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自分のため10

この1年、タワマンでの生活が維持出来るくらいには仕事を頂けていて、本当にありがたく思っている。
それでも漫才の仕事だけはこなくて、漫才がしたくて仕方がなかった。
勿論、兼近不在なのでどうしようもないことだと分かってはいる。
漫才は相方がいなければ出来ないのだから。
俺は今でもEXITで、俺の相方は兼近しかいない。
この1年もずっと、EXITのりんたろーとして活動してきた。
それはこれからも変わらない。
だからこそ他の誰かではなく、兼近と漫才がしたい。
無理だと分かっていながらも口をついた言葉に、自分でも呆れた。

「いいですよ」

ほんの一瞬考える素振りをみせた兼近が、パッと笑みを浮かべて言った。

「え、いいの?漫才だよ?君笑い声ないと楽しくないって」

「まぁまぁりんたろーさん、俺にいい考えがあるんで!」

「いい考え!?」

その言葉は俺にとってただのトラウマでしかないけどな!!
声を大にして言ってやりたい!!

でも、あの時と同じ笑みを浮かべる兼近の案に、結局俺はノッてしまうんだろう。

あの時俺が引き止められていたら、また違った今があったのだろうか。
結局兼近に絆されて、同じ今だったかな…

「とりあえず俺準備しないとなんで、帰ります」

「は?準備?帰るってどこに?」

「はい、りんたろーさんはネタ2、3本用意しといてください。明日の昼ぐらいには戻るんで!それからネタ合わせしますから!お願いします!」

「あ、おい!兼近!!」

ベランダから飛んで行った…
アイツ絶対俺が出れないからベランダにした!
何?
ネタ2、3本?
明日の昼までに?
それからネタ合わせ?

兼近の言葉に俺の頭の中はグチャグチャだ。
本当にいい考えなのかは分からないし不安だけど、ワクワクして、楽しいと思ってしまう自分がいるのも事実だ。

まだ何も起きていないのに楽しいと思える俺は、やっぱり兼近がいないと楽しめないんだと再認識した。

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