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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
222.Thank you my Friend ①

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 周囲には最早、レッサーデーモンのたぐいは見当たらなくなっていた。
 ムスペルへイムの怒れる命、魂魄こんぱく一掃いっそうされたかに見えた。

 約、二名を除いて、か? 二匹、だろうか?

 なんか汚い亡者的なヤツが入り口近くの大木を背に、今にも死にそうな感じでひゅーひゅー荒い呼吸をしていたのである。
 幼子が枯れ枝を繋いで作った人形みたいなガリガリの姿からは、不幸さと不運さ、不健康さの嫌悪感しか感じられない。
 汚らしい物を見る目で若干、いいや強烈に引いているコユキの耳に届いた、何処か懐かしい声が……

「ぁぁ、コユキ…… タスケテ…… オネガ…… イ、ヨ……」

「!! 」

慌ててコユキは亡者の一人、木を背中に何とか体を起こしていた可愛そうな餓鬼に向かって尋ねるのであった。

「キャシィー! アンタなの? しっかり! 確りしてぇ~! キャシッ~!! 」

亡者は人の言葉で言うのであった。

「こ、コユキ…… あ、あたしより…… う、ウィル、を…… 」

キャシィと言う名の亡者は自身の横でうつ伏せに倒れた個体、もう死んでいるであろう餓鬼を指差して懇願したのであった。

「えっ? これ? いや、これもう、死んでるんじゃないの? 」

善悪が餓鬼を蹴り、ひっくり返してから顔を近づけた後、コユキに告げたのであった。

「コユキ殿! 虫の息ではござるが、辛うじてまだ生きている、いやっ、虫の息が止まる寸前でござるよ? どうするでござるか? 」

 えっと、確か善悪が依頼した事でこの二人がこうなっている筈なんだけど……
 そんな私の責任論は放って置いたままで婆ちゃん、コユキが叫んだ。

「善悪! 残った虎○さんの羊羹を彼と彼女に! 死なせちゃダメよぅっ! くっ! こんな良い人たちに誰がこんな酷い仕打ちを! 」

 酷い仕打ちをした張本人は、背中のリュックから最後の羊羹を取り出して、無関係を演出しつつ、取り合えず、先ずはウィルの口に突っ込んだのである。

小声で言う。

「ほら、喰えよ、んでさっさと回復するでござる! 全く頼りがいの無い同盟者でござるよ……」

そこに、コユキが焦り捲った声を掛ける。

「ねぇ、ぜ、善悪~! キャシィが死んじゃうわ!! お願い! キャシィにも食べさせてあげてぇ~ん! 」

「はいはい、ちとお待ちを~! 」

────ちっ、このハゲ女もまだ生きていたでござるか…… 仕方ない、食べさせてやるでござるっ!

そう思った善悪は、最後の虎○の羊羹を、カリカリに痩せたメリケン女の口に無理やり詰めると自分の仕事を終わらせるのであった。

 暫くしばらくの間、死に掛けの彼と、チョット元気そうな彼女の、モグモグタイム、所謂いわゆる咀嚼と嚥下えんげを見守った後、コユキは気持ち悪いくらいフレンドリーな感じで話し出した。

「キャシィ! 貴女が無事で心から、いいえ、心の底から嬉しいと思っているのよ! ねぇ? 分かる、アタシ貴女が大好きなのよ? 」

キャスリンが答えた。

「分かってるわよコユキ! 私も嬉しいわ! 私のピンチに貴女がいてくれて…… ねぇ、親友! 運命って…… やっぱり、あるわねっ!! 」

コユキが返した。

「あるわよ! 何当たり前のこと言ってんのよ、馬鹿ね! ……ところでキャスリン、あんたの作るチョコチップクッキーなんだけど……」

「ワオゥ! 懐かしいわねぇ! 貴女ダイスキだったじゃない! 私の分まで食べちゃったりしてぇ~! 思い出すわ……」

コユキは畳み掛ける事に決めた。

「うん、あれ又食べたいなぁってズ~ット思っていたんだけど…… ねえ! 又食べさせてよ! キャスリン! 」

「えっ? ああ、うん、分かったわ! んじゃぁ、今度会った時に作るわね! ソレで良いでしょ? コユキ! 」

コユキは覚悟を決めて正直に言った。

「いや、会った時とかじゃなくて…… 面倒だから、送ってくれない? 月二くらいで? ねえ、ダメ? 」

「…………」

即座に答えないキャスリンにコユキは落胆の嘆息たんそくを漏らした。

「なんだ、ヤッパダメか…… ごめんね、キャシィ…… キャサリクリアだっけか? 忘れて下さい…… もう、イインデ……」

奇跡が起きた。

「ううん、キャサリクリアじゃないよ、アタシはキャスリン、キャシィだよ! そうだね、コユキ! 月に二回か、送るよ、親友! チョコタップリマシマシのチップクキィを送るね! コユキ! 」

「ホントっ? ありがとう親友! 流石はアタシのキャスリンだわぁ! 宜しく頼むわねん! んじゃ、帰るわ! あんがとね、さいなら~」

 こうして、コユキと善悪、『聖女と愉快な仲間たち』の愉快な面々は魔界を後にすべく、最早振り返る事無くその場を立ち去って行くのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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