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仕事のメール数年分5万通をうっかり完全削除してしまった話

悪いのは私か、それともGoogleなのかMicrosoftか

いつかはやってしまうとは思っていた。それがまさか今日だったとは。

ワーママが虫の息でおなじみの夏休み。やれ急くなと言われても子どもが夏期講習で不在の数時間にどれだけ仕事に集中できるか耐久レース後半戦だった私は、今日も今日とて中腰で落ち着かず仕事をしていた。そんなおり、ここ最近仕事で頻繁に使うようになっていたGoogleドライブの容量がかなり逼迫していることに気づいてしまった。

Googleフォトには十数年分の家族の思い出が詰まっている。消すならどうでもいいメールだ。私は令和最後のhotmail.comの残党で、仕事でもバリバリ使っている。いつも「恥ずかしながら」という心の声を添えて名刺交換していた。hotmailはなかなかアレなサービスなので、サブスク等会員登録に使えないということが非常に多い。そのため、サブのサブくらいの気持ちでGmailのアカウントも持っていたのだが、こちらはほぼ放置。それなのに容量は4GBも食っている。どうせ迷惑メールだろうと思ってログインしてみたら、なんと仕事用のhotmail.comが自動転送されているではないか。とりあえず全部いらんわと思い、「すべて選択」からの「ゴミ箱に移動」からの「ゴミ箱から完全に削除」をオートマティックに押す。記憶にある限り、5万通くらいのメールが消えた。浮かんでは消えていくメールの片隅に、平成最後に受信したであろうFacebookの誰かの誕生日通知も発見したが、それも消えた。消えていくゴミの山に爽快感すら覚えながら、パントリーからサルベージした賞味期限ギリギリのチオビタ3000を飲み干した。

スッキリした気持ちで、改めてhotmailを開く。すると、最新の仕事のメールも含めて、フォルダから一通残らずメールが消えていた。はて? そこでようやく気付いたのだ。私はhotmailをGmailに転送していたのではなく、単にGmailでhotmailが読めるように設定していただけだったと。

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40になって手に入れたのは、失敗を堂々と謝罪する勇気だった

私はフリーランスで仕事をしている。MacBook Airで原稿を書き、それをメールで納品してという仕事をひたすら繰り返している。さらに整理整頓が趣味で嫌いな言葉が「余剰在庫」である私は、基本的にPCに情報は残さない。つまり消え去ったメールに残っている情報、添付ファイルだけが、私の資産の全てだった。Facebookまみれに見えたあのゴミの山は、実は宝の山だったのだ。この時点で、冗談ではなく一回仕事をやめるべきというお告げなのか? と自分の失態も棚に上げて思い詰めるほどに思い詰めていた(子どもの帰宅まであと10分)。

さて、どうするか。現在進行形の案件を頭で検索する。そういえば朝イチに新規の仕事依頼のメールが来ていた。当然そのメールはもうないが(ここでまた憤死)。恐る恐る宛先欄に相手の名前を入れたらメールアドレスが出てきた。もうバカと思われてもいいので「うっかりメールを数年分まるごと消したので、今送ったやつもう一回もらえますか?」と白やぎさんになってみたところ、「災難すぎますね!」という労いのメッセージとともに早速再送してくれた。優しい。

仕事人として全てを失った私に、今これほど新規案件が染みるとは。ありがたく引き受けさせていただいた。

これで残り5分となったわけだが、バカなのでヘルプデスクではなく友だちにLINEしていた。「どうしよ!」「もう仕事辞めろってことなのかも!」とテンパる私を優しく慰めてくれた女(ひと)。実はここに至るまでにもう一つ、ほぼ完成しかけた原稿も削除するという失態も犯していたのだが、クズすぎる案件なので割愛。

さて冷静になってみると、現在進行形のお仕事はSlackかLINEでやりとりしていることに気づいた。メールなくてもなんとかなるじゃん。ここで私は一旦落ち着きを取り戻した。メールの復元はさておき、今やるべきことをさっさとやってしまおうと、気持ちを切り替える。

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宵越しの金は持ちたいが、仕事は過去に置いていく

午前中の仕事もひと段落、子どもも帰宅して昼食も終了したので、改めてメールを復元しようと物理的にも重い腰を上げた。だが、うっかり削除したGoogleドキュメントの復元とは違い(割愛)、Microsoftは「ゴミ箱から消してしまったものはもう戻せません」の塩対応だった。当たり前のことを大事だからもう一度言わなくても。ヘルプデスクに連絡してなんとかしてくれないかと思ったが、そんな機能も裏技もなさそうだった。

検索してなんとか見つけたのが、某なんとかフリーソフトをダウンロードしてメールを復元する方法。そこにはweb1.0っぽい、窓の杜を思い起こさせるソフトがそっと置かれていた。Microsoft公式で対処はできないので、これでどうぞご勝手に復元するらしい。とりあえずダウンロードする。実行を押す前に「これがもしなんらかのトロイの木馬だったらあらゆる意味で仕事人としてやばい」とまた焦り、ソフト名で検索をかけたりした。

そこで目が覚めた。私は過ぎ去った仕事の残骸を取り戻して、何をしようとしていたのか、と。多くのクライアントとのメールが消えた。だが、先方に私のアドレスは残っている。もし仕事の依頼をしてもいいと思ってくれたら、連絡をくれるはず。過去のメールは私の大事な資産だが、それは現在進行形で富を生み出さない。記帳していっぱいになった銀行の通帳同様、手元に置いておいても仕方がないのではと私の中のこんまりが呟く。

全て復元したとして、9割9分9厘のゴミの中に1厘のお宝が眠っているようなもの。まるでスモーキーマウンテンにレアメタルだ。生き馬の目を抜くこの世界の中で、私には終わった仕事を掘り返している時間がないのではないか。

ということで、復元するのは止めた。容量いっぱいにならないようにGoogleドライブも整理しようと思っていたのだが、タイムイズマネーなので有料プランに入った。PC一台さらしに巻いてじゃないが、改めてこの身一つで仕事していると思わされる次第だった。カフェで仕事をしていてトイレに立つ際にPC置きっぱなしの人多いけど、あれ絶対やめたほうがいい。

現在、メールボックスにあるのは「災難すぎますね!」のメール1通のみ。でも、隙間がなければ新しい仕事は入ってこない。うっかりを棚に上げてあえてスピった発言をするのなら、容量パンパンだった私が自分を見つめ直すいいきっかけだったのかもしれない。今日からはまた、新たな気持ちで仕事する。





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