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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
94.戦闘服 (挿絵あり)

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 その頃……

「オウコク、ノ、ツルギ、イソイデ!」

おう! 任せるでござるよ! ええっと、これ、この紙袋の中でござる!」

 幸福寺では善悪とオルクスの二人が大騒ぎであった。

 コユキが蝋に打たれながら感じた、周囲の状況を察知する能力はオルクスの持つ空間察知能力の劣化版であった。

 コユキより遥かに高い能力を有するオルクスは、コユキのいる座標に全神経を集中させることで、松坂の戦いをモニタリングしていたのである。 

 そこに突然もたらされたコユキからの強い想念による要望、それは、

――――何か着る物を、装備を送ってちょうだい!

 無茶振りであった。

 しかし、そこは石橋を叩こうとして手を傷めることを危惧きぐし、フッと鼻で笑ってきびすを返す事で有名な善悪の事である、準備にぬかりは無かったのだ。

 本堂の脇には、ナイフやスタンガン、催涙スプレーからヌンチャク、投げナイフ、農薬や大きめの石まで、考えられるありとあらゆる武器が所狭しと並べられていたのだ。 

 その中から善悪が取り出したのは、今朝コユキを掛川駅に送って行った際に受け取った紙袋である。

 昨夜、茶糖家に送って行った時、確り者の善悪は伝えていたのだ、

「念の為に、予備の服というか、戦いの時に相応しい格好を一揃え用意して欲しいのでござる」

「えっ? 戦いの服? そんなの持っていないのであります…… 困ったのであります……」

「ま、ま、あくまでも予備でござる、そうでござるな、いざという時に身につける衣装、って感じで良いのでござるよ」

「は、はぁ、分かったであります……」

と言ったやり取りを経て、今朝渡された紙袋の中には、いざという時の装備が入っているはずであった。

 紙袋を掴んだ善悪は慌てて護摩壇ごまだんの前に戻り、座禅を組んで袋から中身を取り出して、

「うわぁ!」

びっくりして取り出した物を放り出したのだった。

 それは、ショッキングピンクの毛糸で編まれた、ビキニタイプの下着、所謂いわゆるパンツであった。

 コユキの中でいざという時身につける物イコール勝負服、それも勝負下着であったようだ。

 兎も角、放り出されたピンクの毛糸パンツは綺麗な放物線を描き、燃え盛る護摩ごまの上にポトリと落ちて、数秒後には綺麗に灰と化すのだった。

「あ、あぅ……」

 善悪は余りの顛末てんまつに言葉を失ってしまった。

「ネェ…… ホカニハ? ナニカ…… ナイノ?」

「はっ!」

 オルクスの声に我を取り戻した善悪は、今度は放り投げ無い様に、気を付けながら袋の中に残された物を取り出してオルクスへと顔を向けた。

「パンツとお揃いの、ブラでござる…… ちきしょう! ……なんで、こんな……」

「………………トニカク、ソレ、オクロ!」

 もうね、兎も角とか兎に角とか、とりあえずとか一応とか頭に付いたら、ベストでもベターでも無いよね…… もうね…… いいとこ現状維持が最高に成る選択肢だから……

 しかし、しかしだっ!

 送ろうと、贈ろうと、奧楼おくろうと思ってしまったのならしょうがない!

 二人は上半身しか隠す事が出来ない、いびつな装備を送る事を決定してしまった。 

 因みちなみに送るためのスキルには待機時間が設定されていた、所謂いわゆるクールタイムってヤツだ。

 そのクールタイムは二十四時間、つまり一日に一回だけしか発動出来ないのである。

 オルクスの鎌に見られた、魔力の物質化と、善悪の法力を他者を守るために使用する『エクス・プライム』で見られた効果譲渡の能力バフを併せた、複合術式を発動して、コユキが今必要としている装備を送り届ける遠隔転送スキルを発動したのであった。

「「即時配達ウーバー○ーツ」」

 善悪の前に置かれたショッキングピンクのブラジャーが光と成って掻き消えるのであった。

 アクセルに依る、横っ腹痛い~状態を絶え続けていたコユキの体が、一瞬で不思議な光りの粒子に包まれると、収まった光に変わって現れたピンクのブラがその豊満すぎる胸を覆い隠した。

 一瞬だけホッと安堵の息を吐いたコユキであったが、腹の下に布が無い事に気付いて思わず毒づいてしまう。

「善悪もオルクス君も使えねぇなぁ~、はぁ、しゃーない、腹で隠れるだろうしこれで行くかー!」

 次の瞬間、アクセルを解除したコユキはモラクスの目の前に姿を現し、その瞬間に繰り出される『突角長槍ロングホーンランス』が自分に触れる刹那、再び姿を消したのであった。

『くっ! 使いこなしていると言うのか! 我が兄、オルクスのファイナルモードを!』

 その声を聞いたコユキは内心で小躍りしていた。 

 今、姿を見せた目的は、自ら立てた仮説に対する実験、その結果は仮説を証明するに足る物であったのだ。

 『アヴォイダンス』には当たり前の様に対応して見せたモラクスだったが、『アクセル』状態のコユキの事は、目で追う事すら不可能である事が分かったのだった。

 コユキは思った、

――――流石さすが、オルクス君はお兄ちゃんよね! 兄より優れた弟など存在しない、あんたの名前を呼ぶよ! オルクス君!! 

と。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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