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Maho Okumura
2021年10月10日 07:00
「好きなだけ頼んでいいよ」といわれると、逆にひるんでしまうのはぼくだけだろうか。「うち、お金だけはムダにあるから」みずきは探検地図をひろげるようにメニュー表を豪快にひらく。「ほんとにだいじょうぶ?」不安になってたずねると、みずきは漫画のキャラみたいに目をきりっとさせて、ポケットからとりだした一万円札をぴーんと伸ばしてみせた。ほんとうにだいじょうぶなのだろうか。みずきがなにを考えてい
2019年10月25日 16:56
ー船出ーある秋の日。日曜日の午後、2時42分。ひとりの船乗りが海に出た。ちいさな船だった。海に流れ落ちる雨粒ほどにちっぽけな船だった。船乗りの身体もまた、ちいさく儚く、無力だった。薄く柔らかい皮膚に微かな吐息。動物の本能をコットンで包んだような危なっかしさを身にまとった生き物は、生命を維持するだけで精一杯のように思われた。海に出たはいいが、船はこれっぽっちも進まない。船乗りはオールの握