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社会に変化をつくる”共創”とはなにか?どう実現するのか?

こんにちは、きびです🙋‍♀️
今日は「社会に変化をつくる”共創”とはなにか?どう実現するのか?」についてお話ししたいと思います。

【サマリー】
・1章では「この調査をはじめた目的と背景」について
・2章では「共創でなにができるのか」について
・3章では「共創事例を分析した調査結果から得た知見」について
・4章では「実際のプロジェクトでの活用」について
・5章ではまとめとして「PURPOSEHOODの必要性」について
書いています。

パーパスモデル-人を巻き込む共創のつくりかた-

このリサーチをきっかけに、書籍が発売となりました。(2年がかり!)
noteに書けていない内容盛りだくさんになっています。よければ是非。

1. なぜ共創が必要か?

はじめに

■この研究に取り組む2つの理由

私は普段、オープンイノベーションや共創を試行する産官学民のアライアンス組織である一般社団法人FCAJでリサーチをしながら、都市に関わる企業のイノベーション推進部門で働いています。20代で企業だけでなく、行政、大学研究機関など様々な立場の共創に取り組む人と関わったり、リサーチをしているのは少し珍しい経歴かもしれません。

その中でオープンイノベーション!共創!と様々な組織が発信しているけれど、『共創で具体的に何ができて、実際取り組むときどう実践していけばいいのか?』という前提への理解が曖昧なまま、いろいろなことが進んでいるのにもやもやしたのが、リサーチをはじめた1つ目の理由です。

もう1つの理由は「閉塞感のある今の社会にもやもやして、なにか変化を起こしたいと思っているひとに、共創という考えと、できることや事例を共有したい」と思ったからです。

これまでは国や企業が社会を主導してきましたが、これからは「私」を主語に社会を語り、「私たち」で変化をつくっていく時代です。
イノベーションを主導し、停滞感を打破するのはもはや国や大企業だけではありません。
違和感や疑問、これまでの当たり前に声をあげるのは私たち自身。
だからこそ、立場や属性を超えて「私たち」で変化を共に創る ”共創” という考え方はこれからの時代にとても大切になってくるものだと思います。

副業が広がった背景に1つの企業に囚われず生きていくための力をつける動きがあるように、共創の考え方を身につけることは、より自分が生きたい未来をつくることであり、広い視野と新しい価値を生み出す力としても役に立つはずです。

■言葉の定義
私は共創を「立場を越えた多様な人や組織が共に新しい価値(=変化)を創ること」と捉えています。

もともと共創という言葉は2004年にC.K.プラハラード氏とベンカト・ラマスワミ氏が、共著『The Future of Competition: Co-Creating Unique Value With Customers』で提起した概念「Co-creation」の日本語訳で、マーケティングの文脈で語られました。主に消費者参加型の商品やサービスの企画開発という意味で使われていましたが、現在はより広義に使われています。

背景と目的

■社会性が求められ、共創を目指す時代
昨今ESGやSDGsの考えを筆頭に「社会的意義を重視」「持続可能な社会」という考え方が広まっています。
同時に、変化の多い時代において、これまでの自前主義や縦割りの構造に限界を感じ、各所で共創やイノベーションの必要性が語られるようになってきました。

■共創を実現する上で多くの人がぶつかる課題
しかし、実際は試行錯誤の段階で、多くの組織は利害関係ベースの『協業』や『連携』にとどまっており、お互いに一歩踏み出し、共に新しい価値を創る『共創』に向かっているところはまだまだ少ない印象です。

実際私自身が見てきた活動でも
・技術起点でのアイデアで生活を置き去りにしちゃう
・他の組織や市民をどう巻き込んでいいかわからない
・1:1の協業に留まっていてお互いの利益しか考えられていない
ということが起こっていました。

一方、個人として想いを持って取り組む人は大企業、行政、スタートアップに関わらず、確実に増えてきているとも感じています。これはとても希望がもてることだなと思っています。

■この調査の目的
今回の調査の目的は共創という概念を手触りあるものにすること。
共創はイノベーションや経営戦略の文脈で重要な概念として語られることが多いですが、概念そのものを具体的に掘り下げたり、手法を体系化し、評価したものはまだ少ないので、「共創で何ができるの?」「どうすればいいの?」「どんな共創がいいの?」というのが明らかにできればと思っています。(もし論文などで参考になるものがあれば是非教えてほしいです)

すでに共創の手法として体系化されているもののひとつに「コレクティブインパクト」があります。

コレクティブ・インパクト=特定の複雑な課題を解決するための、異なるセクターの重要な当事者(actors)からなるグループによる、共通のアジェンダに対するコミットメント

複数のセクターで課題を共有しながらアクションを行っていくあり方で、ソーシャルセクターを中心に多数の実践と研究が行われています。

私もこの考え方や5原則にもとても賛同していますが、
今回は
・中間支援団体のあるなしを問わず
・社会課題からのブレイクダウンでもなく
・分散的な活動というよりプロジェクト単位で

もう少し草の根的な共創活動をみていきたいと思っています。

2. 共創とはなにか?

言葉はきいたことがあるけど、共創で実際どんなことができるのだろう?と思ったことはありませんか?

私もそのひとりです。

まずは今回調査した事例の中からいくつか取り上げながら、その輪郭を共有していきたいと思います。事例の選定基準や分析方法については3章にて後述します。

どんな成果を目指して共創に取り組んでいるか8つのパターン

今回30事例を調査し「どんな成果を目指して共創に取り組んでいるか」で分け、共創でできることを8つのパターンに分類しました。

通常共創やオープンイノベーションの事例として紹介されるのは『(新規)事業をつくる』ことを成果とするものが多く、分類も「プロダクト」なのか「サービス」なのかといった事業の種類はよく見かけますが、今回のように事業をつくるだけでない『共創でできること』をまとめたものはほとんどないと思います。

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※今回はわかりやすいように8パターンに事例を1つずつ分類していますが、実際は①が中心だけど、③も⑧も行っているという事例もあるので、事例の主な切り口とご理解いただければ幸いです。

では、ひとつずつ例を交えながら簡単に説明します。

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①関係をつくる:これまで個別に取り組まれてきた複合的な課題に対して、組織や人との議論の機会やマッチングを行ない、関係をつくること。

例えば、BLOXHUBのアーバンパートナーチーム。
都市化の課題を扱うBLOXHUBでは自転車の駐輪場問題について、建築家・デザイナー・社会学者・モビリティの専門家・企業・コペンハーゲン市民などとセクター横断で課題を特定し、アイデアを議論する機会をつくる。
https://bloxhub.org/impact-stories/bicycle-parking-in-copenhagen/

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②基準をつくる:目標に賛同する複数の組織で、これからの社会に必要だがまだない新しい基準や規則を専門家や関係者と共につくること。

例えば、パタゴニアが新規事業の食品事業をきっかけに取り組んだRegenerative Organic Certified。
環境再生型のオーガニック基準を研究機関とサプライチェーン全体でつくり、認証制度をつくる取り組み。現行の工業型農業のままだと60年以内に表土が喪失するという危機に生産者・ブランド・研究者・消費者が共に取り組むことで解決の方向に向かうための基準づくりを行う。

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③共通認識をつくる:立場や領域を横断した共通認識をつくり、社会に提言・宣言し、世論を形成していくことで、共通認識に基づいたアクションが実行されるインセンティブをつくること。

例えば、宗像国際環境会議とそこで行われた宣言。
環境問題に取り組む際に、大きな目標は同じだが、手法や立場で対立してしまいがちになるという課題を、宗像大社が中心となることでアニミズム精神(環境問題は人間の心の問題とすることで)国際的な専門家や自治体の首長、地元の漁業関係者、大学や学生など立場を超えたひとと、海の環境課題とこれから向かう方向を共有している。

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④事業をつくる:これまでになかった新たな事業領域をつくる上で、対象となるユーザーや市民、専門家など複層的な関係者を巻き込みその知見を得ながらサービスや技術を開発し、事業を形づくること。

例えば、LEO Innovation Labの1プロジェクトImagine。
新しい薬の開発でなく、ユーザーと医師とテクノロジーで診療体験のアップデートに取り組んでいる。Imagineは症状が変化しやすく誤診も多い慢性皮膚疾患のためのアプリ。症状を撮影し状態を記録、そのデータを医師に共有することで誤診を減らし、匿名化したデータを研究にも役立てている。

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⑤場をつくる:新たなコンセプトを打ち立てた場をつくることで、これまでになかったコミュニケーションや実験的な活動が誘発される環境をつくること(場はリアル・バーチャル問わない)。

例えば、DeCeuvel
汚染された廃船場跡地を大学との共同研究で再生しながらサーキュラーエコノミーの開かれた実験場として活用している。アーティストやスタートアップのオフィスやホテル、カフェなどがあり様々な人が訪れる。そういった場を使ってクリーンエネルギーや藻で作るハンバーガー、仮想通貨などの社会実装の実験を生活者のいる場で行うことができる。

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⑥共同体をつくる:活動に賛同する個人や組織を増やしていき、同じ目標に向かって各々活動に貢献する共同体をつくること。

例えば、HighLineの運営団体フレンズオブハイラインと支援者
最初はたった二人の青年が始めた廃線の保全活動だったが、地道な発信を重ねる中で、徐々に大口寄付者、市民ボランティア、市長の賛同を得て公園化し、今ではNYを代表する観光地になった。フレンズオブハイラインという運営団体の名称にも現れているように、この場所の価値を未来に繋ぐ活動を共に行う”友人のような”共同体がこの活動を支えている。

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⑦人を育てる:必要な関係者を巻き込みながら、これからの時代を生きる人が身につけておくべき知識や力を得る機会を増やし、未来への投資を行うこと。

例えば、ユニリーバのブランドDoveのCSRの取り組みDove self esteem project 
消費財メーカーが長年発信してきた外見的な「美」の概念が、人の自己肯定感を下げ、チャレンジを妨げていたことに気づいたDoveは、内面の「美」に向き合い、人の自己肯定感を育むためのプログラムを研究機関とつくり、ユニセフやガールスカウト連盟などを通じて、200万人を超える世界中の子どもや女性に届ける活動を行っている。

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⑧公共を開く:これまで公的機関が単独で行ってきたが、課題が複雑化する中でその手に負えない部分を民間や市民と共に取り組むことでよりよい状態にすること。

例えば、ソーシャルイノベーションに取り組むWaag Society&Technologyのhollandse luchten(オランダの空)プロジェクト。
市民調査が公的機関で不足しているデータを補う市民が簡易センサーを設置し、自らの生活環境(大気汚染)の状態を可視化する取り組み。
大気汚染による健康被害が問題視されているにも関わらず、公的機関の定点観測では十分に把握できていない。Waagは自治体、研究所を巻き込み、今あるギャップを市民調査で埋めることで、大気汚染による健康被害の解決に取り組んでいる。

まとめ

これらの8事例だけでも、共創という手法を使ってできることのイメージが少しついたのではないでしょうか?

総じて、一組織だけではできない、社会に新たな価値をつくり、変化をうむためのインパクトのあるアプローチであることが分かりました。

共創は『短期的直接的には利益にはなりづらいが、長期的にみて組織としても社会としてもより価値がある状態にする手法』とも捉えられるかもしれません。

企業にとってみても、共創することで、ブランド力をあげたり、大きなムーブメントをつくったり、消費者から支持されたり、そもそも無形資産を増やしたり、新しい市場を生み出したり、投資家から資金を集められたり、自社だけでは実現できなかったことが可能になったり、時代の変化に対応して事業の変革ができたりと、大きな価値があります。

この記事をみて、共創の価値を信じることができる人が一人でも増えたらいいなあとおもっています。

3. 共創の事例を1つのモデルで表現する

ここから、共創の事例をさらに分析していくために、共創事例をパーパスモデルという1つのフレームに当てはめて見ていきます。

共創を可視化するツール「パーパスモデル」

パーパスモデルは、共創を可視化するためのツールです。
図の外側からステークホルダーの名称、役割、目的(動機)を書くことで、今まで見えづらかった「どんな人がどんな思いでどう関わっているか」を捉えることができます。また、中心に複数の主体が共感する「共通目的」を書くことで、「何のために取り組むのか」を図解により明確に視覚化することができます。

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次に、パーパスモデルの具体的な見方について説明します。

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まずは図の上下の意味。下半分は『価値をつくる側』です。
共通目的に向かって主体性をもって動く関係者のことを指します。
プロジェクトのオーナーや一緒に取り組むパートナーですね。

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そして上半分は『価値をうけとる側』です。
場の利用者、アプリやサービスのユーザー、顧客企業など、価値を求めて対価を支払う関係者が入ります。

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4つの色分けは『企業』『行政』『市民』『大学/研究機関』になっており、ステークホルダーをこのいずれかの色で塗り分けます。
※一般社団法人やNPOは『大学/研究機関』の紫です。
※財団はその財源がどの属性によるものかによって色が変化します。

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次にそれぞれのエリアに何を書くかです。
まず、外側から『ステークホルダー』
プロジェクトの影響を受ける関係者です。
近年、株主だけでなく、顧客や地域コミュニティ、従業員、環境、自治体など配慮すべきステークホルダーを広い視野で捉えることが重要になっていますね。

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という感じです。
ちなみに、『場』とありますが、これは物理的な空間や場所のことだけでなく、プロジェクトやコンソーシアム、プラットフォーム、組織など価値を生み出す環境のことを指します。

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ひとつのブロックでみるとこんな感じ。
ステークホルダーの名前・役割・目的が真ん中の『場と共通目的』につながっています。

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この図は関係者が多いプロジェクトや事業の整理に向いています。
例えば「企業がユーザーにサービスを提供する。」というものだと上記のようになってしまい、あまり効果を発揮できません・・・。

ここからは、実際の事例でみてみましょう。

例:LEO Innovation Lab

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例えば先程の共創でできることでもご紹介した LEOの例です。
企業・企業に紐づく財団は青、専門家である医師は紫、開発協力者の当事者とユーザーはオレンジと3つの属性が見て取れます。

次に真ん中の共通目的のところに着目しましょう。
製薬会社としての目的は「自社のイノベーションのための研究開発」かもしれません。しかし、『患者の診療体験をアップデートすること』を共通目的として真ん中におくことで、患者は自分自身が便利になったり、医者は負担が減ったり論文の材料になったりと自分たちごととして関わることができるようになります。

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上の図で比較しているように、このツールを用いることで、アウトプットを見るだけでは見えてこなかった「どんな人がどんな思いでどう関わっているか」を捉えることができます。

どんな事例を取り上げるか?

共創の好事例とする基準は以下としました。

・業務提携や協業でなく、既存分野から一歩踏み出す新しいチャレンジがあるもの
・単発ではなく継続しているもの
・属性の異なる主体が2種類以上協力しているもの(企業とユーザーや大学と市民と自治体など)

今回の調査では共創とはなにかの全体感を掴むため、対象を広くとっています。
同様に、幅広く事例を集めることを意識し、主導するセクターや活動規模の大小、国内か海外か事例が偏らないように全体のバランスをみながら、実際に行ったりインタビューできるものを優先して30事例を分析しました。

パーパスモデルでみる共創事例

これまでnoteで公開してきたパーパスモデルでみる事例をあたらめていくつか紹介します。(①〜⑧は2章で述べた共創でできることの分類です。)

①関係をつくる
■Fashion for Good
ファッション産業のサステナビリティ向上を図るため、ミュージアムとインキュベーションの場から共創活動を行う組織

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概要
Fasion for Goodは、「持続可能なファッション」を理念に掲げ2017年に設立された株式会社。同じ理念を持ったスタートアップ、ブランド、消費者、投資家をつなげ、企業によるイノベーションと消費者の意識改革によってファッション産業のサスティナビリティ向上に取り組んでいる。
アムステルダムに消費者の意識改革を目的とした体験型ミュージアムとイノベーション創出を目的としたコワーキングスペースの複合施設「Fashion for Good Experience」を場として持つ。

背景
ファッション産業は、人間の活動によって排出される二酸化炭素量の10%を排出、全産業中2番目に水を多く消費し、マイクロプラスチックや染料による海洋汚染も深刻な地球環境汚染産業として知られる。
また、世界で何百万もの雇用を生み出しているが、賃金の低さや職場の安全性に関する労働環境問題が多く指摘されている。
そのため、現状の産業構造の抜本的な改革が求められている。

具体的に何をしたのか
同社は持続可能なファッション産業を実現する「良いファッション」の条件として、Good Materials、Good Economy、Good Energy、Good water、Good Livesという5つのグッドを提示。

さらに、投資ファンド『Good Fashion Fund』を創設し、ファッション産業におけるイノベーション創出を志すスタートアップに向けてアクセラレータプログラムとスケーリングプログラムを提供。スタートアップへメンターや専門家によるアドバイス、資金、オフィス、実証実験のフィールド、大企業とのマッチング等を提供する。南アジアの工場は生産や労働の実証実験の場になっている。

アクセラレータプログラムでは、毎年有望なスタートアップを10〜15社選考。重点的に投資する分野は、「原材料」「処理方法」「製造方法」「透明性」「トレーサビリティー」「廃棄方法」「労働者のエンパワーメント」「パッケージング」等。アクセラレータプログラムを経てブラッシュアップされた事業や技術は、スケーリングプログラムにて大企業と共に市場でテストされ、拡大を目指す。

体験型ミュージアムでは、地下「歴史」、1階「現在」、2階「未来」というテーマでインタラクティブな体験を構築、学ぶだけではなく自分事としてファッション産業について考え、訪れた次の日からアクションに移せるような仕組みを提供している。

②基準をつくる
■Regenerative Organic Certified
サプライチェーン全体でつくる、環境再生型のオーガニック認証

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概要
Regenerative Organic Certifiedは、パタゴニアが主導し、研究機関・大学・非営利団体・消費者・生産者・ブランドと共につくった環境再生型のオーガニック基準である。(Regenerative Organic Alliance(以下ROA)は彼らの協働組織の名称)

背景

アメリカでは、土壌は補充される10倍のスピードで失われており、科学者の予測では、現行の工業型農業慣行と森林伐採では、60年以内に利用可能な表土が喪失してしまうといわれている。

具体的に何をしたのか

ROAは「リジェネラティブ(環境再生型)」に加え、化学合成農薬や化学肥料に頼らず、土壌の持つ力を活かして環境への負荷をできる限り少なくする「オーガニック」の概念を加えて基準を作ることに取り組んだ。オーガニック基準のベースには米国農務省が既に出しているものを元に、有機農法の民間研究機関であるロデール・インスティチュートの科学者たちと協働し、よりハードルの高い認証制度をつくった。彼らは環境再生型農法を世界中で導入すれば、気候変動を止められる可能性もあると指摘している。
きっかけはパタゴニアが新規事業である「パタゴニアプロビジョンズ」(地球を再生するイノベーティブな方法で調達された製品に焦点を当てた食品事業)を通して農業の重要性に気づいたことで、この認証制度に取り組んだ。企業が理念を持ってマルチステークホルダーで共創しながら新たにソーシャルグッドな市場を作っている貴重な一例である。(※パタゴニアの企業理念は2019年にアップデートされ「We’re in business to save our home planet.(私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む)」となっている。)
パタゴニアおよびROAは投資家には長期的思考で持続可能なサプライチェーンへの投資を呼びかけ、オーガニックブランドを持つ企業には認証を勧め、政府には再生型農業を促進する補助金や制度に取り組むようさらなる協働を呼びかけている。

■B-Corp
環境や社会に配慮した「良い会社」に与えられる認証制度

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概要
B Corpは、米国の非営利団体「B Lab」が運営する、環境や社会に配慮した「良い会社」に対して与えられる認証制度で、2020年12月現在世界70ヵ国、3500社ほどが認証されている。

背景

これまでもフェアトレード認証やLEED認証など社会や環境に配慮した認証制度はあったが、会社そのもののあり方を認証するものはなかった。2007年、『ビジネスの成功を再定義し、より包括的で持続可能な経済を加速させる』ためB Labが設立された。
B Labのファウンダーの二人は、スタンフォード大の同級生で、元々スポーツ・アパレルのブランド「AND 1」を創立し、B Corpの基準となるような会社経営をしていた。

具体的に何をしたのか
「ガバナンス」「ワーカーズ」「コミュニティ」「環境」という4つの分類で認証基準をつくり、スコアを数値化する。企業は認証を取得するため200点満点中80点以上の厳しい基準をクリアしなければならない。また、売上高に応じた年会費を支払う仕組みも企業規模に関わらず認証を受けられるのがうまい。

さらに企業は特定の条件ではあるが会社の定款に『公益に寄与する』ことを明記する必要まである。また、認証は3年ごとに更新があり、都度チェックを受けなければならないため、認定された企業も一度認証をクリアしたら終わりではなく、常にアップデートしていくことが求められる。
それだけの厳しい基準をクリアすることで、良い会社であることが社会的に認知され、消費者が認証された商品を積極的に購入したり、認証された会社で働きたいという人が増えたりしている。厳しい基準を策定するために、学者、起業家、投資家、思想家などからなる独立した諮問委員会を設置し、第三者的な視点を入れている。

最初は19の会社に認証を与えるところから始まったボトムアップの取り組み、だが、株主至上主義に疑問をもつ若い世代の共感を経て現在は世界的なムーブメントに広がっている。B LABは地域ごとに組成され、認証基準もそれぞれの国、地域、業種によってローカライズされ、いまもアップデートされ続けている。

また、弁護士とともに、NPOでも株式会社でもない新たな法人形態である「Benefit Corporation」を制定するよう自治体や国に働きかけるなど、単なる民間の認証ではなく、公的なものにする活動も行っている。

③共通認識をつくる
宗像国際環境会議
世界文化遺産と自然信仰という国際的な強みを元に、官民学が共に取り組む海の環境保全活動コンソーシアム

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概要
普段見えづらい”海の環境問題”を起点に、研究者・大学・企業・学生・NPOなど立場を超えた人々が年に一回集まり議論する、“環境版ダボス会議”である。海の環境保全の啓発のためのシンポジウム、講演会、交流会、フィールドワーク、子どもたちの育成プログラムを実施する。

背景

宗像市は福岡市と北九州市の間に位置する人口9万7,000人ほどの地方都市。2017年に「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群が、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。
世界遺産登録の機運が高まる2014年、地球の温暖化、磯焼け問題、プラスチック等の漂着ごみ問題などの影響で年々厳しい状況に置かれる漁業関係者の声を聴き、環境問題に長年携わる経験を持つ宗像大社の宮司を中心に、宗像市と共に「海の環境保全を進めていくべき」との思いで委員会が設立された。

具体的に何をしたのか

宗像というローカルなフィールドで大学や企業と地元の学生や漁協が組み、実証実験やエコツーリズムの事業化を試行しつつ、国際会議では県知事や環境省の方も出席し、国際的な研究者や経営者と共にグローバルな視点で考えるという「Think Global Act Local」を体現している貴重な国内事例である。

また、こういった環境活動はいろいろな人が集まれば集まるほど『地球環境を元に戻したい』という大きな目的は同じでも、解決手法で分断を生むこともあるが、この活動は宗像大社が中心にいることで、アニミズムの世界観で環境問題を”心の問題”として捉え、あらゆる立場の人が気持ちを重ねられるため、ゆるやかなまとまりをつくっている。

さらに、宗像の取り組みを元に、世界遺産の観光としての活用と、環境保全活動を同時に実践していくための広域ネットワークを構築する構想も興味深い。

このように、この場所の歴史や文化から生まれる強いコンセプトとストーリー、地元から県外・国外の関係者を同じ場に巻き込み、実践と議論、さらには人の育成に横断的に取り組むパワフルな活動が日本発で起きていることにとても感動した事例。

④事業をつくる
■日本環境設計Bring
服の回収からリサイクル、再生素材を使った洋服の販売までを行うブランド

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概要
Bringは日本環境設計が主導し、様々な企業や消費者と共に衣服のリサイクルを行う取り組み。

背景

世界では毎年9200万トン、日本でも年間およそ147万トンもの衣服・繊維くずが廃棄されており、これらの多くが焼却もしくは埋め立て処分されている。
衣服を作るためには、石油などの資源が必要になる。そうした地下資源は有限のものであり、このまま大量に作って処分されることが続くと、石油は枯渇していき、やがて資源を巡って国同士での争いが起きかねない。
そのため、衣服を大量廃棄するのではなく、古着を回収し化学分解して再生原料を生成。そこから再度服をつくるという資源循環の仕組みを作って、服に含まれるポリエステルの原料である石油の使用料削減に貢献しようとしている。

具体的に何をしたのか
資源循環を成立させるために、大きく2つのアプローチがある。
1つめは、多くの企業と連携するもの。
コンセプトに賛同した企業が、古着の回収拠点を提供。消費者から古着を回収し、日本環境設計に送られる。その中で、ポリエステル製品に関しては工場で再生ポリエステル樹脂に生まれ変わらせ、その他の素材はパートナー企業の元でリサイクルする
2つめは、日本環境設計単独で行うもの。
同社が運営するBringのサイトで、消費者が商品を注文すると、着なくなった服をリサイクルに送るための発送封筒も一緒に届く。その服をリサイクルしようと思ったタイミングで封筒に入れてポストに投函すると、同社の工場で服の原料にリサイクルされる。
このプロジェクトは消費者参加型の仕組みを作ったことに特徴がある。その仕組みとは回収箱の設置である。良品計画や丸井などの大手も含む、多数の企業の協力のもと、回収箱を設置して消費者から古着を集める仕組みを作った。最初は協力してくれる企業は数社からスタートしたが、今では100社以上の企業と一緒に取り組んでいるとのこと。

また、回収する仕組みを整えるだけではなく、多くの人に参加してもらうためのエンターテインメントに力を入れている。例えば、ショッピングモールなどでデロリアンを持ち込んだイベントを開催し、環境意識が高いわけではない人でも、楽しいと思ってもらって巻き込めるようにした。

このように、生産者だけではなく、消費者も巻き込んだプラットフォームとして循環の輪を広げていく活動を続けている。

⑤場をつくる
■DeCeuvel
官民で取り組むサーキュラーエコノミーの実験区(リビングラボ)

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概要
元廃船場をリノベーションした循環型の生活を実現するためのオープンな社会実験場(リビングラボ)。そのコンセプトに賛同するスタートアップやアーティストが入居するオフィスや、WSを行うイベントスペース、カフェ、ホテルがある複合的な場。

背景
運河に囲まれたオランダにとって「水」はとても重要であり、気候変動に対する意識、循環型のライフスタイルへの移行は日本よりも一般市民のレベルで高い。
元々は造船所で船からの油などで水質汚染が起きてしまっていたエリア。市は再開発を行うにあたって、民間からアイデアを募集した。他が埋立て案を出す中、建築家チームSpace and matterの「その場にある廃船をオフィスやカフェに活用した計画と大学と連携して植物によって水を濾過するシステムを実験し、サーキュラーエコノミーの実験区にする」アイデアが評価され、実現した。市は水質改善基準を定め、De Ceuvelはそれに向かって活動している。

De Ceuvelがある北エリアはかつての工業地帯の倉庫跡地などを活用し、アーティストやクリエイターが集まるエリアになっており、周辺にいる人とこの場所の相性も良い。
研究所を中心としたリビングラボよりも開かれており、若者の集まる豊富な居場所がある近水空間が豊かなパブリックスペースになっている。

具体的に何をしたか
水質改善の実証プロジェクトのほか、藻でできた肉を開発するスタートアップのつくるハンバーガーをカフェで提供していたり、クリーンエネルギーを開発する企業が電力の循環の実験や仮想通貨などの実験も行われており、ここで検証したものを市内に広げていく構想もある。

■Polipoli
政治家に直接意見を届けられる政治プラットフォーム

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概要
PoliPoliは、「社会の意思決定をサポートする」をミッションに掲げ、政治家と有権者をつなぐ政治プラットフォーム。PoilPoliのサイト上で、国会議員が国の課題とそれをどういう政策で解決するかを提示して、それに共感した市民が政策の推進に協力ができる。

背景
これまでの社会では、国の大きな課題がマスコミによって発信され、市民は投票することで政治に意見を届けていた。しかし、インターネットの登場によって、これまで可視化されていなかった多種多様な課題が可視化された。

それらの課題に政治家も対応しようとするが、なかなかその解決がおいつかず、市民も意見が届かないと無力感などを感じてしまう。そうした状況を解決しようとしているのが、PoliPoliだ。

具体的に何をしたのか
PoliPoliでは、政治家が政策を提案し、それを市民が応援できる。政策はインフォグラフィクスで解説されており、なぜその政策が必要なのか、目標は何か、ということが理解しやすくなっている。
市民はそれに共感したら、コメントでその政策を推進する政治家を応援したり、意見を提示したりする。また、直接議員に会って話したい場合もアプローチができる。もし既存の政策で解決されていない問題があったとした場合、政策のリクエストも可能だ。
政策を推進する過程で国会議員から活動報告も行われるため、自分たちの意見が届いている実感を得ることができる。
また、市民の関わり方として「アンバサダー」というものがあり、PoliPoliがよりよいサービスになるように運営を協力することもできる。

きっかけは、株式会社PoliPoli代表の伊藤和真さんが19歳の時の衆議院選挙。インターネットが当たり前の時代に、アナログな仕組みで選挙が行われていることに違和感を感じて、アプリを開発したことがはじまり。
2019年12月にアプリからWebに移行し、当初のサービスのコンセプトを刷新するなど、試行錯誤を続けている。テクノロジーの力で新しい政治の仕組みをつくっていく新しいチャレンジに今後も注目していきたい。

⑥共同体をつくる
■High Line(ハイライン)
ニューヨークの観光名所である、貨物鉄道の廃線跡を使った線形の空中公園

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via - thehighline.org (Photo by Rick Darke)


概要

2009年から公開された、貨物列車の廃線跡を利用した空中緑道および公園。年間450万人以上が訪れる、ニューヨーク市を代表する観光名所である。
高架部分を利用した地上9 m(ビル3 階建てに相当)の高さから、マンハッタンやハドソンリバーの景色を望むことができる。建物やデザインに残された廃線、美しい自然、個性的なアートなどを楽しめる、全長2.3kmの散策路となっている。

背景

ハイラインがあった場所は、1934年から貨物鉄道が運行していたが、1980年に廃止、長らく放置されエリアの治安も悪化し、1990年代には廃線の撤去を市長が決定していた。
1999 年、保存のための集会で出会った近隣住民2 人が、ハイラインの保存活用を推進する「NPO 団体フレンズオブハイライン」を設立する。廃線跡を公園化したパリのプロムナード・プランテの成功事例(1993年に公開)もあり、「新たな公共空間の創出」が活動目的となっていった。

活動の基本は地道な寄付金集めだったが、一流の写真家によるハイライン写真集の発表、著名人(俳優やデザイナー)による莫大な寄付が、初期の認知度向上と賛同者の獲得に大きく貢献した。
市の取壊計画の撤回を求める訴訟など、様々な活動を続ける中で、新しい市長の当選が大きな契機となった。市はフレンズオブハイラインの提案を受けて連携し、約50 億円の公園化予算を確保し、公園建設に乗り出す。

具体的に何をしたのか

公園は市によって建設されたが、維持運営はフレンズオブハイラインが行い、年間予算のほぼ100%を賄う。
運営管理はフレンズオブハイラインのコミュニティボランティアの力を借りており、ドロップイン形式から参加ができる。その他、教育パートナーシップを組むことなども可能で、様々な関わり方で、非常に多くの人々が運営に関係している。市の計画や予算に関係なく運営を続けられるのは大きな強みである。
結果として、市内2位の観光客数を誇る観光名所となった中、ホイットニー美術館を初めとした近隣の不動産開発に拍車をかけ、土地の価値向上に貢献した。
他に、地価が向上しても元の住民が暮らせる住居の確保、開発権の移転、持続可能性社会への貢献など、フレンズオブハイラインが行った活動は数えきれない。

ハイラインはたった2人の夢から始まり、あらゆる困難を乗り越えて、不可能を現実に変えた。ハイラインは単なる公園ではなく生きたコミュニティであり、世界中の何万という人々の共感・協力の物語を繋ぐ場所になっている。

⑦人を育てる
■Dove Self-Esteem Project
固定概念に縛られて生きた「美」の概念を解放し、自己肯定感を高めるためのプロジェクト

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概要
固定概念に縛られてきた「美」の概念を解放し、自己肯定感を高めるプロジェクト。主に若年層の女性を中心に、その親、そして教員向けの自己肯定感を高める教育プログラムを提供している。

背景

ダヴは2004年から「リアルビューティー」というコンセプトでキャンペーンを実施している。当初の調査の中で、世界中の女性が自分を美しいと思う割合がたったの4%であり、10人に6人もの少女たちが、さまざまな活動を自分の外見が好きでないという理由で諦めてしまっているという結果に衝撃を受け、『美しさが悩みの種ではなく、その人の自信の源となる』ように容姿への自信と自己肯定感を高めるプログラムの提供を始めた。

具体的に何をしたのか
2010年までに500万人の少女にプログラムを提供することをミッションに、キャンペーンを行い、基金をつくって同じ目的のもと協働できるパートナーに資金提供を行った。2020年までに2000万人へのプログラム提供という目標も達成しており、現在もガールスカウト世界連盟(対女性)やユニセフ(対こども)、女性皮膚科学学会(対皮膚科医)などと連携し、自己肯定感を高めるプログラムの受講者を広げている。プログラムの作成には心理学や社会学の専門家も入っている。

1つの企業がブランドのパーパスを突き詰めて行った先に、世界中のひとが美しくあるために『自己肯定感のなさ』という社会の課題に向き合い、長期的に、そして資金を投じて、専門家や国際的な活動体と連携しながら価値観のアップデートに取り組んでいる姿がすばらしい。単純に購買促進させる広告ではなく、意識あるメッセージの発信とキャンペーンにとどまらない実際のアクションが結果的にDoveのブランディングに繋がり、ユニリーバ自体の価値にも貢献していると思われる。

⑧公共を開く
■g0v(零次政府)
情報の透明性を追求し人々の政治参加を促す台湾のシビックハッカーコミュニティ

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概要
g0v(零時政府。ガヴ・ゼロと読む。)は、台湾のシビックハッカーコミュニティ。
シビックハッカーとは、社会問題の解決に取り組む民間のエンジニアのこと。g0vという名称は、政府の略称「gov」に対して、政治をゼロから再考するというスタンスを示している。ちなみに、台湾のデジタル担当大臣として昨今話題のオードリー・タンも、このメンバーである。

背景

g0vが始まるきっかけとなったのが、2012年2月に行政院が打ち出した〈経済力推進プラン(原名:経済動能推升方案)〉の動画広告。その政策の情報の不透明さに対して憤りを感じた4人のシビックハッカーが、政府の予算データをオープンデータ化した。この成功を踏まえ、2012年末にg0vが設立した。

こうした背景から、彼らは情報の透明性によって、人々が、政府がより効率的になるように監視することができ、様々な活動に参加できるようになることで、民主主義の質を高めるということを信じて活動をしている。
そのために市民参加型で様々なプロジェクトを発足し、情報の透明性を追求するオンラインコミュニティという立場で、市民参加のための情報プラットフォームの開発およびツールの開発を行っている。

具体的に何をしたのか
具体的な活動の中身としては、g0vでは、シビックハッカーが2ヶ月に1回のハッカソンを開催している。ハッカソンとは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語で、エンジニアやデザイナーらが一定期間、集中して開発作業を行うイベントのこと。具体的な活動の中身としては、g0vでは、シビックハッカーが2ヶ月に1回のハッカソンを開催している。
ハッカソンとは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語で、エンジニアやデザイナーらが一定期間、集中して開発作業を行うイベントのこと。g0vのハッカソンでは、市民から自発的に議題をあげてもらい、そこに政府の関係者や専門家に加わってもらいながら、オープンな場で討論する。

また、2年に1度には、国内外から参加者を募り、サミットを開催。様々なセッションやワークショップを行いながら、社会課題について考える会が行われる。このサミットの参加者には公務員などの非エンジニアの人も多い。g0vはあくまでも技術ではなく、社会問題をテーマとしているからだ。

このように、市民の声を聞きながら開発を進めるだけでなく、広くその活動をオープンにすることで、情報の透明性と市民の参加を促し、民主主義を推進している。

4. 共創事例を考察する

複数の事例を比較して

共創で新たな価値を生み出している好事例を30個細かく見ていく中で、パーパスモデルというフレーム考案時に共創プロジェクトにおいて重要なことと仮説立てていた以下の3つの要件はいずれも満たされていました。

・立場を超えて共感できる『共通目的がある』
・専門性やセクターの異なる人や組織が一歩踏み出して『一緒に取り組む』
・関わる人にそれぞれ『目的と役割が明確である』

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その他にも、以下のような共通項が読み取れました。

・共通目的が「持続可能な社会」などの抽象的な表現ではなく、「誰が何のためにどんな状態を目指してどんなアクションをするのか」という要素が入った活動の具体性が読み取れる解像度で表現できる活動が多い。

・共通目的に生活者やユーザーの視点が取り入れられているものはセクターを越えての協力関係を築きやすい。

・長期的な思考で共創の価値を信じることができる人や組織とその連帯が良い共創を成り立たせている。

・研究機関とうまく協働しているものは課題意識の仮説をデータや試算で示し、目指すビジョンや活動の成果の有効性を発信できている。

・それぞれの持つリソースをうまく使い、その組織、その都市ならではの独自性に基づいた目的には説得力があり、関わる人々も力強い。

・短期的に利益化しづらいイノベーティブな取り組みに対して。初期投資としての資金や中長期的な支援をする公共性の高い組織や資金集めの仕組みが重要である。
 →行政の単年度でなく、中長期的な資金提供や税制優遇
 →財団や公益団体による資金提供
 →民間人・民間企業からの寄付(税控除のインセンティブが強い)
 →活動に賛同する企業からの協賛
 →市民からの寄付やボランティア、学校との提携、研究費を含む、複数のキャッシュポイントによる分散した資金源の確保など

・構想に巻き込み、人や組織をつないでいく、共創のコアとなるキーパーソンまたは多様な専門性を持つ横断的な組織がいる。

・関わり度合いにグラデーション(中心的な関わりから一時的な関わり方まで)があるところは幅広い参加者を巻き込むことができている。

・価値をつくる側(図下側)に生活者やユーザーなどこれまで受け取る側だった存在が、主体的に参加している事例が多くあった。

(ここでは簡単にまとめて書きましたが、重要な気づきが多いので、書籍では事例も含めてこの辺りもっと掘り下げて書きます・・・!)

1つの事例を時系列で変化をみて

共創は時間とともにどう成長していくか?についてもみていきたいと思います。
パーパスモデルは、あくまでスナップショットで、ある一時点の状態を表しているにすぎません。時間の経過による変化を追うために、複数のパーパスモデルを書くことで、プロジェクトがどのように成長しているか変化を見ていきたいと思います。

例「BONUS TRACK」(⑤場を作る)
小田急線地下化により、地上にできた空地を活用した場所で、下北沢らしいこだわりを持った個人店を支え育てる新しい商店街

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小田急線地下化により、地上にできた空地の再開発で、「徒歩20分圏内に新たな発見がある毎日をつくりたい」という想いが込められた下北線路街プロジェクトの1つ。従来のトップダウン型開発ではなく、想いの共有から様々な関係者と共に作るボトムアップ型の開発が行われたことが特徴です。

隣接した道は世田谷区の区道で、区が舗装の統一などの協力をし、BONUSTRACKと一体的な空間になっています(画像右下!)

私も何度か訪れているのですが、一体感があるのは空間だけでなく、空気感もでした。
・お店の方達のチャレンジが感じられる、ここにしかない店舗ばかり
・机や椅子もほとんど共有
・ゴミをどのお店でも預かってくれる
・2回目にいったお店で顔を覚えていてくれる
など、オープンして間もないころに伺ったのに、とても人間味のある、あたたかい場所になっていました。

オープンすぐにこの空気が実現できたのは早い段階から共創に取り組み、想いを支える開発にこだわってきたことがとても重要だったのではないかと思います。

では、通常の開発の始まり方から、どう変化していったのか、どんな人が参加していったのかを4つの時系列で見ていきたいと思います。
(※モデルは企画者である小田急電鉄の方とともに作成しました。)

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BONUS TRACK 初期のパーパスモデル

世田谷区と小田急電鉄のみで計画がはじまった

まず過去、小田急と世田谷区のみで計画は始まります。
特に目的や場のイメージもありません。

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BONUS TRACK 転機のパーパスモデル

課題意識を持った違う分野のパートナーの存在や想いのある住人との出会いが転機になる

つぎに転機、小田急電鉄は短期的な利益を考えればここを駐車場にしてしまうこともできました。しかし、開発によりチェーン店が増え、高齢化や空き家の問題も抱えているこのまちを、長い目で見てよくしていくには「下北の個性を取り戻す」ような新しい再開発のあり方が必要ではないか・・・そんな課題意識に共感した異なる専門性をもつパートナーと想いのある住民との出会いから、どんな場をつくるべきかを模索していくことになります。

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BONUS TRACK 現在のパーパスモデル

収益の仕組みをつくり、ある意味で”実験”ができている関係者が増えた現在の形

そして、こちらが現在のかたち。一部駐車場にしながら企業としての収益性を担保しつつ、まだ更地の段階から出展者とチャレンジができる広さや価格の設定をしていきます。積極的な住民も意見を届けたり、ゴミ捨てやイベントを企画するなど主体的に関わる下側にきていることがわかります。

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 BONUS TRACK 未来のパーパスモデル

未来は行政も目的でつながる関係に。そして、周辺までエコシステムが拡大する

次が少し先のこうなってほしい未来の姿。

実際に変化が起き始めているんですが、2つポイントがあって、
・まだ積極的でない行政が主体的に関わる下側にきているところ
・もうひとつが沿線住民の一部が園芸部という植栽の管理をするパートナーになったり、空き家をもっている地主さんから活用の相談がきたりと、この場の活動をみて、元からいたステークホルダーの一部があらたな役割をもっていく・・・ということです。

このように、従来のトップダウン型開発ではなく、想いの共有から様々な関係者と共に作るボトムアップの開発を行ったのがこの豊かな空間の背景にあったことがわかります。
あたらしくてオープンしたてが最高ではなくて、だんだん熟成していくような場をいろんな組織や人がともにつくっていく活動が重要だなと思いました。

■プロジェクトの段階ごとにパーパスモデルは変化していく

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事業もいきなりシェア NO1になったり、習い事もいきなり達人になるなんてことはなく、だんだんと成熟していくものです。
共創も同様に、時間とともにフェーズが変化し、成長していくものなのですが、成功事例の「現在」が語られることが多く、最初からエコシステムができていたり、複数の関係者が協働しているように感じてしまう人も少なくないと感じます。

このように過程がわかることで、これからアクションを始める人の背中をおしたり、動き始めている人が次にどこにアプローチしていくかを考えたりする参考になれればなと思っています。

また、組織側が共創プロジェクトの試行錯誤の段階を理解し、きちんと評価することができたり、最初からたくさんの関係者を集めすぎてプロジェクトが倒れるなんてことが起きづらくなるのではとも期待しています。

他にも、
・共創プロジェクトを成功に導くには組織の戦略や政策など、文脈にのせることが重要
・共創の初期段階で構想を描き、関係者をつなぐ意思ある人とその連帯が重要
といったこともお話ししたいのですが、こちらもまた次回・・・

5. 実際のアクションを考える

ここまで1章でこれからの社会に変化をつくる手法として共創を位置付け、2章で共創でできることを紹介し、3章で具体事例をモデルで見て、4章で比較や変化から共創において重要なことを考察してきました。
5章は実際に自分がアクションを考えるときに役立てればという思いで、

・パーパスモデルの使えるタイミングと活用事例を紹介
・共創を考えるフレーム「パーパスモデル」のツールキットと自動化ツールについて
・共通目的のつくり方について
・良い共創を目指すための指標について

お話ししていければと思います。

パーパスモデルはどんなときにつかえるか?

パーパスモデルは以下のようなシーンで使って頂いています。

A. 新しいプロジェクトの内容の検討やアイデア説明に使用したい
B. 既存事業やプロジェクトの現状や経緯を整理し、今後の戦略を立てたい
C. 関係者の合意形成や新しいステークホルダーの発見・巻込みに使用したい
D. 見逃しているステークホルダーがいないか確認し、リスクヘッジしたい
E. 先行事例を研究・分析したい

前述した「ボーナストラック」の事例は、実際に担当者の方にお話をお伺いし、関係者への説明や社内でのコミュニケーションなどに使われています。
ほかにも、
・スタートアップの方で今後の戦略を立てるために、パーパスモデルを時系列で整理し、今後の展望を書いた方
・大学の研究室で事例研究のフォーマットとして使用してくださった方
・行政の主導する共創の場をつくるプロジェクトにおいて、関係者を一同にあつめ、パーパスモデルを使いワークショップを行うこともありました。

ツールキットについて

共創について考える人が1人でも増えればいいなという思いから、それを助けるツールとして、パーパスモデルを多くの方にご活用いただくために、ツールキットを配布しています。(現在約300名の方にダウンロードして頂きました・・・!)

ツールキットダウンロードはこちらの記事から💁‍♀️

ツールキットを使ってパーパスモデルをつくるためには、2段階のステップが必要になります。

❶スプレッドシートで必要な情報を入力する
❷専用の自動化ツールを使い、パーパスモデルをチェックしながら修正をする

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❶スプレッドシートで必要な情報を入力する

1つめは、パーパスモデルに必要な情報をスプレッドシートに入力する手順です。
「ステークホルダー」「属性」「役割」「目的」「場・プラットフォーム」「共通目的」を全て埋めていきます。文字数制限があるので注意(文字数を超えるとセルが赤くなります)。

❷専用の自動化ツールを使い、パーパスモデルをチェックしながら修正をする
2つめは、スプレッドシートの内容を全選択してコピーし、以下のページにアクセスします。

左上に入力欄があるので、そこにコピーした内容を貼り、ボタンを押すと、パーパスモデルの図が表示されます。

ページにアクセスするとこんな画面が開きます。

スクリーンショット 2021-03-04 15.49.46

左上に入力欄があるので、そこにコピーを貼り付け、更新ボタンを押します。そうすると、下のように図が自動で生成されます。現状は図の保存機能がないため、保存したい場合はスクリーンショットしてください。

スクリーンショット 2021-03-04 15.51.46

もう一度やりたい場合は画面をリロードしてください。最初の画面に戻ります。使い方のステップは以上です。

現在、プロトタイプで制作したもののため、もしかしたら不具合や使いにくい点もあるかもしれません。その場合はコメントなどください。

繰り返しになりますが、細かい文字のレイアウト調整などはしづらいので、あくまですぐに検討したり、ひとまず図解でみてみたい、というときに便利です。ベータ版のため、今後より使いやすい形にアップデートしていきたいと思っています。

もともとは、Macのkeynoteを使って、スライドで作成していたのですが、モデルの図が複雑になるため、1つ1つ図をつくるのが大変でした。ほかの人にも使ってもらうためには、より簡単な操作でつくることができなければなりません。

そのため、スプレッドシートに情報を入力さえできれば、簡単にモデルが可視化できるように自動化ツールを開発しています。ぜひご活用いただければ幸いです。

共通目的について

モデルの真ん中に描かれる言葉であり、共創プロジェクトにおいて重要な要素であると説明してきた共通目的ですが、この書き方や考え方について質問を頂くことが多いので、今回現時点でのまとめを初めて書きます。

■共通目的とはなにか
共通目的=複数の立場の人が自分ごとにできる目的。
社会的意義や共通善と自分ごとをつなぐ、レンズのようなもので、「私たち」を主語にしたアクションのイメージがつく表現をすること。
という定義をしています。

■なぜ共通目的が重要か
これまでのプロジェクトは受発注の関係や既に持っている価値を交換するものでした。
しかし、共創はお互いが一歩踏み出し、新しい価値をともにつくるもの。
特に、企業と大学、行政と市民など、立場の異なるひとが共にプロジェクトに取り組む時に重要なのは、どの立場からも自分ごとにできる「共通目的」を中心におくことです。

こちらの図をみてください。

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先程もご紹介したLEO Innovation Lab の例です。もう一度目的の部分をもてみましょう。
製薬会社としての目的は「自社のイノベーションのための研究開発」かもしれません。しかし、『患者の診療体験をアップデートすること』を共通目的として真ん中におくことで、患者は自分自身が便利になったり、医者は負担が減ったり論文の材料になったりと自分たちごととして関わることができるようになります。

■”ちょうどいい”共通目的の重要性
共通目的を真ん中におくことと共に、もうひとつお話ししたいのが”ちょうどいい”共通目的について。

近年「持続可能な社会」や「ウェルビーイング」など、社会的意義を掲げる企業や取り組みが増えてきています。大きな社会的意義を掲げることももちろん目的になりますが、抽象度が高くなりやすく、自分たち自身の動機まで落とし込めていないことが多々あります。全員が納得できるけど、誰も自分ごとにならず、アクションにつながりにくい、当たり障りのない目的になりがちです。

一方、先程話したように対象範囲が狭くなりすぎて、自分たちのことしか考えられていない目的設定も、誰かといっしょに取り組むことができなくなってしまうのでこちらもよくないです。

つまり、ざっくりしすぎないけど、自分と繋がっている感じがするくらいの
”ちょうどいい”解像度の目的を共通目的にすることが大事
です。

まずは今日このちょうどよさが大事だと伝えられればと思います。

参考研究:目的工学研究所/紺野登氏は大目的・中目的・小目的という表現で目的の階層性を提唱しています。わたしが”ちょうどいい”解像度と言っているのは彼らの『中目的/駆動目標』にあたります。

私自身もこの”ちょうどよさ”を掘り下げているところなのですが、ひとつのアプローチとして『共通目的の構造』を考えています。

■共通目的の構造
共通目的に以下の3つの要素をいれて書くというものです。

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・誰が
・何を、どのように
・どんな状態にする

たったこれだけのことですが、意外と書いてみると目的の具体性が増すのでおすすめです。
いくつか事例でみてみましょう。

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このように少し対象を言語化することで、少し具体的なアクションのイメージがつく表現になりました。
ちょうどよい共通目的の表現については引き続き研究を進めていきます。

良い共創を目指すための指標について

今回の調査では共創で何ができるのか?共創プロジェクトにおいて何が重要なのか?を考えてきました。様々な事例をみていくなかで、ではより良い共創とはどんなものなのか?という疑問が浮かんできます。

より良い共創を目指すために、共創プロジェクトの良し悪しをみる評価項目が必要です。そこで、現在今回の調査をベースに、良い共創に関する評価項目を作成しています。
まだα版のため、今回ここではまだ公開できませんが、もし一緒に研究したい、自分のプロジェクトを評価してみたいという方がいたらお問い合わせください。

ゆくゆくは、設問にこたえていくことでアセスメントができるようなツールを開発したいと考えています。

6. まとめ:PURPOSEHOODの必要性

共創は1人や1組織だけではできない、社会に新たな価値をつくり、変化をうむためのインパクトのあるアプローチであることが少しでも伝わっていればうれしいです。
そして、私と同じように何か行動したいけれど悩んでいるひとが、どうやって考えれば良いのだろう、どうしたら上司やクライアントを説得できるのだろうというときに、力になれれば幸いです💪

最後になりますが、これを読んでくださったみなさんと共有したい考え、『PURPOSESHOOD(パーパスフッド)』についてお話しさせてください。

今回共創プロジェクトをどうやって実践していくかという手法について中心に触れてきましたが、一番重要なのは「人」だと思っています。

突然1つのデータをお見せするのですが、
昨年出された『知識創造プリンシプルコンソーシアム』2020年の調査レポートで4,50代の日本のマネージャー・経営層に5年後の自社の課題についてアンケートを取った結果がこちらです。

スクリーンショット 2021-05-13 11.12.32

©︎2020 Knowledge Creating Principle Consortium 
(青と赤の四角は筆者追加)

上位にあるのは自社の利益のことばかり。
「社会課題」は最下位、「オープンイノベーション」「ビジョン」「ブランド力」といった項目も下の方に並んでいます。
自分の周りの感覚とのずれにとても衝撃を受けました・・・😇

この調査は一例かもしれませんが、SDGsを掲げる企業も増え、ESG情報の開示が任意から義務になり、非財務情報の可視化も進んでいるものの、現状まだ社会の構造として、短期的な利益にインセンティブがあるのも事実です。

そんな中、良い共創は、自社や自分の利益だけでなく、関係者や未来のことを考えることが、結果的に自分にとっても価値があると信じて、短期的な利益や周りの圧力にも押し流されず、意志の力で一緒に「こっちのほうがいい!」とふんばって、やっと実現するものだと思います。

だから、損得ではなく目的でつながる人や組織の連帯、PURPOSEHOODが、時代の変わり目の今、とても重要になってくるのではないかと考えます。
そして、連帯する「私たち」が変化を共に創る時代に ”共創” という考えはとても大切になってくるものではないでしょうか。

パーパスフッドという考えに賛同してくださる方がいたら、記事をシェアしたり、DM等でお声がけいただけたらとてもうれしいです。いっしょに研究をしたいという方や、事例やモデルをつかって実践したいという方もぜひお声がけください。

すこし長めのこの記事をここまで読んでくださった方、おつかれさまでした!!!そして、ありがとうございます。

以上です。

パーパスモデルに関するこれまでの記事はこちらのマガジンにまとめております。よろしければご覧ください。

ツールキットのダウンロードはこちらの記事から💁‍♀️

書籍が発売になりました!📕
noteに書けていない内容盛りだくさんになっています。よければ是非。


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さいごに

私にこの研究プロジェクトを行わせてくれた所属する一般社団法人FCAJとプロジェクトをいっしょに進めてくれたみなさまに大感謝です。
ひとりではこの大きな課題に切り込むことはきっとできませんでした。
企業も年齢も専門性も異なるひとがこのテーマを一緒になって考えてこれた、これもひとつのPURPOSEHOODですね😂🤝

インタビューや事例調査などを一緒に進めてきた
まきちゃん、あいちゃん、宮内さん、たかだし、あすか

モデル考案から作成までたくさん協力してくれた
図解総研のチャーリー、きょんし

FCAJ理事であり、このプロジェクトのアドバイザリーのみなさま
中分毅さん(日建設計 フェロー)
島裕さん(中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員)
山際邦明さん(豊田通商 シニアエグゼクティブアドバイザー)
住田孝之さん(住友商事 執行役員)
仙石太郎さん(Rewired 代表取締役)

これからも共創についての事例や取り組み方について研究と実践を続けていきたいと思います。


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