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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
355.三兄弟の堕天

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「さて、暴力が支配する世界、巨獣が全てを凌駕りょうがする時代に皆は生きていたいと思うかな? 理不尽な力があらゆる命を食らいつくす世界…… そこに明日を生きる希望を持てるだろうか? どうだ?」

リョウコが悲鳴のような声を上げた。

「えーえぇー、そんな世界嫌だよぉぅ! 生まれたくないよぉ~」

アスタトロがワザとらしく一拍おいて言うのであった。

「無理もない…… な……」

そうしておいて緊張に強張っている一同を見渡した後で、声を少し大きくしながら話したのであった。

「だがしかし、世界の改変はクロノスのインパクトが最後では無かったのだ、地球に生きる全ての求めに応える様に、次なる天体が訪れ、さらなる変化をもたらしたのである、その名は…… 銀河の放浪者、命を導く者、アスタロトであったのである、ぞ?」

「「「「「「「「「「おおぅ!」」」」」」」」」

皆の盛り上がりを聞いたアスタロトは少し興奮気味に言ってしまうのであった。

「我アスタロトが地球に接したのは赤道近くの熱圏ねつけんが最初であったな、『熱っ』それが最初の思いであったのぉ! そして何とか形を保ちながら着地した先がユカタン半島の東隣り、現代で言う所のカリブ海であった…… そこに有った大地を抉り、全てを亡き者にした後、我は思ったものよ…… この地を清めてくれん、とな……」

 恍惚こうこつとした表情を浮かべてうっとりと話すアスタロトに返す言葉を持つ者等、この場には皆無でありたった一人頑張っているコユキが仕方なく声を掛けるのであった。

「なるほどね、ユカタンの東、アンティグア・バーブーダの西に落ちたわけね!」

「その通り、そして南北アメリカ大陸と大西洋の巨獣、巨大魚達に壊滅的な打撃を与えたんだぞ、生物濃縮によって強者だけが潤沢に蓄積していた生命、魔力が再分配されて、暗闇や浅瀬、じめじめとした洞窟内や岩の隙間で息を潜めていた弱者、小さき存在に等しく齎され、彼らにも進化の機会が与えられた、と言う訳だ」

「「「「「おおぉ!」」」」」

 元々人間であるアフラ・マズダの中から感嘆の声が上がった。
 アスタロトは更に滑らかに弁舌べんぜつを振るう。

「特に鱗や鎧どころか、肌を守る体毛まで失い絶滅の際にあった小さき哺乳類を守護すべく、早々に自我に目覚めた我は時に紅蓮の炎と化し、またある時にはこの身を凍てつく極寒へと変じて、生き残った恐竜や翼竜共を屠りほふり続けたのだ! 永遠とも思える闘いの荒野を孤独に歩み続けた理由、それはひとえに『守りたい』その純粋な情熱故であったのだぁ!」

パチパチパチパチパチパチ――――――!

 許可も無いのに勝手に拍手をし、あまつさえ立ち上がって涙を浮かべてさえいるアフラ・マズダ達を憎々しげに一瞥いちべつする善悪は、

「ゴホンッ! あー、ゴホンゴホンッ!」

と分かり易く咳き込んでみせつつ、アスタロトに向かってこっそりウィンクをするのであった。

「ん? ? あ、ああ、そうか…… えーその後、バアルとルキフェル、二人の兄達も地球に堕天して弱い命の味方をして、現在に至りました、めでたしめでたし」

「おい! アスタ! お前端折りはしょりすぎだろぉ! なんだよ一言って? それになんだっけ『銀河の放浪者』? 地を清める? 紅蓮の炎? 自分ばっかり格好付け過ぎでござる! おい! 何とか言えよこの野郎!」

「ま、ま、善悪、抑えなさいよ! きっと今からちゃんと言ってくれる筈よ、だってそうでしょ? アストラルバディの時でさえアタシ達に負けてんのよ、あいつ! 受肉した今ならもっと簡単にじり殺される事位分かっている筈、よ…… ルキフェルが如何に立派だったか、言って聞かせてくれるでしょうよぉ~」

「スプンタ、ノ、リッパ、サモ!」

「そうねぇ、オルクス君~、今アスタロトさんが言ってくれるからねぇ、でも気を付けなさいね、スプンタって身バレしてるわよ? スプラタでしょ?」

「アリャ! シマッタ、テヘヘ♪」

 そう言葉を交わすと善悪とコユキ、更にはスプンタ、いやスプラタ・マンユの七柱も加えた『聖女と愉快な仲間たち』初期メンバー達は無表情でジーっとアスタロトを見つめ続けたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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