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「味噌屋の息子だから味噌つくれるよね」と言われてタイに…醸造と運命をともにする男、五味仁。

「企画でメシを食っていく2019」、今回のテーマは「食の企画」

ゲスト講師は東京農業大学で醸造と経営を勉強。卒業し、タイの醤油メーカーに3年勤務した後、実家の五味醤油に入社。味噌づくりのワークショップを各地で開催するなど精力的に活動をされている、山梨で150年つづく味噌蔵「五味醤油」六代目、五味仁さんをお迎えしました。

自分も醸造をやってもいいかもしれないと思えた。

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「東京農業大学時代、奈良の醤油屋さんが大学の先輩で、訪ねた際にど派手な車で迎えに来てくれました。その時にこんなファンキーな人でも醸造をやっていいんだ。僕もやれるかもしれない、と思ったんです」と五味さん。

五味さんはつづけて話してくださいます。

「真面目な人しかいなかったら醸造はやらなかったかもしれないです。でも、その先輩も蔵に入ったら真剣に醤油の話をしていて、ものづくりをきちんとすれば、自分のままでいいのだな、と」

自分もやってもいいんだと思えることって、すごく大事な転機ですよね。とモデレーターの阿部さんも頷きます。

タイで身につけた、あるものでどうにかする精神。

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大学卒業後、一度就職してから家業を継ごうと考えた五味さんはなんとタイの醤油メーカーに就職するのですが、その経緯も驚きです。

色々なメーカーに話を聞いていた中で、タイに工場を持つとある会社から

「味噌屋の息子だから味噌つくれるよね。2トンつくってね」

そう言われたことが入社のきっかけなのだとか。冷静に考えると、すごい無茶ぶりです。

現地でも「工場にあるもので味噌つくれるよね」と言われ、とっさに「できます!」と言ってしまった五味さん。「あるものでどうにかする精神」は3年間のタイ生活で身につけたそうです。

他にもタイで身についたものは接待力。それは今もラジオ「発酵兄弟のCOZY TALK」で活かされているのだとか。

「ラジオは人を呼ぶための装置なんですよ。そして県外から来てくれたゲストとその後も関係が続いていくのは、タイでの接待力が役に立っているのかなぁと思います」

また、いきなりのタイ生活で言葉のやり取りはどうしていたのかという阿部さんの質問には、「3カ月でタイ語が分かるようになるんですよ。頭がタイ人になる。」というパワーワードな返答。

他にも「タイが日本と違うところは配達の車からガソリンが盗まれることですね。それで社長に相談して犯人を見つける。仕事ができて人当たりがいい奴は1番危険です」このエピソードには思わず会場でも笑いが起こりました。

世の中に広まったときのことを想像する。

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日本に帰国。五味さんが五味醤油で、最初に手掛けたものが「レッツ手前みそ!」という味噌づくりのワークショップでした。

「味噌づくりは1人より、みんなでつくる方が楽しいんです。毎年来る方はつくる量が増えるのですが、それは人に配る用なんですよね。自分がつくったものを人にあげたい!という気持ちは、人のDNAに組みこまれていると思うんです」と五味さん。

それから、妹の洋子さん、洋子さんが働く会社でデザイナーをしていた小倉ヒラクさんと協力して「手前みそのうた」をつくることに。

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「食育の側面もある味噌づくりを、自分も楽しみながらキャッチーなものにできるのは歌だと思いつくったんです。そこで意識したのは、世の中に受け入れられた時に汎用性があるかということです」

「親には、会社でお金を出してつくっているのに、五味醤油の「ご」の字もないじゃないかと怒られました(笑)でも、日本中どこでも使える歌だったら、誰でも食育として使えるんです」

実際に、この「手前みそのうた」は新聞に取りあげられ、絵本を出版するまでに。

自分たちのブランドや地域を押し出したくなるところをグッとこらえ、なによりも世の中のためを優先させることは、なかなかできることではありません。

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また現在、五味さんは、コーヒー屋さんに味噌蔵を貸しているそうです。五味醤油のお客さまがカフェに行ったり、カフェのお客さまが五味醤油に来てくれたりと嬉しい化学反応もあるのだとか。

しかし、そこも普通であれば、なにか関連づけるコラボをしたくなるところをあえて分けることで、お客さまがコントラストを楽しめる仕組みにしています。

人が醸し出す雰囲気を、ぼくは大切にしています。

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とても自然体な五味さん。無理して人と出会おうとするのではなく、自然と縁が繋がり、仕事になっていく印象をうけました。

では五味さんが一緒に仕事をしたいと思う人は、どんな人なのでしょうか?

「なんとなく雰囲気で合うなと思う人ですかね。人が醸し出す雰囲気や空気感を大切にしています。自分の思っていることを真っすぐにぶつけられる相手は少ないじゃないですか。だからこそ貴重ですよね。肩書きよりも雰囲気です」

また「発酵」という言葉の広がりについてどう思うのか、という阿部さんの質問に対しては―――

「3.11の東日本大震災でみんなの意識が変化したように思います。震災以前は食にこだわる人しかお店に来ませんでしたが、震災以降はおばちゃんも来てくれるようになりました。生活を見直すときに、一番敷居が低くて入りやすいのは味噌だったのかもしれません」

「そして3.11は(微生物などの)見えないものを信じるきっかけにもなったと思います。手づくりすることで、全部が全部上手くいかなくても、自分がつくったということでおおらかになれます。だから、ぬか床とかつくって失敗すればいいんじゃないですかね?そうすることで発酵食品に対して敬う気持ちが出てくると思うんですよ」

自分が好きでやりたいことは筋を通す。

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講義の後半は、五味さんが用意してくださったセゾンというビールで乾杯し、スタートしました。いつもとは少し違う雰囲気に、阿部さんも思わず「いいですねぇ…」と一言。

和やかな空気の中、課題講評にうつります。今回の課題はこちら。

2020年3月に開催予定の「KOFU HAKKOU MARCHE」で見たい・体験したい、もしくは実際にやりたいコンテンツを企画してください。

「実物つくってきたら良かったね、その方が情報量があるから」と五味さんからのアドバイスや、具体的なブラッシュアップも考えてくださり、実現の可能性があるものもちらほら。

中には「発酵」と「発光」をかけて、以前自作した中の食品が光るふたを持参する企画生も。

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講評が終わり、最後に阿部さんから

「五味さんにとって、企画するとはどういうことですか?」

という質問が投げかけられます。

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「続けていくにもエネルギーがいるので、自分が好きなことやる。そして一緒にやるなら雰囲気が合う人とやる。これを大事にしています。やりたいと思うことがあれば、利益度外視でも仕事を受けます。一方でお金をもらえても、世の中のためにならないことは断ります」と五味さんは答えます。

二つ返事でタイに行ったり味噌づくりをしたりと、流されずに、しかし流れに乗ってきた五味さん。

軽く「いいよ!」と言ってしまったのを悔やむこともあったそうですが、失敗も楽しんでやるぐらいの気概をもつことが大切なのだとおっしゃっていました。五味さん、ありがとうございました!

ライター:市川怜美
サムネイルデザイン:小田周介
写真:加藤潤


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