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【短編小説】私は土だった


私は土だった。
そして、職人が私を使ってうつわを作っている。彼の腕はピカイチで、私を型取り、立派な絵付をして、素晴らしい焼き上がりに仕上げる。
作品が売れては一緒に喜び、彼の役に立てることが嬉しかった。

彼は旅が好きで、休日を見つけてはあちこち旅をしていた。彼は旅先で毎回土を持ち帰っては、私と混ぜてうつわを作ろうとした。ある時は鳥取砂丘の土、またある時はシルクロードの土を持って帰った事もあった。

だけど、色々な土を混ぜていくうちに、割れやすくなって人様に売れるようなうつわは完成しなくなった。
そして彼は、もっと良い土を求めて居なくなってしまった。

私は、もううつわにはなれないのだろうか。

次に別の職人がきた。
彼は優しかった。色々混ざった私の土をみてうつわでないモノを作ってくれた。
割れた破片を組み合わせてナニかを作って、高く売れたと言ってケーキでお祝いしたこともあった。
だけど、うつわでないモノの売れ行きはやっぱりよくなかった。私はすごいと褒めたけど、やがて生活が苦しくなり、彼も去ってしまった。

野ざらしにされた私。雨の日は偏頭痛が酷かった。くよくよしてる場合ではないから、積極的に話しかけた。ある時はカラスに茶摘みの様子をレクチャーしてもらったり、ある時はヤマネの白髪をぬいてあげた。カエルのマッキーとは夜な夜な音楽を奏でた。アライグマの風邪の看病をしてあげた事もあった。でもなぜだろう。知れば知るほど怖くなった。
私はこのまま土にかえるのかな。

そうこうしていると、子供を連れた夫婦が引越してきた。
その子供は私に水をかけてどろんこ遊びをし、毎日のように一緒に遊んだ。
ある日、今日は十五夜だからと、私で泥団子を作って、どこか見覚えのあるうつわに私を並べた。
その晩、雲ひとつない月明かりがうつわを照らした。両親が上手に作ったと子供を褒めていたが、私は、それからの事は覚えていない。

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