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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
396.ショータイム!

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 当のリエはまだ諦めずに色々考えて分析を再開していた。

「そもそも、これって『猿蟹合戦』のアーティファクトなんだよね…… あの昔話で印象的なのは…… 栗どんがパチーンっ! 蜂どんがちくぅっ! 牛の糞どんがズルゥっ! 臼どんがドーンっ! でしょ、後は…… っ! も、若しかしてっ! ね、ねえリョウちゃん、もう一回ギリースーツやってみてよ! お願いもう一回だけ! 泣きで! ワンチャン頂戴よ!」

 何か思いついたらしい。

 コユキは呆れた顔をしていたが、リョウコはそれで納得するのならといった表情で履きかけた靴下を再び脱いで口にした。

「大地よ、答えて、ギリースーツ!」

「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃハサミでちょん切るぞ! 早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ! 早く芽を――――」

 リョウコのスキル発動の掛け声に合わせて、両手でブイサインを作りながら狂ったように歌い出したリエ。

 メロディはなぜかストリーミング再生回数二億回越えの大ヒット曲、美味しい中華麺を縦型カップで味わい三昧ざんまいできるコマーシャルにも使われている、心配しなくてもこちらが思うより健康だったらしい彼女が歌う、例の曲であった。

 歌う必要があったかどうかはさておき、今回は柿のタネに顕著な変化が見られたのである。

 リョウコのスキルとリエの呪文の相乗効果か、タネは、いやもうすでにタネでは無く柿の木、それも大樹と言ってはばからない巨木は枝ぶりもよく、濃い緑の丸い葉をうっそうと茂らせ、所々に青柿を提げていた。

 柿の木の根元には砂利の中から姿を現した蟹、カルキノスが両手のハサミを持ち上げてリエと同じように踊っている、無言であったが何となく嬉しそうであった。

 境内のいちいの梢に身を隠していた猿、フンババもいつになく堂々とした感じで柿の木に近づくと、自分同様半透明でうっすらとした幹に取り付いて、スルスルと器用に登っていくのであった。

 あっという間に細く広がった枝先までたどり着いたフンババは手近にあった青柿を尻尾で叩き落としたのであった。

 その数四つ。

 コユキが足元に転がった青柿四つを拾い上げているといつの間にか樹上から降りて来ていたフンババが、親指を立てて肩越しに後ろを指し示したのである。

 クイッと擬音が付きそうに動いた指の指す先には、先程倒れた杉の大木が存在感MAXで転がっていたのである。

「投げろって事?」

 コクリ

 フンババの頷く様子を確認したコユキは、ポンと軽い動作で青柿の一つを杉の倒木に向けて投げた。

 コツン

 次の瞬間先程タネを投げた時と同様の臼、栗、蜂、牛糞による攻撃が繰り返されたのである、規模を極大化して……

 まず臼は先程登場したかしの木っぽい木製の物ではなく美しく光り輝く鉱物の結晶製に変更されていて、大変硬そうに見えた。

 モース硬度的に言えば九から十の間、大体コランダム以上ダイヤモンド以下といった所では無いだろうか。

 次に栗であるが、こちらは見た目的には全く変わらず前回同様弾けて臼の衝撃から辛うじて残った幹に付着し、凄まじい炎を上げて燃え上がった。

 恐らくテルミットでも含んでいたのであろう、尋常でない高熱であっという間に残った幹を炭化させて行く。

 蜂はミツバチでは無くオオスズメバチの群れと変じ、周辺を高速で飛び回り炭化した幹を刺し貫いたりかみ砕いたりして、細かな活性炭へと変えていった。

 仕上げに大量の牛糞が活性炭を飲み込んで流れ下り、幸福寺の裏山の谷へと土石流並みの破壊力で山肌を削り取ったのである。

 コユキは愕然としながらも驚嘆の声を上げる。

「す、凄いわよこれ! これならフンババ君の『ふっ、やれやれ』発言も理解できるわよ! なるほど、タネより青柿なのね~」

「…………」 クイっ!

 コユキの称賛にも無表情なまま人差し指でコユキが持つ青柿を指さした後、右手のてのひらを広げて見せて、手首を僅かわずかに上に動かしたのであった。

「なに? 寄こせって言うの? まあ、いいけどさ、はい」 ポン

 コユキが持っていた青柿の一つをフンババの右手に置いてやると、胸を張って投球モーションに入ったフンババは小さい体ながらも、自信に溢れた流麗りゅうれいな一連の動作が醸し出す雰囲気の存在感で言うと、岩手出身の打者としては規格外のスラッガーとしてMLB内外を騒がせ、投げては百マイルをバンバン投げ込み続ける彼のように大きく逞しく感じさせるものを持っていた。

 さあ、ショータイム! である。

 オーバースローから投じられた青柿は丁度十八メートル四十四センチ先に立っていた、墓地の中でもひと際立派な黒曜石の墓石目掛けて目測での推定速度百六十五キロオーバーで衝突した。

 パッシャーン! ガラガラガラガラ パラパラパラパラ

 コユキの目は飛び出さんばかりに見開かれ、息をするのも忘れてしまい、体も固まったままで動きを止めるのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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