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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
308.信仰の正体

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「むむっ、アスタや皆が言うんならきっとそうなのでござろ…… んでも、ずっと信じて続けてきた信仰や習慣をそんなに簡単には捨てられないのでござる…… 人間とはそういうものなのでござるよ」

苦悩を浮かべた善悪にアジ・ダハーカが声を掛ける。

「でも善悪様、ちょっと前まで『朝はご飯と味噌汁でござる!』とか言ってたのに、最近は『朝はスムージーで決まりでござる』とか言ってドハマりしてるじゃないですか?」

パズスが付け加える。

「そうですよ、今朝も『満腹中枢の狂ったバカもいないし、すっきり爽やか目覚めフレッシュ!』とか仰ってましたよね?」

周囲の全員に顔を覗き込まれてバツが悪そうな顔になりながらも、持ち前の我慢強さを発揮して善悪は言うのであった。

「ぐぬぅ、し、習慣は変える事も間々あるのでござる、だが信仰は別の話でござるよ! 大師様は勿論、大日如来や不動明王へ捧げ続けてきた真摯しんしで一途な思い、この一握りの純粋な信仰心だけは変えること等誰にも出来ぬ、不可能なのでござる!」

「痛っ! 何をする長兄! 敵の魔手が迫るこの刻、仲間割れとは血迷ったか!」

「グハッ? モラクス兄、貴様、覚悟があっての事かぁ? ああっ!」

勢い良く境内の砂利の上に転がされたシヴァ(中二病)とアヴァドン(残念)を指差しながらオルクスとモラクスが交互に言った。

「コレ、フドーミョーオー」

「そしてコレが大日如来ですが、一途な信仰は揺るぎませんか? 善悪様」

「ぷっ!」

 思わず噴出したラマシュトゥをキっと睨んだ不動明王シヴァと大日如来アポロンのアヴァドンであったが、兄弟の中で最も魔力が少なく、ましてや紅一点の姉に対して絡む訳にもいかないとムスっとしながらも立ち上がるのであった。

「…………」

黙り込む善悪にアスタロトが諭すさとすように言うのであった。

「それが事実だ善悪、それにシヴァに至っては若く未熟な頃に名乗っていたのが不動明王、長じて後は吉祥天と名乗ったのだぞ…… その人間、空海だったか? お前が彼を尊敬しあがめることまでは止めはせん、だが、密教の修行は止めて自分が為すべき事をやるんだ! 彼が救世ぐぜにその人生を掛けたように、聖魔騎士として自分を全うするんだ!」

「アスタ……」

善悪は弟とも言うべき大魔王アスタロト、かつて泥仕合という名の死闘を繰り広げた男前の顔を見つめた。

「それにな、何度も言うがお前とコユキ、もうとっくに人間じゃないぞ? 分かっているんだろう?」

「薄々気が付いていたけど…… はっきり言われると結構ツライ…… ござる」

 少し複雑な心境のようだ。
 アスタロトは構わずに両手を広げ堂々と言い放った。

「いいじゃないか! 脱人間、おめでとう兄上達! ようこそ、いや、お帰りなさい我等の倶楽部へ! そもそも善悪もコユキもあがめられ君臨すべき支配者なのだ! 堂々と受け入れれば良い、眷属けんぞく共の信仰の祈りをっ! 我等兄弟は人を凌駕する悪魔にかしずかれる大魔王、魔神なのだ! 我等こそ至高の神であるっ!!」

………………

 この傲慢すぎる発言には、この場にいる悪魔だけでなく、元人間の十四大徳も黙り込んでしまっていたが、数少ない現役人間のトシ子だけはキラキラと瞳を輝かせ頬を赤らめているのであった。

 人間でいたかったが、たった今、否定されてしまった善悪が独り言のように呟くのであった。

「…………君臨、か」(にやり)

 一瞬だけ嫌らしい笑みを浮かべた気がしたが、すぐにいつも以上に真面目な表情に変えて宣言をする。

「分かったでござる! 拙者個人の思いは横に置いておく事にするのでござる! 無論、自分の役所やくどころ確りしっかりと果たす為でござるよ! 君臨とか支配とか権力とかヒエラルキーの頂点とかはどうでも良い、関係のない話だよ? 良い? 大事な事だからもう一回言って置くのでござるが、あくまでも、役目を果たす為なのでござるよ! 分かった? 我が愚昧ぐまい僕共しもべども? 答えよ、汝等なんじらの神の問いにっ!!」

 本当にじいちゃんって、分かり易いな……

「「「「「「「ハイ、ワカリマシタ マラナ・タ!」」」」」」」

「良かったな善悪!」

「むうっ!」

「ダーリン、素敵!」

「おうっ!」

 こうして一日目の体力と魔力の測定に引き続き、アスタ先生の座学はお休みする事にした幸福寺お留守番組は、二日目一杯を使って善悪の魔力吸収の習熟、スキル効果の強化、魔力回路の拡張と最適化、新スキルの検討に費やした。

 オンドレとバックルに会えず、ガッカリコユキが帰還する少し前には、稀有けうな存在、魔力切れをしない永久機関たる化け物、聖魔騎士善悪が誕生していたのである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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