人にとってどのような意味をもつものか)について考察をさせることになる。それは同時に、その考察を助けるファシリテーションをファシリテーターにも求められるということでもある。
 ファシリテーターにとって、レゴ®︎シリアスプレイ®︎でシステムを扱うならば、そこで作られたモデルの「全体を見る」ファシリテーションのスキルを上げておくことは必須である

 「全体を見る」こともう一つの方法は、『学習する組織』でも扱われているシステム思考の手順に可能な限り合わせて、レゴ®︎シリアスプレイ®︎でも表現してもらうように促すことである。
 例えば、ポジティブな影響関係とネガティブな影響関係を表現するときに、それぞれ赤と黒でパーツの色を指定して組み立ててもらうといった具合である。また、影響関係の「遅れ」についても、以下の写真のようにある程度は表現できる。この場合、左側のプレート(濃緑)が動いたとき、右側のプレート(濃茶)がどう動くかで表現している。

結び付け方のサンプル

 このルールに従ってシステムを組むと小さなフィードバック・プロセス(要素が3つとか4つ)では、基本的なパターンについての知識を使うことができるので、ぐっと理解しやすくなる。

システム思考に近づけた表現

 上記の写真の場合、赤がポジティブな影響関係、黒がネガティブな影響関係で、左回りに影響が循環しているとすれば(型の判断の詳細は省くが)、バランス型のフィードバック・プロセスであると簡単に判断できる。

 上記の写真のような結びつけ方は、標準的なシステム思考とレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの良いとこ取りのようなものを狙っているが課題もある。
 例えば、実際には、システム思考では多くの要素からなるシステムを対象に分析をする。すると、少なくとも以下のような写真ぐらいにはなる。

 この要素が多いシステムのモデル全体を直感的に把握することは難しい。ちなみに、標準的なシステム思考の方法でも紙やコンピュータ・スクリーン上にシステムを書くので、レゴ®︎シリアスプレイ®︎での表現より把握しやすくなることはない。経験上、3Dのモデルになっている分だけ、循環のプロセスは追いやすい。

 もう一つ、コンピュータ・シミュレーションを使うと、時間とともにシステム全体もしくは特定の要素がどのような振る舞いをしていくのかについて考察できるのであるが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで表現する場合には、どうするかという問題が残る。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにおける時間推移のシミュレーションについては個人的なアイデアはあるが、まだどのくらいうまくいくか、この原稿の執筆時点では検証していないので、それを試してから改めて紹介したい。

 今回、紹介した「システム思考」の標準的な方法に合わせて関係性の表現を限定するという方法は、あくまで一つの方法である。もしかしたら、もっと良い方法があるかもしれない。別のアプローチも含めて、今後もその方法を探っていく必要があると思われる。

 今回はここまで。次回からは第6章へと進めていきたい。

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