社会起業家の圧倒的な熱量 ~BEYOND 2024から~ vol.2
前回の記事に続き、社会起業家のカンファレンス「BEYOND 2024」の2日目に行われた「COM-PJファイナルピッチ」の内容をご紹介。
▼前回の記事はこちら▼
第2弾は、後半の7人の事業内容や原体験をお届けします。
様々な形での農への関わり方を可能にするマッチングサイト
後半の1人目は、農業への参入をサポートする事業に挑む起業家。大学生のときに農業の魅力に取りつかれ、大学内に畑を作ったり、農家へ手伝いに行ったりしていたそうです。
そんな中で知ったのが、農業の参入ハードルの高さ。土地の入手に必要な条件が地域ごとに異なっていたり、数年間の修行が必要だったりするなど、農業を始めるノウハウは複雑でブラックボックス化している現状があります。そこでこの起業家はチャット形式で新規参入者が希望を入力すると、最適な手段を提案してくれるサービスを開発しようと奮闘しています。
環境に配慮した行動変容を促すアイデアの社会実装
続いては、環境保護につながる行動を思わず取りたくなるような仕組みを社会に広げようとする大学生。16歳の頃から環境活動に取り組んできましたが、あるときマスコミから環境についての意見を聞かれ、それが一部分のみを切り取った形で放送されてしまい、大きな批判にさらされたそうです。
彼がめざすのは、声高に「環境を守れ」と叫ぶような活動ではなく、ちょっとした声かけの工夫やインフラのデザインによって、思わず行動変容したくなる「ナッジ」という仕掛け。節水や紙の節約、プラスチックごみの削減など身近なテーマから取り組んでいくことを計画しています。
コーヒーの果肉と果皮を乾燥させた「カスカラ」でプロダクト開発
続いては、コーヒーの裏側に潜む搾取構造の解消をめざすビジネスプラン。世界中の人が毎日のように飲むコーヒーですが、豆を育てているコーヒー農家へ還元される利益はごくわずかで、格差を生む一因となっています。
そこで目を付けたのが「カスカラ」と呼ばれるもの。コーヒー豆を製品化する過程で出る果肉と皮を乾燥させたもので、従来は捨てられることが多かったものです。このカスカラを使ってエナジードリングを開発し、その利益も農家に還元することで格差の解消をめざします。
学びと対話のオンライン教室で中高生の教育格差を解消
次の登壇者は、経済的な理由で教育の機会や社会とのつながりが制限されてしまう子どもに、オンラインの居場所づくりをめざす起業家。自身も母子家庭で育ち、環境によって選択肢が狭まる現実を肌で感じてきました。
相対的貧困といわれる家庭で育った子どもの中には、「お母さんがしんどいのは私が生まれたせいだ」などと自分を否定してしまう子もいるそうで、自己肯定感の低下によって貧困が連鎖する側面もあります。定期的な対話によるケアや、社会とのつながりを保つ仕組みをオンライン上に作ることを、この方はめざしています。
障がい児福祉施設マッチングサービス
続いての登壇者は、障がいを持つ子どもの保護者と福祉施設とのマッチングプラットフォームを運営する起業家。父も福祉施設を運営しており、そこで見た光景が起業につながったそうです。ある日、その施設に「なかなか子どもを受け入れてくれる施設がなく、困っていた」というお母さんが来られ、父の施設での受け入れが決まったとたん、感謝の涙でいっぱいに。この様子を見て「施設を探すだけでこんなにも苦労している人がいるのか」と衝撃を受けたそうです。
福祉施設を巡る構造的な問題を学んだ末に考えたのが、利用者が施設を探すのではなく、プラットフォーム上に登録した利用者情報を見て施設側がコンタクトを取る、という仕組み。施設と利用者、それぞれの悩みを同時に解決するプラットフォームとしての普及をめざしています。
子育ての仲間を増やして、親も子も笑顔で過ごせる時間を増やす
続いては、育児と仕事の両立への悩みを解消するサービス。日本ではベビーシッターへの抵抗意識もあり、シッターサービスの利用が一般的ではありません。そのハードルを下げる仕掛けとして、複数のシッターと出会い、相性の良さそうなシッターを選べる遊び場を作る、というビジネスプランを発表。シッター側もチームで育児サポートに当たることができ、より安心なサービスとなります。
この方が育児サービスに取り組む原点は、11歳のときに弟が生まれたこと。弟の育児に追われる親の姿を見て、育児と仕事のどちらかを選ばないといけない社会のあり方に疑問を抱いたのでした。そして大学生の頃から親子カフェなどのイベントを開き、育児支援の経験をたくさん積んでこられたそうです。
公立学校に特化した潜在教員向け求人サイト
最後の登壇者は、公立学校の教員不足の問題に挑む大学生。現在、教員不足に悩む小中学校は約3割に上り、児童の学習機会の損失につながっています。一方で、教員免許を持ちながらも教職に就いていない人が講師として勤務する制度があるものの、こちらも勤務条件などの問題でうまく機能していないそうです。そこで、この方は講師が自分に合った勤務先を簡単に探せるマッチングプラットフォームを開発し、教員不足の解消をめざしています。
この起業家は大学時代にこの問題を知ったことがきっかけで、就活をやめて学校でのボランティアに従事。その後、教育委員会での長期インターンも経験し、教育現場やそれを支える行政職員の大変さを身をもって知ります。教員だけでなく、行政のリソース不足も知ったことがビジネスの重要なヒントになったそうです。
<番外編>ジビエで自然と共生する地域社会を築く
BEYONDの会場には、社会課題解決をめざすスタートアップのブースが並ぶエリアも。その中のひとつに、ジビエで地域の課題に挑む株式会社RE-SOCIALのブースがありました。
RE-SOCIALは京都の山間地域を拠点にシカの肉を使った食品開発や、飲食店の運営をしているスタートアップです。代表の笠井さんが起業したきっかけは、大学で地方創生を学ぶなかで知った獣害の問題。農業に損害を与える野生のシカなどは駆除されることが多いのですが、そのほとんどが廃棄されている状況を目の当たりにして「せめて食べ物として大切に扱いたい」と考えたそうです。
そして野生動物の捕獲から解体、精肉までの工程を学び、大学在学中に株式会社RE-SOCIALを設立。鹿肉を使ったジビエブランド「やまとある」を展開するほか、京都市内でジビエ料理を楽しめるバル「Meat Up」も運営しています。
BEYOND 2024で感じたのは、ビジネスで社会課題を解決しようと奮闘する社会起業家の圧倒的な熱量です。そのきっかけは、誰もが経験する身近な悩みや不満、過去の悲しいできごと、ショックを受けたことなど、さまざまですが、共通するのはそれを見過ごすことなく解決へのエネルギーに変えたことです。
本気で課題解決をめざしている起業家の言葉は、どれも説得力にあふれており、今後の活躍が非常に楽しみです。