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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
8.修行を経て賢者へ、そして戦士へと至る (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 ドゴッ! ガタッ! バタバタバタッ!

 コユキが何かにぶつかりながら部屋に戻って行く。

「ちっ! せま苦しいなぁ!」

 しかし決して狭い家では無い。
 何かを意図した訳では無いが、生前の祖父と父が改装に改装を重ねてきたためむしろ広い。

 コユキは自分が太っているとは認識していない。
 家が狭すぎると思っている。
 家族もそのことについては、

「そうだねぇ…… セマイネ」

相槌あいづちを打つしかなかった。
 
 しばしばコユキに投げかけられる定番の悪口(事実)として

「百貫デブ!」

という言葉があった。 
 コユキの体重は八十三キログラム、二十二貫にすぎない。
 実際の百貫デブは三百七十五キロである。
 コユキ自身の判断としてはコユキが四人いてもまだ百貫には届かない。
 ガリガリなのである。


「あれ? 無い…… さっきこの辺に置いたのに」

 部屋に戻ったコユキは、書き置いたメモが無いことに気が付き、

「ぁああ、もう!」

とイラついていたが、片付けも掃除もしないのは自分なのだから仕方がない。
 それもわかっているので、

「ま、いっか」

と編みかけの毛糸をスルスルとほどいていく。
 こだわりは無い、やはり時間潰しなのだ。
 他人から否定されない為に常に理論武装と乱暴そうな言動を繰り返してはいるものの、本来のコユキ自身は割と大らかで細かい事は気にしない、優しい女性だったのである。
 太り続けている内に家族以外の周囲からは、一切伺い知る事が出来なくなっていた事は悲劇であろう。

 ポテチ、クッキー、のしょっぱい甘い、しょっぱい甘い、を交互に繰り返しつつ、再び編み目を作り一目から編んでいく。

「っ! 何編んでんのよ! 戻って来た目的忘れてんじゃないっ!」

 いそいそとパソコンに向かう。
 今日は二十五日だった。
 定期購読している同人BL電子版の配信日をすっかり失念していたが、先程の妄想で思い出し、慌てて戻って来たのだった。
 やはり満足したわけでは無かったようだ。
 むしろ、ここからが本番だと言えるだろう。

 編みながら、片足を机の上に乗せ足の指でマウスを操作しながらページを送っていく。
 自堕落な引きこもり生活を続け、なるべく動かないように物を取ったりゴミを捨てたり、何かと足指を使っていたら、マウスを自在に操作出来るまで器用になっていた。

 ふと、かぎ棒を横に置き、おもむろにウエストの伸びきったスウェットをパンツごと膝下までずり下げる。
 他の事に関しては面倒くさがりのコユキだったが、ここで手を抜くような人間ではない。
 両手を駆使してこの時ばかりは無我夢中、汗だくで頑張るのである。
 そのために足指でマウス操作ができるようになったと言っても過言では無い。

………………

 私は今、ひどく後悔している。
 調子に乗って『経験』するものでは無い事を、嫌と言うほど思い知らされた。
 令和日本に生きる人間のバイタリティ、そしてリビドーをいささか過小評価していたようだ。
 これからは、基本『観察』に徹する事としよう。
 いや、『観察』もどうかとは思うが……


 一時間程たっただろうか。
 堪能して二、三度読み返し軽い賢者タイムのコユキの耳に、ガタガタ、バタバタとした物音と何やらわめく声が届く。

 膝までおろしていたパンツとスウェットを同時に引き上げた。
 が、また小腹が空いてきたので残りのポテチを流し込み、バニラクッキーもまとめて口の中へ放り込んだ。
 食欲も性欲も一旦満たされたコユキは、

「さぁて、続きでも編むかな」

と再びかぎ棒を手にし編み始めた。

「……………… ? まだ騒がしい…… 長いわね、はてな?」

 まだ母屋の方が騒がしい。
 コユキは片手にかぎ棒を持ったまま半ケツ状態のスウェットを履きなおし、面倒くさそうに母屋へ向かった。

「何を騒いでるやら? ま、子供らが何かやらかしたとかだろうけど…… おばちゃんが怒ってやるか、仕方なしっ!」

 開け放たれた玄関から入り、中の光景に言葉を失う。

「っ!!」

 直後、叫びたい衝動にかられるが、音を立てるな声を出すなと理性が無理やり息を詰まらせる。
 ツミコが何か巨大な生き物の両腕を素手で掴み、額に青筋を浮かべながら対峙していた。

 何か黒々とした山羊のように見える巨大な生物。
 自分の倍近くはあるだろう巨大生物に対して、なんと五分に渡り合っているようだ。
 と思ったのだが、一瞬後にはバランスを崩したように左に大きく体勢を崩してしまった。

 とっさにツミコは巨大生物に対して膝蹴りを繰り出すが、その生物は避けようともせず、そのままツミコを持ち上げてしまった。
 持ち上げられたツミコは両足をバタつかせていたが、抵抗も空しく、無情にもその体は投げ飛ばされ、壁へと叩き付けられた。

――――っ! おばさんっっっ!

 ツミコは、壁から床に崩れ落ちたままの姿勢でピクリとも動かない。
 巨大生物は、ひたひたとツミコに近づいていく。
 異様に長く尖った爪の付いた手をツミコの体にかざすと、なんと! 叔母ツミコの体から不思議な青い光が溢れ出し、巨大生物の元に集まっていくでは無いか。

 巨大生物は、口角をいびつゆがめ、その手に青く輝く光の玉を掴み、満足そうに微笑んだ後、手に持った汚い麻袋のようなものに入れた。

――――ひいいぃぃぃ! ヤバイよー! 想定外過ぎるじゃないぃ! 何よあれーっ?

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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