その理由は/ひとりぼっちの手袋たち
「手袋が道端に落ちる季節になったね」と、妻が言った。
「靴が落ちているよりは怖くないよね」と、僕は返した。
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手袋が落ちる理由は、想像に難くない。
ピンクの小さな手袋は、きっと自転車の後ろに乗った小さな子が落としてしまって、もしかしたら今ごろお母さんに「落とさないようにって、言ったじゃない」なんて言われているかも。
黒い大きな手袋は、スマホでも取り出したのか。片手だけ外して、自転車に乗っていたおじさんのものだろう。
少し細身のファーみたいなのがついた手袋は、駅に向かうマダムの姿が見える気がする。駅に着いたらはめようと、小走りに急ぐそのバッグからほろりと落ちたのか。
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できれば、手袋の持ち主に、その片割れの元に、帰れたらいいのにと思いながら、僕らは今日もひとりぼっちの手袋をみつけるのだ。
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