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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
326.着火

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 本当は余裕なんか無いのであろうことは鈍くて太った鈍重どんじゅうなコユキにも手に取るようにわかっていた。
 だって、話し方が元々のカイムの物に戻っていたからね……

 しかし、コユキは知っていた……
 こと、高位悪魔達が自分の事を『魔王種』とか『魔神』とか呼んじゃった時って矜持きょうじというか誇りというか、そんな決して汚してはいけない心根を持って向き合っている事を、この半年あまりの出来事でコユキは、いやと言うほど見て来ていたのである。

トポトポトポトポ キュッ!

 ライターオイルに身を浸したカイムに対してコユキはマッチを手に確認するのであった。

「本当に良いのカイムちゃん?」

カイムは答える。

「熱いのは苦手だけどね、まあ仕方ないよ! ポロッポー! おい小僧、良く聞いて置けよ、私の答えが間違いだったら、出題者のお前に答えてもらうからな? まさか…… 正解を知らずに他人に問うたのでは在るまいな? もしそうなら、覚悟しておけ、次に燃えるのは…… 貴様自身だぞ?」

 凄むカイムの言葉に怖れを為したのであろう、貞光さだみつは表情から笑みを消して真剣な顔付きで答えるのであった。

『ま、魔王よ…… 仰る通りです…… 我は自身が答えられぬ問題を出したのです…… 我が知らぬ答えを他者に求めるとは…… 私は恥ずかしい! 私の負けです! この上は大人しくアーティファクトとこの身を化してあなた方に従いましょう……』

「ふっ、やはりそうか、若い! 如何にも若いのぅ! 人というのは不思議なものだ…… 九百年の永きを経てもその尊大さを変えようとはせぬのだから…… しかし、その求道心、嫌いではきら、き、き、きいぃぃぃ! アチアチアチアチ! 熱いィィィィィィ!!」

「へ? 燃やすんでしょう? そりゃ熱いわよぉ! カイムちゃん頑張ってね! ファイトッ!」

 話の方向が変わって来ていたのだが、残念ながらコユキはシングルタスクであった。
 オイルを掛けたのだから、次は着火だと思い込んで、丁寧にマッチを擦っていたのである。

 哀れ燃え上がるカイムであった。

 ギャーギャー騒いでいた声が収まった、召されたのだろう……
 カイム、アタシ達は君のことを決して忘れない、ありがとう、そしてさようなら……
 
 事の成り行きを知っている全ての存在がそう思ったとき、いつもより数段低音の神々しい声が周囲に響いたのであった。

「人が何故争うか、それは人間が所詮人間だからである! 臆病で矮小わいしょうな存在が人であるのだ、克己心こっきしんも蛮勇も語り継がれる稀有けうな物であると認める人間が臆病以外の何であろうか? 人は人を疑い、互いに相手を悪と断じ、過去を忘れず、現在を不安の中で過ごし、未来の脅威に怯え震え続けるのだ…… 万物の霊長? 万物の幸に心砕かぬ者が霊長とは片腹痛し、人は所詮人の為にしか考えられぬ者であろう、しかしてその一事すら認める勇気を持たぬのも又、人、人間であろう? よき哉、だからこそ我等がいるのだ…… 神や悪魔と呼ばれる物…… 人間、なんと美しく醜い生き物であろうか? 不十分でありながら充分だと信じて疑わぬ生命よ、知性の深淵がどれほど深いか想像もせずに己の無知を誇る滑稽こっけいな創造物よ! この言葉を贈ろう! 虎は小さな命を喰らい、トラツグミは甲高く鳴く…… 月は満ち欠けし、風は花の香りを運ぶ…… 汝は何を持って自身を人間と呼ぶのか…… どうだ? 答えられるようになったら、次の段階の話をしてやろう! 生まれたままの地球の子よ、クハハハハハ、クッハハハハハハハ!」

 言い終えるとカイムは黒い煤塗れすすまみれになった体をパタリと倒して動かなくなった。
 コユキは慌ててリュックから取り出した布で消火活動をするのであった、お蔭で卜部うらべが少し焦げてしまったが……

 ポロッポポロッポ小声で呟いているカイムを抱き締めて心配そうにしているコユキに、空気を読まない碓井貞光うすいさだみつが声を掛けた。

『なあ、最後の問いだけど、聖女よ、我は今の主に会う前に、いいやライコー様に会うずっと以前に出会い、力を授けてくれた心優しき魔王にあったのだが…… そこな魔王には彼に似た空気を感じた…… もしかして、お前達は彼の魔王を知っているのでは無いか? 判るか、その悪魔の名前が?』

コユキは火傷を負ったカイムを胸に抱きながら振り返りもしないで答えるのであった。

「オルクス君でしょっ? アンタがコノコノ言ったときに判ってたわよ、んなこと! 判り易くディスサイズ持ってるし…… んでもそんな事どうでも良いでしょ! カイムちゃんが火傷したのよ! 今目の前に苦しんでる存在がいるのに理屈とか問題とかどうでも良いわよ! アンタ馬鹿なんじゃないのっ!! 確りして! カイムちゃーん!!」

 まあ、お前が着火したんだがな。

『グっ!』

 碓井は精神的ダメージを受けたようである、お前は負けを認めていたけどな。

「へへへ、大丈夫、です、よ…… コユキ様…… こう見えても序列付きの魔王です…… すぐに治りますので…… ふぅ、にしても熱かったぁ…… ポロ、キョロロン……」

「カイムちゃん…… アンタこそ特性と弱点の相性最悪じゃないの…… グスッ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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