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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
632.一飯之恩

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 少し早足で歩を進める一行の中で、両足を動かす事無く肉移動をしていたコユキは今更ながら虎大と竜也に尋ねる。

「ところでオンドレとバックル、アンタ等体調とか大丈夫なのん? ヘルヘイム程じゃないけどここも魔力がメチャクチャ高いからさ、なんか変だったりしたら直ぐ言うのよ? 分かったわね」

 虎大は自分の体をあちこち触ったりしている、多分体調を確かめているのだろう。

 一方の竜也は落ち着いた声でコユキに返すのである。

「大丈夫ですよ、魔界の魔力は人間ヤバい、って大魔王様に結構前に教えて貰っていますから、更に、対処法として兄貴は『身体強化』を、俺は『着火』や『流水』、『清潔』なんかの生活魔法を教えて貰っていますし、体内の魔力を速度アップさせる事で魔力障害を起こさない様に気を付けていますんでご心配なく」

「お、おお、そうですぜ、姐さんご心配なくぅ」

「へ、へーあのカイムちゃんがねぇー、見た目に寄らないってこう言う事を指すのねー、んまあ、見た目は依り代なんだけど…… んでも、流石は魔王種じゃないの、しっかりしてたのねー、ビックリだわ」

「どうしたの? コユキ様、キョロロン」

 自分の名前が出た事で耳に止めたのだろう、カイムが前を歩くトシ子の頭上から振り返って問い、小さな翼をパタパタ羽ばたかせてコユキの安定感に溢れた肩にとまるのであった。

 コユキはカイムに顔を向けようとしたが、肉が邪魔でほとんど首が動かなかった為、前を向いたままで言う。

「今ね、カイムちゃんがオンドレとバックルに魔法やスキルを教えてくれてたんだって聞いたのよ、ちゃんと面倒とか見てくれてたんだな、って感心していたのよ」

 カイムは当たり前だと言わんばかりの風情で答える。

「手下を強くするのは上に立つ者の仕事だよ、それに二人も覚えたいって燃え捲っていたキョロよ! コユキ様と約束したんでしょ? スキルを覚えて役に立つんだ! ってね、それに私的にも助かったんだよ、ほら人間て上手でしょ? ご飯作ったりお掃除したりさ! んまあ、坊ちゃんみたいな絶品は無理だったけどさ、竜也が生活魔法を覚えてからは快適度がぐんと上がったからね、特に食事、火の通った物って美味しいよねー、それまでは弾ちゃん達が採って来る野草や生鮭、ハチの巣とかだったんだよ? こっちの生活水準がググッと文化的に変わったんだよね、キョロロン」

「なるほど一面的にはそう言う事も有る訳なのねん、見た目通り竜也は器用なタイプだったって訳ね、虎大は『身体強化』とはねぇー、知ってる? アタシに初めて会った時のあの子達、虎大の体の弱さをネタに強請ゆすろうとしたんだよ?」

「へぇ、そうなの? 私が出会った時のお兄ちゃんは全然違ったけどねぇ、魔法、それかスキルを教えてくれっ、とか何とか言っちゃってねぇ、まあ、生活魔法の類は全然使えなかったんだけどさぁ、それでも諦めずに筋トレとか頑張って居たよぉ」

「そうなの?」

「うん、そうだよぉ! んで昨年秋に土木系の日雇いじゃなくてね、季節雇いの仕事をゲットした時についに手に入れたんだよね、『身体強化』、正確に言えば『身体能力強化』のスキルをね」

 コユキはビックリ仰天であった。

 自分と善悪、後は『聖女と愉快な仲間たち』、『六道りくどうの守護者』、『オニギリ友の会』だけが頑張っていて、それまで世界の危機なんか知らないで思い思いに生きて来た結城さんや秋沢明、丹波晃、それにここ最近協力を申し出てくれた『抵抗者レジスタンス』の面々だけが仲間だと思い込んでいたからであった。

 アーティファクト探しの途上、ほんの短い時間の逢瀬をこれ程、一途に信じ込み、己を変える、唯その一事に全てを掛けた虎大と竜也の向き合った一年間に思いを馳せずにはいられない、そんな気持ちだったのである。

「そ、そう…… あのオンドレがね…… つ、強くなったんだね…… グスッゥ」


拙作をお読みいただきありがとうございました!


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