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子どもが出てくる映画の話をしよう⑲嘘をつくひとびと『怪物』
最初な、つらかってん。
と、なぜか関西言葉ではじめてしまう。
カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した、あの、例の、話題の、是枝監督の映画『怪物』を見たときの話。
是枝監督の作品で、とくに子どもが出てくる映画は好物だ。
なにしろ子どもに演技感がない。
基本脚本を見せないという監督の話は有名で、それでなしとげる日本の子役がすごいのか、瞬間瞬間を逃さない監督がすごいのかわからないが、どれもすばらしい。
『万引
生き直しの実験をはじめてみた。
朝、6時に起きる。
着替えて、部屋の窓をあけて空気をいれる。
朝ごはんをつくる。サーモンピンクのランチョンマットの上には、ガーリックトースト、オイル焼きエリンギ添え。
写真もとっておく。
「いただきます」
おお、なんと美しき朝のはじまり。
いや、ちょっと待った!
朝ごはんは、我の毎日の生活で一番がつくほどすきなものだけれど、このつくりこんだようなモーニングワークはなんだろう。演じている感が強い
滅びのものがたり。エストニア発ファンタジー『蛇の言葉を話した男』
ーー森には、もう誰もいない。
物語はこの一文ではじまる。
語り手は、森に暮らし、蛇の言葉を話すことができる。その言葉で森の動物たちを意のままに操ることができるのだ。
と、ここまで読めば、お、どうやら広大な森を舞台とした神秘あふれるファンタジーに違いないと思う。
が、ページをめくるにつれ、予想は裏切られていく。もちろん、いい意味で。
少年をはじめ森の住人たちは、小屋に暮らし、狼を飼い、肉のみを
世にも美しい語り部 ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』
『エンジン・サマー』は1979年に書かれ、日本初版は1990年が初出。福武書店から発行された近未来を描いた幻想文学であります。
手元にあるのはむかぁし入手した中古の単行本だが、のちに文庫版が出て平積みされていたには「おお!」と思った。表紙画に初版の単行本と同じ絵がつかわれていたからだ。こうでなくっちゃ。
――あなたの物語をきかせて。はじまりからはじめて、終わりまで話し続けるの。
物語は、<
逆走する未来へ。テッド・チャン『あなたの人生の物語』
よく「今こそ読みたいSF本」的な企画で必ずといっていいほど取り上げられるのが、この本。
テッド・チャン氏の『あなたの人生の物語』だ。
初出は1998年。日本では2001年の『SFマガジン』が初のお目見え。わたしの手元にある早川書房の文庫初版は2003年となっている。古いっちゃあ古いが、近年この作品が『メッセージ』という名で映画化されたし、めちゃくちゃ久しぶりに新刊『息吹』(早川書房)も出
臨死体験を科学する! コニー・ウィリス『航路』
コニー・ウィリスの『航路』。翻訳:大森望。
今はハヤカワから出ているけれど、私が読んだのは、ソニー・マガジンズの『ヴィレッジブックス』から出ている文庫の初版(2004年)。(タイトル画がそれ)多分内容は変わらない。
いったいどうしてこの本を買ったのか、最初のきっかけが思い出せない。なにしろ、この本はブ厚い。約600ページにわたる文庫本2冊分だ。でも、これは紛れもない名作だし、私はこれをきっ
夢でみる子らは、いつでも子どものままなのだ。
息子がいる。
以前、美容院でまあごくふつうのごあいさつ会話として、「うちにも息子が2、3人いてねー」といったら、とても繊細な対人配慮のゆきとどいた美容師さんは「そう、ですかあ」といった。その「そう」と「ですかあ」のあいだのコンマ1秒に満たない空白にはっと気づいた。つい数字を適当にいうクセがある我は、わが子の数まで適当にいって、相手をムダに当惑させてしまったらしい。いかんいかん。「いや、正確に