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ホタルの記憶

ホタルが、わく。
たくさんのホタルが、川面(かわも)にわんと飛び交うようすのことです。

私の記事『未来へつなぎとめる、未来へつなぐ』(2024.8.22)で、
私は、次のようにつづりました。

私の少年時代のことが、よみがえってきます。カブトムシやクワガタは、どうやって捕まえたか。川面に乱舞するホタルは、どうやって捕まえたか。もぎたての真っ赤なトマトは、どんな味がしたか。湧き水につけられたスイカをどうやって食べたか。お寺の境内での朝のラジオ体操の前にみんなとどんな遊びをしたか。ひぐらしの森のにおいはどんなだったか。黒電話はどんな音で鳴ったか。私の記憶の中に、その「答え」が確かにあります。

(→この記事の最後に、全文を紹介しています)

私は、川面に乱舞するホタルをどうやって捕まえたか。

それは、私がまだ小学生だった頃のことです。
6月のはじめごろだったでしょうか。日が落ちて、いなかにおだやかな夜がやってきます。「ホタルを見に行こう!」と、夕食を終えた家族の意見が一致します。兄弟姉妹と父と母。みんなで出かけます。出かけるといっても、徒歩で5分ほど。水田に水を引くために使っている川までです。川幅は約1メートル。「あっ、ほら、もう飛んでる、飛んでる!」。弟がまっ先に走り出します。手に持っているものは、当時、家の中で使っていた「長ぼうき」。そう、ホタルは、この長ぼうきで捕まえるのです。捕まえるというより、ほうきの先端の平筆状の部分で、舞うホタルをふわりと軽くすくいとるという感じです。私も、一本持って駆け出します。ホタルは、昼は川そばの草の葉の裏で休んでいますが、日が落ちて暗くなると舞い始めます。時間がたつうちに、さらに多くのホタルが川すじに舞い出します。「ホタルが、わく」と表現するのは、この時のようすです。

「うわぁ、すご~い!」
「ほら、あっちにも、あっちにも。」
「そっちへ行ったよ~。」

捕ったホタルは、妹の虫カゴに入れます。その中には、川そばに生えている草も入れておきます。あっという間に、虫カゴはホタルでいっぱいに。家に持ち帰った虫カゴを、家の前の川に虫カゴごとザブンとつけて、サッとあげます。中のホタルの光がひときわ大きくなります。(実は、ホタルは成虫になると、水しか飲まないのです。)
指先にホタルのにがいにおいが残ります。

今振り返ってみると、ぜいたくな、それはそれはぜいたくな時間が流れていました。

大人になってから分かることですが、
ホタルの生息には、条件があります。
川の中で過ごす幼虫のころにえさとなるカワニナがいること。それほど深くない水深とゆるやかな水流。幼虫がさなぎとなるためにのぼりついていける川そばの環境。これらは、コンクリートでかためられた現代の側溝にはない環境です。……ホタルが見られなくなるはずです。

私の中にある「ホタル」の記憶。
再現のかなわない「あの夜」。

忘れてしまわないように
このnoteに書き留めました。

みなさんのまわりに、ホタルは舞いますか?


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