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記録映像レビュー⑦-2012年 文学座『エゲリア』

文学座
『エゲリア』
2012年9月 吉祥寺シアター


[作]
瀬戸口 郁
[演出]
西川信廣
[出演]
吉野実紗、増岡裕子、伊藤安那、大滝 寛、鈴木弘秋、大場泰正、粟野史浩、佐川和正、柳橋朋典、南 拓哉、駒井健介、後田真欧
[演奏]
後藤浩明

[美術]
二村周作
[照明]
塚本 悟
[音響効果]
中嶋直勝
[衣裳]
中村洋一
[アクション]
渥美 博
[舞台監督]
黒木 仁
[演出補]
五戸真理枝 
[制作]
日下忠男
[票券]
松田みず穂
[宣伝美術]
太田克己
[イラスト]
徳永明美

 文学座12月アトリエの会『メモリアル 』(作:松原俊太郎 演出:今井朋彦)しかこれまでに文学座関連の公演を観たことがなく、しかも『メモリアル』はどう考えても文学座を観ている感覚が比較的薄いほうの公演だったので(あそこまで演出が地点に寄る必要はあったのだろうか? 松原俊太郎戯曲はもっと様々な上演の方法があって然るべき、弾力を備えた複数の意味を持つ言葉の嵐なのだが、なかなかどうして出会えない)事実上、記録映像ではあるものの初めて文学座に出会ったような新鮮さを維持したまま最後まで観ることが出来た。私は青年団員だから自動的に青年団や青年団関連、及びこまばアゴラ劇場やアトリエ春風舎の公演を観る機会がどうしても多くなり、それによって培われた価値観の偏りがあるから、その立場からの文学座はまず「メッチャクチャ丁寧に物語の筋を説明してくれる! よくわからない話は全然ない!」というのが何よりも衝撃的だった。当たり前のことにどれだけ驚いてるんだと思うかもしれないが、青年団の公演は「背中向けてるひとの意味深なセリフで何となく言外の意味を察する」ようなことをして理解しなければいけないシーンがあるし、いま「吉祥寺からっぽの劇場祭」に参加している青年団演出部所属、山下恵実の過去作品『そこに立つ』では、関東圏の電車内で交わされがちな会話、だけで成立している戯曲で、乗客のプロフィールも何も知らずに突然始まる会話から断片的な情報を拾って何とか状況を認識する(出来ないこともある)ことが観客に求められる。同じく青年団演出部の私は私で、はじめの説明ゼリフを次の説明ゼリフで裏切り、次の説明ゼリフで更に設定自体を裏切り、やがて語り手を誰も信じられなくなる…という撹乱目的の戯曲を発表するなど、とにかく丁寧に物語を説明しないことに血道をあげている作品が多い、それが青年団界隈なのである(※個人の独断と偏見に基づいています)。むしろ文学座をディープに観ている方はこちらの界隈の作品をいきなり観たときに「エッ…説明はゼロ…?」となってしまわないか心配になったほど、文化が違った。
 しかし、こういった歴史上の実在の人物を題材にした作品を観た経験そのものが少ないので見当違いの疑問だったら申し訳ないのだが、話の中心となる岡本かの子の周囲にとってはた迷惑な、衝動的な言動や行動、波乱万丈な生涯を追っていくぶんには違和感なく観れたのだけれど(最初から最後まで吉野実紗は熱演の一言だった)その物語を丁寧に説明していく比較的地味な好青年の役が岡本太郎だとわかったときの「うん? 岡本太郎ってあの岡本太郎? 芸術は爆発だ! のあの岡本太郎であってる?」という拭い難い違和感が発生したのもまた事実。岡本太郎は本を何冊か持っていて、ある程度はどのような生涯を送ったか把握しているだけに、整合性が若干気になった。岡本かの子が中心だから、岡本太郎の人物造形には目をつぶったほうがいいのだろうか。それもまた知らない文化だ。


チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。