詩 境界線で(2004年)

その中心に穴を開けられたまま
きみは橋の上にたたずんでいる
欄干に手をかけたままむこうを視ている
音も立てずにゆっくりと
その手を少しだけ伸ばすと
雲の上には幾千ものひびがはしる
その夜の中には無数の雪が舞っていてこちらを見ている

黒い神経繊維の渦に
深くかたどられた夢のなか
分解された物音の幻が移動する
きみのなかにあるたった一つの命令
多分ぼくたちと同じように
きみはそれに従い続ける
そうすれば白く降っているものと一つになれる
もう輪郭に脅かされることもなく
同じ名詞の中を永遠に循環する死と一つになれる

静寂の呼吸
当てもなく開き続ける人々の口
霞がかった息は螺旋状の軌道を描いて転生していく
未来に似たものが上空にある 
手の先にある
乾いた空気を押し開けるように
ぼくたちの過去は黒く巻き戻されていく

(2004年)

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