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【きちnote】寄り道ってすごく大事。でも寄り道をするためには余裕がないとダメ。

Sports Graphic Number WEBさんで中央大学商学部にある、関東リーグ1部の東京23FCの運営を学生主体で実地体験ができる特別講座「スポーツ・ビジネス・チャレンジ演習/実習(明治安田生命寄付講座)」について前・後編でまとめさせていただいた。

本文を読んでいただけるとわかると思うが、学生たちは知識とは何のために必要なのか、現場で求められることはなんなのかをじかに感じながら学ぶことができているようだ。

取り組み内容もやり方もとても興味深いし、僕自身大学時代にこうした講座があったらぜひ受講したかったと悔しい思えさえする。

今回は渡辺岳夫教授のほか担当の大学生4人とZOOMでインタビューさせてもらったのだが、そのやり取りは僕個人にとってもとても新鮮で、大事な機会になったと思う。

記事内にもあるように渡辺教授は「僕は本質的には今の学生も昔の学生と変わらないと思っています」としながら、「ただ、ムダを嫌う子が少し多くなっている気がします。寄り道することが苦手になっているのかもしれない」と指摘していたが、これはいままさに日本の教育、そして社会全体に問われている大きな問題点ではないだろうか。

「この講座で、先生は全然答えを教えてくれません」
「高校受験の時も大学受験の時も確実性で選択をしてきたなと」
「これまでは『自分で考えてやりなさい』といわれる機会がほとんどなかったかもしれません」「自分から主体的に動く機会がなくて、動ける人になりたいなと思って」

4人の大学生は一様にそう答えてくれた。みんな誠実で真剣で熱意がある学生たち。きっとこれまでの学生生活でも”優等生”だったのだろうか。

そんなことを考えるとふと気になるのだ。

いま日本社会と学校はつながっているのだろうか。

子どもたちの成長にやさしい環境になっているのだろうか。

学校で学んでいること、身につけていること、やらなければならないとされていることは、社会に出た時に確かなベースとなるものなのだろうか。

すべてを否定するつもりはもちろんないし、学生たちのことを思い親身に取り組んでくださっている先生方が多いことも知っている。

でも、「自分で考えてやりなさい」という機会がほとんどないというのはやはり気になる。渡辺教授のご指摘はもっともだ。

「人間、生きていると不確実な状況を手探りで進まなきゃいけないときもあるわけです。企業に入って、言われたことをやるだけでは新しい仕事を生み出せるようにはならない。特にクリエイティブな取り組みをしていくうえでは、前もってすべて計算して先行きが見えているという状態は、なかなかないわけですから」

これは子育てにおいても当てはまるテーマではないだろうか。

僕らが社会で生きていくためには、主体的に考え、取り組み、自分で問題点を分析し、改善点を見出し、解決策を探りだす能力は必要不可欠だ。

だとしたら、小さいころからのそのための準備をしていくことが大切なはず。でも大学生の彼らが、「これまでそうした機会はほとんどなかった」ということは、小学校でも、中学校でも、高校でも彼らは自分と向き合う時間がほとんどなかったということになってしまう。

それってどうなんだろう?

主体性やそれこそ不確実なことへの耐性を身につけるためには、自分でチャレンジして、うまくいったかいかないかを判断して、またチャレンジして、というプロセスがとても大切。うまくいかないことがあったってそれは失敗じゃなくて、新しい経験。だから寄り道は大事。

そうしたいろんな経験を通して子どもたちは成長する。いや、いろんな経験をしないと成長には結びつかない。

そうだよなぁ、そうなんだよなぁ、そうあるべきなんだよなぁ。

たぶん、多くの人がそう思ってくれるんじゃないかと思う。でも実際にできるかというと…、それはまた別のテーマになってきてしまう。だって寄り道を受け入れるためには少なからず大人に余裕がないとできないんだから。

気がつくと僕らは毎日の生活の中で息継ぎの暇さえなくなってしまっていないだろうか。

やらなければならないことが次から次へと押しよせてくる。一つずつ時間をかけて丁寧にやっていたら自分がつぶれてしまう。そんなはざまでみんな苦しんでいるのかもしれない。

休むことが大切なことくらいほとんどの人が知っている。でも休むことが明日の自分を苦しめるかもしれないと思ったら、休みたくても休めない。だから倒れないくらいの範疇でみんな頭と身体を動かし続ける。

そうなんだよな。みんな大変なんだ。

でも、だからしょうがないよね、で終わってしまってはいつまでたっても変わらない。だから、ちょっとずつでもいいから、余裕を作っていけるようにしないとダメなんだと思う。

個人としてもそうだし、家庭としても、学校としても、そして社会としても。

カリキュラムは基準であって、それに縛られて、大事な人としての社会生存能力を育む機会が損なわれるのはやっぱり違うと思う。

「学」は大事だけど、それより大切な経験が生きていくためにはたくさんある。

質問メンタルトレーニングコーチの藤代圭一さんと先日対談を行ったんだけど、その時してくれた話が素敵だったのでぜひご紹介したい。

「自分の軸を作るみたいな話があるじゃないですか。自分の信念とか。それっていきなりボンって立つわけじゃなくて、こう行ったり来たりしていくなかでできてくるのかなって。あっち行ったりこっち行ったりするってことは、真ん中で一番重なるわけじゃないですか。それを軸と呼ぶのではないかなって思うんです。振れ幅が大きくても小さくても、そこで振れていないと軸は作れていない。迷って迷って、いろんな振れ幅を経験していくことで初めて、『私の信念はこれだ』『僕の軸はこれなんだ』というのが生まれてくるんじゃないかな。もちろん生まれてからもう『これ!』というのを持ってる方もいらっしゃると思いますけど(笑)」

とてもやさしい、そして力強い言葉だと思った。

子どもたちも、そして僕たちもいくらでもブレていい。そのなかで僕らは迷って悩んでいくことが大切で。

だからそうしたことをできるだけお互いに許し合えるような関係性を作っていくことが必要なのかなと思う。

家のなかでも、学校のなかでも、社会のなかでも。

走り続けていると周りの景色が見えなくなってしまう。ちょっとでもいいから、ブレーキを引いて、一度止まって、深呼吸して、周囲を見渡して、気持ちを落ち着けて、自分とそして周りの大切な人たちと向き合ってほしい。

ちょっとずつでもいい。

そうやって自分のやさしさに、そして社会のやさしさにふれてみよう。

その方が確かな軸を僕らは作り上げていくことができるんだ。


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