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『ばんえい競馬今昔物語』について語る

馬産地の生まれながら「ウマ娘プリティダービー」に触れるまで競馬などやったことなかった私だが、いまではすっかり楽しんでいる

もっと競馬の事について知りたくなった私は、色々と資料を買い集めることになった。
そして世の中の書店にある「競馬」に括られた棚に入っている本というのは、まぁ七割方こういうものになる。
『この方法で予想すれば、馬券は当たる』
まぁ、当然である。あれはギャンブルなのだから。
キャラコンテンツとして消費する奴なんざごくごく一部である。

だが残り三割こそ、ただギャンブルとして馬を追いかける以上のモノを欲する私のような奴のためにあるのだ。
例えばそれは生産者たちの栄枯必衰だったり。
それは歴史上の名レースを彩った名馬の生涯だったり。
競馬を通してその時代の空気を描写したエッセイだったり。
競馬を『ギャンブル』以上のもの……『ロマン』にしてくれるそれらを私は愛好する。

ちなみに、ギャンブルとしての競馬も大いに結構である。ただし計画的に。
あれはマイナスサムゲームなので一攫千金など目指してはいけない、というのが信条である。

さて、前置きが長くなった。紹介したい本の説明に入ろう。

『ばんえい今昔物語 ~世界でひとつの馬文化はこうして誕生した!~ 』
はクナウマガジン発行 古川英一 著のばんえい競馬に関する解説書だ。

現在は帯広市のみで行われている、世界で唯一重種馬による競馬競技であるばんえい競馬の、興りから最盛期、そして訪れた経営危機とそれを乗り越えた先にある現在までの細かな解説がされた本で、文庫版という手ごろな体裁ながら零れのない構成になっている。

これを読んで思うのは、ばんえい競馬という興業がとても地場に密接したものだったことが、バブル崩壊以後に発生した地方競馬の連鎖的な廃止劇から身を助けた、ということだ。

あくまで興行として行っており、利益が出なくなったから廃止されてしまった……そんな他の地方競馬とは、そこが違う。
市民の「これは私たちの生活から生まれたものなんだ」という生の感応に繋がっているからこそ、一市開催になり、賞金の大幅な減額をしてもなお、存続は模索された。

本の題名に含まれている「馬文化」の文字はそういうことなんだろう。
ものすごく悲しいことを言うが、廃止された地方競馬は地元に根付いてはいなかったのだろう。
現在、地方競馬は懸命に「明るい、地元に根差したレジャーとしての競馬」をアピールする。
ネット投票が導入され、どこの地方競馬も収益に明るい見通しが付きつつある中でも、地方競馬のそう言った「見放される危機感」のようなものはある。
金の切れ目が縁の切れ目では困るわけだ。

ばんえい競馬はほぼ通年で開催、毎週土、日、月の三日間興行されている。
屈強なばん馬たちが重い鉄ソリを曳いて坂を駆け上がる様はスピーディなサラブレッドとは異なる魅力がある。
それでいて、ばん馬というのはサラブレッドと違い大変に人懐っこい性格と言われる。この辺りは本来レース用ではなく労役のための品種だったからだろう。
帯広に行く機会があれば是非触れ合いたいものだ。

さて、最後にもう一度「ウマ娘」の話をしよう。
現在ヤングジャンプ紙上で連載されている『ウマ娘 シンデレラグレイ』という作品がある。
昭和末から平成に掛けて名を馳せた名馬「オグリキャップ」をモチーフにしたウマ娘『オグリキャップ』を主人公に据えた本作は、モチーフ元がそうであったように当初から中央競馬(ウマ娘ではトゥインクルレースという)で走るのではなく、地方競馬の一つを受け持つ笠松から物語が始まる。
第一話の冒頭でウマ娘たちが地方で行われるレース、ローカルシリーズの開催地について説明を受ける場面のなかで、全国に15か所開催地が示される。
この15か所、というのは、オグリキャップが活躍した当時ではなく現在の地方競馬開催地の数だ。その中には現在はばんえい競馬のみ行われている帯広も含まれている。

つまり、ウマ娘の世界ではばんえい競馬に類するレース興行が開催されている可能性が示唆されているのだ。
果たしてウマ娘のばんえいとは、一体どのようなものなんだろう。興味が尽きない。

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