城戸火夏

書いたり描いたり読んだりします。

城戸火夏

書いたり描いたり読んだりします。

マガジン

  • 水曜日に出す手紙

    想像力のトレーニングで、毎週水曜日に「架空の誰かにあてた誰かからの手紙」をUPします。いまのところの目標は毎週更新です。がんばります。

  • 好きなもの箱

    保存しときたいくらい好きなものの為の箱

記事一覧

【短編小説】炭酸な日

 夜更けのコンビニでお酒だけを買って家へ帰る。今日はそんな日になってしまった。夜でも当たり前に明るいコンビニは居心地が悪かった。今の私には電気の眩しさは多すぎる…

城戸火夏
1年前
4

【短編小説】こんな夜のスープ

 深夜、私は背を向けて眠る夫に気づかれないよう、そっと布団から抜け出して、台所へ向かった。シンクの上の電灯だけをつけて、ヤカンに水を入れて火にかけた。ジジッとコ…

城戸火夏
1年前
2

引っ越しとお隣さんのおやつのこと

 昨夜、新しく住むマンションの契約を済ませてきた。まあ契約者は夫だから、私は特に何もしていない。夫の隣に座り、一緒に不動産屋さんの説明を聞いたり、いくつか質問を…

城戸火夏
1年前
7

悪人の作り方【創作】

 ああ、先生。私はこれまで、あなたこそ真の悪人であると信じておりましたのに。あなたの教えに従順に、それこそ親鳥の後を追う雛のように、その背中から沸きだすありとあ…

城戸火夏
2年前
1

31【創作】

かみさまおねがいします。どうかこのてがみが9月1日にポストに入っていますように。 パパ、ママ、じいちゃん、ばあちゃん、ぼくをたすけて!  ぼく、じいちゃんがぜったい…

城戸火夏
2年前

鳩師【創作】

xxx氏へ 鳩師より定期連絡 xxxx/xx/xx xx:xx ターゲット達の一週間の動向を報告する。 ターゲット25 xx/xx xx:xx 今週から自宅にてリモートワーク。割り振られた仕事…

城戸火夏
2年前
1

God is watching【創作】

 はいこんにちわ。神さんです。  人間さん、いつも拝んでくれてありがとさん。でも、わしがこうして神ですて自己紹介しても、これを読んでるあんたは信じられへんと思う…

城戸火夏
2年前

休暇先より【創作】

 親父、元気か? こっちはとても楽しいぞ。空は広いし空気は濃くて新鮮だ。もうそっちに戻るのが嫌になるくらいだ。親父も意地張らないでついて来れば良かったのに。優大…

城戸火夏
2年前

衣替え【創作】

 あなたへ。  これを読んでいるという事は、もう夏になって、衣替えを始めたんですね。これはあなたの一番のお気に入りのシャツですから、私はここに手紙を残していく事…

城戸火夏
2年前

拝啓 主様【創作】

 拝啓、主様。私を覚えておられますか。あの強風の日、風にさらわれて別れ別れになってしまったワイシャツです。こうして手紙の上だけでも主様と再会できた事、とても嬉し…

城戸火夏
2年前

【短編小説】祭

 雨期になると、ある村では変わった祭が行われるというので、私はいそいそと出掛けていった。  まず、木に成りきった男性が勢いよく小川を流れていく。彼の体は少しも曲…

城戸火夏
2年前

雪女の暑中見舞い【創作】

 暑中御見舞申し上げます。  日本では連日の猛暑でございますが、ぬらりひょん先生の御滞在先はいかがでしょうか。先日こちらへいらした風狸様は、今頃ハワイか台湾だろ…

城戸火夏
2年前

反転【創作】

君 この手紙を見つけた君じゃ無くてもいい 俺を助けないでくれ! 俺は変な所にいない 俺は空に立っていない 浮いている 立っていないんだ 体は地面にいない時と違う…

城戸火夏
2年前
1

サマーメール【創作】

 お久しぶりですね。今年の梅雨はとても短くて、まるで夏がスキップしながらやって来たようでした。この暑さは少し体に堪えますが、色々工夫して穏やかに日々を過ごしてい…

城戸火夏
2年前
2

不幸VS恋心【創作】

 この手紙は不幸の手紙です。同じ文面で十人に回さないとあなたに不幸が訪れます。これは絶対本当です。ちゃんと書いて回してください。 PS こんにちは! 同じクラス…

城戸火夏
2年前

晩年の魔女【創作】

 南の魔女ルーベルへ。  私を覚えているかい。北の魔女ヘレーナだよ。本当なら使い魔に手紙を託すんだけどもね、年々魔力が減ってしまって、とうとうカラスまで使えなく…

城戸火夏
2年前

【短編小説】炭酸な日

 夜更けのコンビニでお酒だけを買って家へ帰る。今日はそんな日になってしまった。夜でも当たり前に明るいコンビニは居心地が悪かった。今の私には電気の眩しさは多すぎる。だから帰ってからも部屋の明かりは付けなかった。  真っ暗な部屋の中で、机のパソコンの電源だけが静かに黄色に光って眠っていた。私の物しかない私の部屋は、安心感より孤独な空気が這いまわっていた。パソコンをスリープから起動させて、お気に入りのプレイリストを再生しておく。つけっぱなしのヘッドフォンから微かに音楽が漏れ始めた

【短編小説】こんな夜のスープ

 深夜、私は背を向けて眠る夫に気づかれないよう、そっと布団から抜け出して、台所へ向かった。シンクの上の電灯だけをつけて、ヤカンに水を入れて火にかけた。ジジッとコンロに火がつく音がして、ヤカンが小さくシュウシュウと鳴り始め、それを見ながら、私はぼうっと立っていた。  つい数時間前、夫と酷い喧嘩をした。もう結婚して十年になるのに、どうしてこんな喧嘩をしてしまうんだろう。何度繰り返せば懲りるのだろう。悲しい擦れ違いの後にやってくる静かな夜が嫌いだった。時計の秒針の音も、隣で私に背を

引っ越しとお隣さんのおやつのこと

 昨夜、新しく住むマンションの契約を済ませてきた。まあ契約者は夫だから、私は特に何もしていない。夫の隣に座り、一緒に不動産屋さんの説明を聞いたり、いくつか質問をしたり。人の話をちゃんと聞くという行為は、想像以上に体力を使う。夫はそれに加えて、氏名や生年月日や勤務先やらの個人情報を記入欄にどんどん書き込まなければならない。しかもその記入欄は小ぶりで、字が大きい夫は少々苦戦していた。  すべて終わらせるのに、二時間かかった。最後に今住んでいるマンションの解約通知を書いて、私は、一

悪人の作り方【創作】

 ああ、先生。私はこれまで、あなたこそ真の悪人であると信じておりましたのに。あなたの教えに従順に、それこそ親鳥の後を追う雛のように、その背中から沸きだすありとあらゆる悪い思考と嗜好と指向を学べば、私のような何物も持たない男でも悪の道へ羽ばたいていけると思っておりましたのに。  先生は常々仰っていたはずです。己の欲望を満たす事こそ至高だと。その他の事は気にもとめない、とめる価値すらないと。ああ、なんて傍若無人な振る舞いでしょう。私の知っている先生は、ひとたび己の腹が空けば、たと

31【創作】

かみさまおねがいします。どうかこのてがみが9月1日にポストに入っていますように。 パパ、ママ、じいちゃん、ばあちゃん、ぼくをたすけて!  ぼく、じいちゃんがぜったい入るなって言ってたへやに入っちゃったんだ。中にはドラゴンみたいなのがくっついてるカッコいいかがみがあって、それであそんでた。そしたらしらない男の子がうしろにいて、いいことおしえてあげるって言うからついていったら、ろうかにあったメモみたいなカレンダーをはがして、ちょっとよこにしてかがみにうつしたんだ。こうすれば31日

鳩師【創作】

xxx氏へ 鳩師より定期連絡 xxxx/xx/xx xx:xx ターゲット達の一週間の動向を報告する。 ターゲット25 xx/xx xx:xx 今週から自宅にてリモートワーク。割り振られた仕事は全て時間内にこなしているが、空き時間にスマホでゲーム、酎ハイを飲むなど、勤務態度に難あり。会社への定時連絡を更に課すべきと思われる。 ターゲット4 xx/xx xx:xx 前回の報告にて、自室である部長室で、部下xxとの不倫が発覚。今回より社外での行動も監視。結果、レストランや

God is watching【創作】

 はいこんにちわ。神さんです。  人間さん、いつも拝んでくれてありがとさん。でも、わしがこうして神ですて自己紹介しても、これを読んでるあんたは信じられへんと思うわ。こんなん信じろ言う方が無茶なんやけど、あんたがホンマにエライ人間さんやから、特別にこうして手紙を書いてるんや。神さんの言葉は人間さんにはよう分からんかもしれん。けどな、言語っちゅうもんは何かを伝えるための手段でしかないねん。わしらの、ホンマもんの神さんの言葉はな、信心があったら、一人一人、ちゃんと読めるようになるね

休暇先より【創作】

 親父、元気か? こっちはとても楽しいぞ。空は広いし空気は濃くて新鮮だ。もうそっちに戻るのが嫌になるくらいだ。親父も意地張らないでついて来れば良かったのに。優大も寂しがってたぞ。おじいちゃんも一緒に恐竜見れたら良かったのに、て。  それにしても、やっぱり実物を生で見るって経験は大事だよ。一回実物を見てしまうと、どんなによく出来た図鑑や模型もオモチャみたいに思えてくるんだ。優大も図鑑なんて放り出して、一日中ずーっと観察スケッチをしてるよ。それがもう楽しくて仕方ないみたいで、今じ

衣替え【創作】

 あなたへ。  これを読んでいるという事は、もう夏になって、衣替えを始めたんですね。これはあなたの一番のお気に入りのシャツですから、私はここに手紙を残していく事にしました。見つけてくれてありがとう。  どうですか。一人暮らしには慣れましたか。それとも、やっぱり俊介たちと暮らしていますか。私にとってはその方が安心だけど……。  ごめんなさいね、私ばっかり早足で行ってしまって。  あなたが慣れない家事で不自由していないか、それだけが私の心残りです。料理も洗濯も掃除も、あなたは何と

拝啓 主様【創作】

 拝啓、主様。私を覚えておられますか。あの強風の日、風にさらわれて別れ別れになってしまったワイシャツです。こうして手紙の上だけでも主様と再会できた事、とても嬉しく思います。  私は今、私と同じように主様からはぐれて、どこにも行き場のない物たちが行き着く所にいます。片割れを失った靴下、土で汚れたコンタクトレンズ、まだインクが残っているボールペン、そして私のような、ある日突然風にさらわれてきた服たち。そのような、主様と離れ離れになってしまった物たちが須く集まる、ここはそういう場所

【短編小説】祭

 雨期になると、ある村では変わった祭が行われるというので、私はいそいそと出掛けていった。  まず、木に成りきった男性が勢いよく小川を流れていく。彼の体は少しも曲がりはせず、手も足も体に縛り付けて一本の丸太に成りきっている。深さは膝下までの小川ではあるが、雨期になると上流から雨水が押し寄せて結構な急流となる。この村で一番息継ぎが長く、またどんな時も冷静な心を持てる者でないとこの役は務まらないと村長は言う。丸太になった男は流れていく先々で、泥を被った子供らの塊や、草木を纏った女た

雪女の暑中見舞い【創作】

 暑中御見舞申し上げます。  日本では連日の猛暑でございますが、ぬらりひょん先生の御滞在先はいかがでしょうか。先日こちらへいらした風狸様は、今頃ハワイか台湾だろうと仰っていましたが、流石は先生ですね。私もこうして店を持ち、商売を始めてみて、改めて外国の文化を取り入れる重要さを痛感していますが、とても先生のように人間に混ざって身軽に動けないものですから、少々羨ましく思ってしまいます。けれども折角先生が提供してくださったこの店、繁盛は無理でも、どうにか家賃分くらいは賄えるように

反転【創作】

君 この手紙を見つけた君じゃ無くてもいい 俺を助けないでくれ! 俺は変な所にいない 俺は空に立っていない 浮いている 立っていないんだ 体は地面にいない時と違う重力を感じていない でも俺の頭上に地上が見えないんだ どうもなっていない 俺の家も公園もビルも逆さまになっていない 俺が干していない洗濯物が下を向いてはためいていないのが見えなくて頭が正常になるんだ あの虹のせいじゃない あの虹がひっくり返らず変な色にならなかった そしたら俺はここにいなかった あれは悪魔の罠じゃない 

サマーメール【創作】

 お久しぶりですね。今年の梅雨はとても短くて、まるで夏がスキップしながらやって来たようでした。この暑さは少し体に堪えますが、色々工夫して穏やかに日々を過ごしていますから、安心してくださいね。    こうしてあなたへ手紙を書いて飛ばすのも、もう三回目ですね。今年の夏も赤い紙飛行機がたくさん飛んでいますよ。そちらからでも見えるでしょうか。青の絵の具を溶かしこんだような空に、まるで渡り鳥の群れみたいに、赤い紙飛行機がいくつも連なって上へ上へと飛んでいくんです。それを見上げる度に、私

不幸VS恋心【創作】

 この手紙は不幸の手紙です。同じ文面で十人に回さないとあなたに不幸が訪れます。これは絶対本当です。ちゃんと書いて回してください。 PS こんにちは! 同じクラスの竹田です! 話した事はあんまり無いけど、今回不幸の手紙が回って来ちゃって、チャンスだと思ったからこうやって手紙を書きました。流石に本文は変えちゃダメかなって思ってPSで書いてるんだけど、これ俺不幸にならないよね?笑   実は、俺ずっと山内さんの事好きで。本当に真剣に好きなんです。こんな形になってしまったけど、俺は

晩年の魔女【創作】

 南の魔女ルーベルへ。  私を覚えているかい。北の魔女ヘレーナだよ。本当なら使い魔に手紙を託すんだけどもね、年々魔力が減ってしまって、とうとうカラスまで使えなくなった。仕方がないから人間たちの郵便を使ってやる事にしたよ。良い気分ではないけどね。ええ全く。  先日、町の人間に嫁いだ娘に子供が生まれたんだよ。ちゃんと女の子だ。私はもう嬉しくて祝いの品を山ほど贈ってやったのさ。まじないの草で染めた肌着や、ヒイラギの杖や、私が手ずから磨いて仕上げた大鍋とかね。でも娘は気に入らなかっ