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彼らがうちにやって来た日-猫と暮らして(4)

受け取りの日

結局、引き取ることを先方に伝え、具体的な受け取りの日取りを決めた。

日程が固まり、ふと思った。本当に猫を飼うのか、と。猫との暮らしがスタートしたら最後、猫と自分は終生の「家族」となる。自分の生活の形やリズムが変わるだろう。できていたことができなくなるかもしれない。そういう迷いがあった。
しかし同時に、ここまで決まったら腹をくくるしかない。何事も前向きにとらえるしかないのだ。そうも思った。

数日後。梅雨の前のカラリとした日。2匹が住む隣県某市のお家に伺った。
お宅には、飼い主のお子さんがいらっしゃった。簡単な挨拶を交わし、すぐに2匹を運ぶ準備を始めた。
黒猫も白猫も部屋の片隅に縮こまっていた。威嚇をしてこないものの、警戒の色が目にあらわれている。飼い主のお子さんと二人で、以前から使われていた2匹用のキャリーバッグに一匹ずつ押し込んだ。

今もそうだが、黒猫も白猫も辛くなるとなんとも切なく苦しげな低い声を出す。「助けてくれー」「不安ー」「やだよ!」そういう風に聞こえる鳴き声だ。

バッグに押し込めた時から電車に乗るまで、彼らは鳴き続けていた。慰めるなり何かしてやりたかったが、扱いが分からず、ただ鳴き声を聞くことしかできなかった。

電車に乗ると不思議とピタリと鳴き止んだ。あきらめか。鳴きつかれたのか。それとも怯えきっていたのか。


我が家についた

約1時間後。我が家に着いた。すぐに彼らをキャリーバッグから解き放つと、黒猫が棚の裏に、白猫がテレビの裏に隠れた。

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二人はそれぞれの「避難場所」で固まってしまった。すこし様子を見ていたが動く気配はないようだ。あまり刺激しないほうが得策かもしれない。
あたしはあえて相手をせず、先方から頂いた猫の餌を適当なお皿に入れた。その横に水を用意した。餌も水もあたしのベッドから離れた場所に置いた。

消灯してベッドに横になった。彼らはどこにいるのか。何を思っているのか。黒猫はまだ棚の奥か。あたしの気配を感じているのか。白猫はテレビの裏で、夜中あたしの寝息をどういう気持ちで聞くのか。
色々考えてながら、いつの間にか眠りについていた。


彼らだけの日

よく寝たつもりだったがどこか気になっていたのだろう、目が覚めても熟睡感はなかった。
餌は食べただろうかと思い皿を見たが、量に変化がない。水は少し飲んだようだった。
テレビの裏と棚の裏に猫はいなかった。家の中を探すと、黒猫はベッドの下、白猫は押入れの中に隠れていた。(後にその場所は二人が困ったときに隠れるちょっとした「シェルター」となる)
あたしは餌と水を新しいものに変えて、仕事に出た。
彼らはあたしの家で彼らだけになった初めての日だ。


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