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シロとの記憶

小学校1年生の時,

舗装された田舎道に家があった。

歩いて通学していたのだが、

どこからか、

猫のか細い泣き声が聞こえてくる。

よく聞いてみると、

側溝辺りで鳴いているのに気付いた。

そこには、

生まれたばかりの仔猫がいた。

まだ目が見えていない様子で、

ピンク色の肌が見えていた。

あまりにもかよわい声に

可愛そうになってしまい

仕方なく家に連れて帰った。

小さい身体で力を振り絞って

命の限り鳴いている仔猫を

抱いているうちに、

愛おしく感じていた。

両親が家に帰ってきた時に、

仔猫のことを話したのだが、

父親は反対していたが、

私が責任をもつということで、

「シロ」と名付けて

大事に飼うことにした。

日に日に元気に成長していくうちに

いつのまにか家族の一員となり

欠かせない存在となっていった。

いたずら好きで甘えん坊な性格で、

夜は毎日のように「シロ」と一緒に寝ていた。

小学校3年生が終わる3月になり、

父の仕事の都合で、

その家を引越さなければいけなくなった。

今まで楽しかった

学校の友達と離れることは寂しかったが、

何より問題となったのは、

「シロ」を引越先に連れて行くか

ということだった。

家族会議をすることになり、

私は絶対に放したくないと思い、

何度も連れて行きたいと言った。

3年程の間ではあるが、

大事に育て一緒に暮らした

家族の一員の「シロ」。

しかし、母から

「猫はその土地に住む生き物だから,

知らないところに連れて行ってしまうのは

シロにとってかわいそうだよ」

と言われた。

納得いかない中ではあったが

泣く泣く隣のやさしいおばあちゃんに

あずけることになった。

引越の日,

トラックに荷物を積み込んで

住み慣れた家をあとにすると,

「シロ」は家の軒下に座っていた。

何をどう思っていたのだろう。

車に乗った私の方を

「シロ」は、ずっと見つめていたのだった。

その姿を見ると、

涙が自然と溢れてきた。

ずっと「元気でね」って

心の中でずっと言い続けていた。

あの時、

私を見つめる

「シロ」のやさしい視線は,

今でも私の記憶に

強く焼き付いている。

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「ねこⅡ」 油彩/キャンバス
きはらごう

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