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子どもが出てくる映画の話をしよう。その11。70年代のヒット作『小さな恋のメロディ』

夢と冒険を信じていた子ども時代も、LOVEが入ってくると、少しずつ何かが変わっていく。前にとりあげた『ストレンジャー・シングス』でも、いっしょに遊んでいた仲間が、GFの存在ですこしずつ離れていくようすが描かれている。これがなんとも切ないわけで。

ということで、思い出すのは・・あの甘酸っぱい映画だ。

『小さな恋のメロディ』(1971年・イギリス)。

ある年代以上のひとは知っている70年代の大ヒット作。

簡単にあらすじを。11歳くらいの男の子ダニエル(マーク・レスター)は、バレエをしている少女メロディ(トレーシー・ハイド)に一目ぼれ。親友トム(ジャック・ワイルド)にからかわれるのもいとわず、二人は急接近。ついには「結婚する」とまでいいだし、大人たちをあわてさせる。やがて周囲の友達の協力をへて、二人は反対する大人たちから逃れトロッコをおして去っていく・・。

あ。ほぼ全部いってしまった。つまりは、イギリスにくらす少年少女の恋物語であります。調べると、同じ年には『ある愛の詩』なんてのもヒットしていて、この時代ひとびとはピュアなLOVEを求めていたのか。いや、『時計じかけのオレンジ』も同じ年だから、そうでもないか。

だいたい「二人は急接近」などと書いているけど、覚えている限りキスシーンなんてない。まあ11歳だから、ほんとに可愛らしい恋愛なのよ。でも、親友トムが、遊び仲間だったダニエルが彼女に首ったけになっていくのを嫉妬するんだよね。トムが必死に呼びとめるのに、ダニエルは彼女と手をつないで去っていってしまう。振り向きもせずに、だ。残されたトムが、ムカついてカバンだかを思いっきり壁にぶちあてる。このシーンがよかったなあ。

結局は、そのトムもふたりを応援することにもなるんだけど。

親友トム役はジャック・ワイルド。このときすでに17歳くらいで、ちょっと不良っぽくて、カッコよくて、けっこう人気だった。

主役は映画を機に大人気となった、甘い顔のマーク・レスター。彼はみるみる成長して、のちに裸で向き合うラブシーン(でもエッチじゃない)を演じる青年役をやっていたかと思うが、その後芸能界から引退したという。監督はアラン・パーカー。のちに『ミッドナイト・エクスプレス』などさまざまな映画を手掛けている。

で、今になって調べると、じつはこの映画は、本国イギリスやアメリカでは全然ヒットしなくて、日本と南米の一部の国だけでしかウケなかったという。

へえ、そうなんだ。

いろいろ理由は考えられる。

だってこれは子供むけ映画だろうか? いわゆるキッズ向けとはいいがたい。ティーンの恋愛にしても、甘すぎる。最後トロッコに乗ってどこいくの? なんて今ならつっこんでしまう。誰が観るのかってことかな。その延長にありそうな14歳15歳の恋愛映画『フレンズ』もあったなあ。

でもまさに、そういう細いすきまのような年齢の純愛をロマンチックに描いた映画が70年代の日本ではウケたのだ。

この映画をいろどるビージーズの音楽の力も大きい。だって今でも、ビージーズの『メロディ・フェア』を聞くと、二人が金魚を追いかけるシーンが思い浮かぶ。ちょっと手がふれあって、ちらとダニエルが彼女の顔をぬすみみるあのシーンが。このときの音楽が映像の語りとなっていて、日本ではたちまち大ヒットした。

『小さな恋のメロディ』は、冒険でもファンタジーでもなく、子どもでも大人でもない、あのはかない瞬間の絵物語だった。そして、大人たちは立ち向かうべき壁だった。

絵物語といえば、思い浮かぶのは、われらがニッポンの漫画だ。たとえば萩尾望都の『三月ウサギは集団で』をみると、この映画を思い出す。人気定番キャラのオスカーといえば、ジャック・ワイルドを思い出す。女の子がよむ漫画に、まだ壁ドンもベッドシーンもBLもなかった時代のこと。今では大急ぎで通り過ぎていってしまう、あの一瞬のときを『小さな恋のメロディ』にも見つけようとしていたのかもしれない。

「みんなのギャラリー」からお借りしました。Thanks.













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