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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
441.VS.ヒュドラ ②

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 そんな自分たちが瞬間に死ぬかもしれない、いいや確実であろう死のリスクを冒しながらも、『聖女と愉快な仲間たち』最初期メンバーは一切の怯えも恐れも見せずにじりじりと近づき続けて行った、ああ、ついでに新参者のイーチも骨の体に冷や汗の滝を滴らせながら一所懸命について来ていた、狂信も中々に見上げた物であった。

 そして、パズスは生まれて初めて弱音っぽい事を口にしたのであった。

「この辺りが限界ですね! 持って二分間、いいや数十秒ですかね? すみませんが急いで貰えると助かります、すみません……」

「ううん十分よ、ここからなら、えいやっ!」

 狙いすまして投げた『キビ団子』は一番近くに顔を寄せて威嚇の為か、凶悪な牙を剥き出していたヒュドラの巨大な口の中へ消えていった。

 見届けた一行はジリジリと後退して大きな岩の影に身を潜めた後、効果を確認する為にチラっチラっと覗き見を繰り返すのであった。

 パッ! チラっ! ササッ!

「ふぅ~」

「どうだった? 効いてたでござるか?」

 善悪の問い掛けに答えたコユキは首を傾げていた。

「う~ん、変化なしにしか見えなかったわね、ブレス撃ち捲ってたし…… 効くまで時間が掛かるのかしらね? それか古過ぎてダメになっちゃってんのかしら?」

「えーおかしいなあ? でござる、どうしよっか? もう一個食べさせようか? コユキ殿?」

「ふむ、そうだねぇ……」

 望んだ結果が得られなかった事で、いつに無く困惑した表情を浮かべて考え込んでしまう二人に対して、イーチが覚悟を決めた声で言うのである。

「神様、いいえ、コユキ様善悪様、ここはこの信徒イーチにお任せくださいませ、チョット近づいて見てきますゆえ」

「え、でもイーチ君さっきびっしょり冷や汗掻いていたでござろ? 死ぬよ?」

「そうよ、アンタへたれなんだから! それとも自殺願望とか? なのん?」

 二人に向けて胸を張った骨、イーチは大仰に両手を広げて宣言をしたのである。

「ご覧ください、注意深く見れば私が骨だけだとお気づきになれるのでは? 何を隠そう、私、もう死んでいるのです!」

いやそれは分かるんだけど…… 呆れかえる二人に対して言葉を続けるイーチ。

「それにイザとなればこいつがありますから!」

 背負った深紅のマントを翻して見せつけて来るイーチは自信満々の表情だ、いや表情は無いのだが……

 コユキと善悪は頷き合ってからイーチに答えた。

「なるほど、そのマントに何かある訳ね、じゃ頼んじゃうけど無理しないでよ?」

「うん、頼むでござる、が、コユキ殿の言う通り、ヤバいと思ったら躊躇なく戻ってくるのでござるよ?良い? 分かった? どう、どうなの?」

「おお、一介の信徒に対してなんと慈愛に満ちたお言葉! 『モヌママラナ』! そのお言葉で勇気百倍、狂信パワーマックスでございます! いざ、玉砕!」

 いや玉砕って、それもう自殺じゃん…… にしても狂信の自覚があったとは驚きである、私、観察者は宗教の奥深さを垣間見た気分であった。

「バリアもいらないのか?」

 肩で息をしているパズスの問い掛けにも、イーチの自信は揺るがなかった。

「心配無用でっす! パズス殿はご自身の回復にご専念を! イーチ、逝きいきます! トゥっ!」 ※誤字ではありません。

 シュダダダダっ!

 器用に両足の骨を動かしてヒュドラに駆け寄っていくイーチ。

 小刻みに左右に移動している所を見ると、恐らくフェイントでもかましているつもりなのだと思う。

 だが、そもそも既に狙いを定めて撃って来ている訳では無いのだ、不規則なブレスが当然の様にイーチに向けて襲い掛かるのであった。

 イーチは自分の体に無慈悲なブレスが直撃する瞬間、背を向けて深紅のマントで受け止めたのであった。

 コユキと善悪は驚愕に目を見張るのであった。

 燃え上がり消失するマントを脱ぎ、骨だけの顔を恐怖によって大きく歪めながら、猛スピードで逃げ戻ってくるイーチが少し気持ち悪かったからである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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