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こうして書くことはもしかすると……。

なにか得意なものがあるのなら、その得意を使って世のため人のために尽くさなければならないと思っているタイプの人間だ。

じゃあ私にとっての得意はなんだろう。

書くことだろうか。うーん、得意かはわからないけど、少なくとも好きではある。それが世のため人のためになっているかは別として。


ノーベル文学賞は物を書く人にとって最高の栄誉。芥川賞も直木賞も三島由紀夫文学賞も栄誉。noteの創作大賞も栄誉。栄誉エーヨ栄誉。

栄誉がほしくて応募するはずだけど、本当のところ私たちは何を欲しがっているんだろう。なぜ応募するんだろう。

何かを受賞すると、読んでくれる人が増えるからいいのか。有名になって影響力を持てるからいいのか。お金に繋がるからいいのか。不特定多数に褒めてもらえるからいいのか。自分の中の欲が満たされるからいいのか。それともぜんぶなのか。

憧れられたい、みたいなのもあるんだろう。声にならない嫉妬の対象として見られたい、みたいなのもあるんだろう。尊敬されて評判を高めたい、みたいなのもあるんだろう。


承認への飽くなき欲求。この社会。


ところで手塚治虫ってなんで漫画を描いてたんだろう。藤子・F・不二雄も石ノ森章太郎も。円谷プロダクションはなぜウルトラマンを作ったんだろう。やなせたかしはなぜアンパンマンを?

娯楽、エンタメ、癒しの提供。
好きと得意の飽くなき追求。

好きが講じて夢中でやっている人には勝てない。妥協なき作品作りを徹底する人には絶対に勝てない。プロとアマは覚悟の重さがちがう。そう、プロとアマは覚悟がちがう。


手塚治虫も藤子・F・不二雄も石ノ森章太郎ももちろん好きだが、個人的にはアンパンマンの生みの親である「やなせたかし」が1番好きだ。

母曰く「ダーキが1番最初にしゃべった言葉は『アンパンマン』だったよ」とのことで、折に触れてアンパンマンに勇気づけられることが多かった。大きくなっても。

『アンパンマンのマーチ』『勇気りんりん』の2曲を聴けば、不思議なことに涙がこぼれる情緒不安定な大学生だった。

作詞したのもやなせたかしだというではないか。彼は漫画家である前に詩人でもある。


やなせたかしは遅咲きで、手塚治虫や藤子・F・不二雄などの天才たちとくらべれば周回遅れの人生だった。なぜなら彼がアンパンマンを作ったのは50歳のときだからだ。さらにアンパンマンのアニメ化が決まるのは彼が69歳のときである。

やなせたかしの人生はすごい。

便利屋として陽の目を浴びずに過ごしてきたやなせたかしは「どうせなら自分の哲学を反映したものを作ろう」と一念発起してアンパンマンを作った。大ヒット。アンパンマンはこれまでの天才たちのどの作品もぶちぬく。

彼は言う。

「生きるって、満員電車に乗ることみたいなもの。すごい満員電車でもずっと降りずにいれば、ある時席は空くんです。僕なんて終点近くでやっと座った」

アンパンマンを作ったとき、手塚治虫も藤子・F・不二雄も石ノ森章太郎もみんな、電車を降りていた。やなせたかしは途中で降りることもできたけど、彼は降りなかった。

運をつかむためには続けることがだいじ。

当たり前すぎるが彼が語ると納得できる。


やなせたかしは94歳で亡くなる。晩年、やなせたかしは「もう休ませてくれ」と周りに言っていたそうだ。早く引退したいと。

しかし亡くなる2年前に東日本大震災が起きる。

被災地のラジオで『アンパンマンのマーチ』が流れたらしい。落ち込んでいた子どもたち、笑顔を失ったお母さん、ラジオから流れる「そうだ うれしいんだ 生きるよろこび たとえ 胸の傷がいたんでも」をみんなで大合唱。それからも連日あの曲が流れた。

やなせたかしが受け取った少女からの手紙にはこう書いてあったそうだ。

「私はこわくないよ。アンパンマンが助けにきてくれるから」


これを見たやなせたかしは「生涯現役」を心に決める。齢92歳、満身創痍の彼は生涯最後の仕事と覚悟して、被災地にアンパンマンのポスターを贈った。

ああ アンパンマン やさしい君は
いけ みんなの夢 まもるため


被災地でこのポスターを見た自衛官が「おれががんばらないで誰ががんばるんだ。みんなの夢をまもるんだ」と思った、なんてキレイなエピソードもある。

震災の実態を知っているようで知らないから、こういう美しい話だけにフォーカスしてしまう自分が恨めしいけれど。


アンパンマンはみんなを励ます正義のヒーロー。

みんなの夢をまもるために活躍するヒーロー。

生きるよろこびをだれかに与えつづける。

やなせたかしは人生最後の仕事を通して、彼自身がアンパンマンになったと言える。

うえーん、アンパンマーン!




承認された先に社会への貢献欲が出てくる。貢献欲は使命となり大義となる。


だれかに認められたい、と思っているうちはまだまだで、目の前のことを愚直に続けなければならない。続けた先に使命がでてくる。

なにか得意なものがあるのなら、その得意を使って世のため人のために尽くさなければならない。

こうして文章を書くことはもしかすると、だれかの夢をまもっているのかもしれない、と思ったりもする。


だから運をつかむためにはコツコツと。


なにが君のしあわせ、なにをしてよろこぶ。


なんだろうね。


〈あとがき〉
アンパンマンについて初めて書くなぁと思ったら過去に書いてました。やなせたかしのwikipediaはめちゃめちゃおもしろくて、彼の人生の足跡をたどると遅咲きの大成功例と覚悟の大切さが学べると思います。彼が作ったものってなんだか泣けるんですよね。今日も最後までありがとうございました。

【関連】過去に書いたアンパンマンな記事

【参考】やなせたかしの生き様はコテンラジオで

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