note記事画像__6_

なぜ、彼女は子育てと起業を両立できたのか

【問題】
男女別に起業家数の推移をみたとき、正しいのはどっち?

A 男性は 増加、女性は 減少 傾向にある
B 男性は 減少、女性は 増加 傾向にある



正解は、Bだ。
※出典:2019年版 小規模企業白書「男女別に見た、起業家数の推移」

起業家の数自体は、女性より男性の方が多いが、起業家全体に占める女性の割合は増加傾向にある。

そんな世の中の流れに合わせて、近年では、育児や介護と両立し、起業に挑戦したいという女性を対象にしたイベントや相談窓口などの支援体制が整備されている。

では、「女性起業にはどんな特徴があるのか?」「女性の先輩起業家はどうやって起業したのか?」今回はそんな話をしたい。


1.女性起業の特徴

まず、起業分野をみてみると、こんな特徴がある。

女性は「小売業」「飲食店」「生活関連サービス業」「医療・福祉」「教育」の起業が多い。

これは、「小売業」や「飲食店」や「サービス業」などB to C(個人を対象としたビジネス)の起業分野が多いとうことだ。

小売業や飲食店というと、アクセサリーショップやカフェなどがあげられるが、これは「女性ならではのきめ細やかな感性が生きる分野」とも言えるかもしれない。

また、事業の内容を決めた理由をみると「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから」が最も多い。

そのほか「身につけた資格や知識を生かせるから」「地域や社会が必要とする事業だから」などの理由がある。

男女問わず起業家の多くは実務経験を生かせる分野で起業している。実務経験があるという事は、業界に詳しく、取引先に顔見知りが多く、価格の相場観も心得ていて、裏事情などにもある程度通じているという事だ。当然、起業には有利だろう。

※出典:2019年版 小規模企業白書「男女別及び年齢別に見た、起業家の起業分野(2017年)」

もう少し詳しく女性起業の特徴を知りたい人は「女性起業家支援ノウハウ集」を見てみるといい。

これは、女性起業をサポートする人のためのノウハウ集だが、女性起業によくある悩みや誰もが立ち止まるステップ、それを解決する支援の具体例などが紹介されている。

あえて、支援者側のレポートを見ることで、みんなも同じことで悩んでいるんだと安心できるだけでなく、受けられるサポートの選択肢を予習することもできる。

ページ数が多いのが少しネックだが、忙しい人は、10ページの「女性起業家特有の課題」だけでもチェックしておくと参考になるかもしれない。


ここまで統計的な視点で見てきたが、実際に起業した先輩はどうやって起業をしたのか、個人事業主としてヒンディー語の通訳・翻訳サービス事業を立ち上げた女性のストーリーを紹介する。

子育てと両立して、自分らしく働きたい。彼女は、そんな思いを持つ三十代の主婦だ。二人の子供はそれぞれ小学校低学年と幼稚園。商社のインド支社に長く勤めていたが、結婚を機に退社、帰国し、しばらくは主婦業に専念していた。

2.女性先輩起業家の起業までの道のり

私は、インド駐在時、業界をスピンアウトして現地法人を立ち上げた職場のの先輩の手伝いをしたことがあった。終業時間後や週末は彼女と一緒にホームページを立ち上げたり、顧客開拓の営業をしたりして、ゼロからビジネスを立ち上げる事の面白さを味わった。機会があれば自分でもビジネスを立ち上げたい。いつしかそう思うようになっていた。

結婚、出産、子育てというライフイベントは目が回るほど忙しい日々だった。上の子が小学校に入学し、下の子も幼稚園に入園したあたりから、少しだけ時間ができた。朝5時に起きて朝食と子供のお弁当を作ってから洗濯をし、夫を見送り子供たちを送り届けた後のほんの1時間くらいだが、ゆっくりとカフェにより、ひとりで珈琲を飲む時間ができた。

最初は嬉しくて自分のリラックスタイムにして本を読んだりしていたが、ふと起業のことが頭をよぎった。その時は、日常の隙間時間で起業はむずかしいと思っていたが、ある日、インドで事業を立ち上げた先輩が一時帰国したときにお茶をした。その時「なんとかやりくりして、もっと自分らしく働きなよ」とはっぱをかけられた。

「わたしにできるだろうか」「家族の理解は得られるだろうか」。不安はあったが、やってみたいと思った。その気持ちが大切だと思った。

意外と身近にあった起業

起業するならヒンディー語の通訳・翻訳サービスを展開したいと考えていた。現地勤務時代から、日本の企業がインドに進出しようとして言語や文化や商習慣の壁に阻まれ、うまく行かないケースをたくさん見てきたからだ。前職の繋がりから、現地に日本好きで日本語が達者なインド人の知り合いがたくさんいた。こうした人材をうまく集め、精密機器などの専門性が高い分野に特化すれば事業化できるはずだと思った。

だが、何をどこからはじめたら良いのか分からなかった。先輩の起業を手伝ったとはいえ、それはあくまで先輩の指示に従った仕事だった。そこで、まずは情報収集から始めてみた。

お気に入りのカフェで珈琲を飲みながら検索してみると、起業相談窓口や創業融資など、公的な起業支援サービスがたくさん見つかった。何というか、「起業」が意外なほど身近にあることを知り、嬉しいような緊張してしまうような感じがして、胸が高鳴った。

早速その場から最寄りの支援機関の相談窓口に電話をした。自分のために割ける時間は少ない。ためらっている暇はないし、善は急げだ。応対してくれた女性はとても丁寧で、翌日、支援サービスについて詳しく話を聞かせてもらう事になった。

夫との約束、個人事業主としてのサービス開始

公的支援機関では、ただのアイデアレベルだった「ヒンディー語の通訳・翻訳」事業について、最適な組織形態、個人事業主として開業届を提出するための手続き、ホームページを作成する段取りと価格の相場、インド国内にいる通訳・翻訳者の集め方、日本国内における顧客の集め方にいたるまで、具体的なアドバイスを受けることができた。お蔭で話が一気に現実味をおびて、起業の道筋みたいなものがクリアになって、やるべきこととその手順がはっきりとした。

その日の夜、子供たちが寝た後、夫に相談した。反応は微妙というか、どちらかというと反対な雰囲気だった。子供や家事は大丈夫なのかと言われた。何度か話し合いをして「週末は家族の時間を大切に子供たちと過ごすこと」「借金はしないこと」を約束した。正直、夫の態度は私の気持ちを理解しているように思えなくて腹立たしかった。

今にして思えば夫の反応も当然と思えるし、激しく反対されなかっただけ良いと思える。でも、当時はムカついて、絶対にがんばろうと思った。

1日のうち、起業に費やせるのは最大で2時間。それも細切れだ。生活習慣を朝型にチェンジして、最大限に家事を効率化した。公的支援機関の窓口で相談に乗ってもらう時間をペースメーカーにしたが、これは本当に助かった。月に2回ほど予約をして、その都度HPの原稿をチェックしてもらったり、インド国内の通訳・翻訳エージェントと取り交わす規約を見てもらったり、具体的な営業のアプローチについて相談に乗ってもらったりした。

ある程度見通しがたち、最寄りの税務署に個人事業主としての開業届を提出した。あっけないほど簡単に受理されて拍子抜けだったけれど、税務署を出たときのことは今でも忘れない。

はじめての受注

夫に相談してから4カ月ほどでHPが出来上がった。写真や文言、デザインにこだわったHPで、想定より時間が掛ったが、自分でも気に入っている。費用は約13万円だった。早速、前職の関係者や友人、知人に連絡した。フェイスブックやツイッターも開設してブログも書き始めた。ブログの内容はインドの現地事情や生活習慣、宗教上の儀式やものの考え方、日本との商習慣の違いなどだ。なかなかアクセス数も上がらず受注もなかったが、地道に継続していくしかなかった。

1時間程度で往復できる電車圏内のインド関連団体(ビジネス・経済団体や公的機関など)にも足を運び、すこしでも耳を傾けてくれる人がいれば事業をアピールした。インドの企業と取引をしている電車圏内の日本企業を検索して30社ほどリストアップし、ダイレクトメールを送った。ダイレクトメールを出すのは生まれて初めてで、最初の10通くらいはかなり勇気が必要だったが、一歩踏み出さないことには受注はないと思った。もし私がお客さんでも、名も知らない零細企業に大切な資料を預けて通訳・翻訳の依頼をすることはない。だから、まずは真摯で意欲的にアプローチを心掛けた。

HPが出来上がってから2カ月後くらい、ダイレクトメールを出した1社から引き合いを受けた。直接訪ね、いつものように必死に事業をアピールすると「では、お願いします」と言われた。金額的にも大きくなくて、先方にとってはお試し的な発注だったのかも知れないが、私はもう泣きそうなくらい嬉しくて何度もお礼を言った。私がつくり上げたサービスを認めてくれて、価格設定を受け入れてくれて、お金を支払ってくれるお客様がいた。それがただただ嬉しかった。これが私の受注第1号だった。

いまでもトラブルは絶えず「ビジネスが軌道に乗った」とは言えない。特にインド国内の通訳・翻訳エージェントは統率が困難で、一日に何度も電話する必要がある。何年も一緒に仕事をしている顔見知りからしてこの状態なので、正直、ビジネスとして拡大できるのだろうかと不安になることもある。だけど、お客様の社長が、会社のHPに大きく「提携先」と私の会社のロゴを掲載してくれたり、お客様がお客様を紹介してくれたりして、少しずつ事業が拡大している。

夫との約束もいまのところは何とか守ることができている。久しぶりに会った先輩に愚痴を聞いてもらった後、「なんだかんだ言って、イキイキした顔になったじゃない」と言われた。そういえば、不安と心配も増えたけど、エネルギーみたいなものも増えた気がする。



教科書的な話よりも、彼女のような先輩の肉声は心に響くし、自分の身におきかえて、自分事として捉えやすい。

他にも事例が見たいときは、ビジネス支援サイトJ-Net21の「女性起業家応援ページ」や「起業の先人に学ぶ」にアクセスすると、多彩な事例に触れることができる。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
ー ビスマルク ー

という言葉があるように、すでに起業を経験している先輩の歴史にはたくさんの知恵や解決策が詰まっている。自分の経験も大切だが、先輩の経験(歴史)をぜひ自身の経験に役立てて欲しい。

■おわり