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こうして経験もお金もない彼女は起業した

「起業するには、相応の経験やお金が必須だと言われました。そうなんですか?」

そう質問する彼女は、社会人2年目の会社員。学生時代からいつか起業したいという夢をもっていた。やりたいビジネスは「カフェ」であったり「飲食店」であったり、まだぼんやりしている。

彼女の話はこうだった。

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私には人に自慢できるような特技がない。でも、昔から料理が好きで、人と接することも好きだ。だから、起業したいと思ったときに最初に浮かんだのはカフェや飲食店。地元の人たちに愛され、交流のきっかけになるような、場所をつくりたかった。

でも、特技がないだけでなく、実績もお金もない。いま勤めているのは中堅のIT企業で、カフェや飲食店とは何の関係もない。就職を決めた理由は「内定をもらえた中で一番良さそうだった」から。当時はまだ起業について真剣じゃなかったのも理由の一つだ。自分に自信があるわけでもないし、意志もたぶん強い方じゃない。家族や親類にも起業家がいるわけじゃない。

つい先日、友人から「起業には相応の経験やお金が必要だから甘くみないほうがいい」と言われた。その友人はアクセサリーを制作してネットショップで販売している。それだけでは暮らしていけないから、派遣社員としてコールセンターでも働いている。

実際にネットショップを立ち上げて、自分で稼ぐために頑張っている友人から正面きって言われてグサッときた。いつまでたっても同じようなことばかり言っている私への、たぶんちょっとした冷や水だ。

やっぱり、起業するには、相応の経験やお金が必須なんですか?

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同じような不安を抱えている読者もいるのではないだろうか。

実際、お金も経験もなくて自分に自信がなくても、「もうこれ以上はやりたくない」と思うくらい本気でビジネスに打ち込む事で、道を拓くことは不可能ではない。事実、ネットフリックスもビデオ業界の経験はなかったがビジネスを実現している。

だが、「・・そうは言っても現実的に」という人のために、少し身近な先輩起業家の話を紹介したい。経験もお金もないまま起業し、本気で自分のビジネスに打ち込み、なんとか事業を軌道にのせた先輩だ。

もちろん華々しくメディアに登場しているわけではない。彼女は中部地方の小規模雑貨店のオーナーだ。だが、勇気を出して一歩踏み出した先輩の体験には、教科書にはのっていない貴重なヒントがあるはずだ。

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彼女はペット用品の輸入雑貨店を経営している。

以前は、大手メーカーの支社で経理を担当していた。だから雑貨店の経験はなかったし、正社員ではなかったから貯蓄もあまりなかった。彼女は犬と猫が大好きで、自分でも飼っていてた。それで欧州の可愛いペット用品が好きだった。いつか自分の好きなペット用品を集めた輸入雑貨店をやりたい、そんな夢を持っていた。

30歳の誕生日まであと半年となったとき、彼女は「30歳で起業しよう」と決めた。このときはまだ半分ぼんやりとしていた。ゆるがぬ決意とかそんなものはない。

だが、起業本を読んだり、起業セミナーに参加したり、少しずつ買い集めていたヨーロッパのペット用品を整理して説明書をつくったりしている内にだんだんと起業の熱が高まっていった。

さらに、ネットで自分が理想とするような輸入雑貨店を探して研究したり、電車で1時間かけて気になる店舗に足を運んでみたり、不動産屋さんに連絡して物件を見学してみたりした辺りで、だんだんと自分の起業の「風」を感じるようになった。それは日中の仕事中も週末も続いて、両親や友人の反対にあってもやむことはなかった。

30歳の誕生日から8か月後、彼女は自分のお店を開店した。かなり小さな物件だから家賃も高くはなかったが、前払いと保証金でお金はあっという間になくなって、広告宣伝に使うお金がなくなった。それなのに、開店1か月目から40万円以上の売上を確保しないと、5か月先には閉店を考えなくてはいけないような厳しい状態だった。

「だからやめとけと言ったのに」
「お金も経験もないのに夢ばかり追いかけちゃって」

両親と一部の友人はそんなことばかり言うので疎遠になった。これはもう本当に自分でなんとかするしかない。そこでまた彼女のスイッチが入った。お金がなければ知恵と足を使えばいい。

彼女は百円ショップでキレイな用紙とマジックを購入し、一枚一枚手書きでチラシを作った。商品の魅力やこだわりを盛り込んだから、一日頑張っても50枚が限度だったが、最初はお客さんもいなかったから500枚位作れた。腱鞘炎になって手首に包帯を巻いたまま犬や猫の愛好家のグループに直接配布して歩いた。

やがて、ほんの少しずつ来店客がでてきた。来店してくれたお客さんとの関係性を築くために、お客さんの名前、家族構成、趣味、ペットの名前、ペットの年齢、ペットの好きな食べ物などを聞き出して、全部暗記した。そして、再び来店してくれたお客さんにさりげなく話題をふった。お客さんは驚いて、何かを買ってくれて、目に見えて来店頻度が上がった。

常連さんには記念日ごとに手書きのイラストや写真を盛り込んだカードを手渡し、リクエスト品があれば欧州だけでなく世界中から取り寄せた。それがまた対話のきっかけとなり、口コミでお店の評判が伝わり、来店客が2倍3倍4倍に増えた。お客さんの1人が県内に複数のブティックを経営していて、たくさんのお客さんを紹介してくれたりした。

信じられないことに、二か月目に40万円を達成していた。広告宣伝のコストは(自分の人力をのぞけば)1万円くらいだ。

彼女は小さな店舗を忙しく切り盛りしつつ、現在ではネットショップにも展開している。そちらも順調だ。そして、そんな彼女が繰り返し口にしていたのも「本気になれば思いがけない所までいける」という言葉だった。

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確かに、お金や経験はあるに越したことはない。起業を考えている人には事前にお金を貯めておくことをアドバイスするし、経験がなければ起業前に業界でアルバイトをしておくことを勧めている。

ただ、経験やお金は準備万端になることはない。どちらも、もっともっとと望んでしまう性質があるからだ。

最後の言葉にあるように、まずは本気になること。そして、何よりも大切なのは、やりたいことの実現に向け、今できることをやることだ。先輩起業家がそれを証明してくれている。

何事も始めるまでは不可能に思えるものだが、経験やお金がないことに思いを巡らす前に、些細なことでも今できること今日から始めてみよう。

■おわり