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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
692.光の天使

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 コユキと善悪の肉体も例外ではなかった。
 既にルキフェルのアートマンの依り代として存在していた二人が立っていた場所には、サタナキアと瓜二つの白金の魔神がその勇姿をあらわにしていた。

 バアルは灰色の幽鬼ゆうきの如き姿、アスタロトは恥の城にいた頃の羊の骨の顔を持つ半蛇神の姿であった。
 ゼパルやベレト、ガープとカイムも本来の半透明だった頃の姿、パッと見で悪魔のそれとわかる姿に戻っている。
 転じてスプラタ・マンユの面々は、タイプこそ違えど、神話で語られる天使とも神とも取れる見た目であった。

 面白いのはイーチである。
 骨を依り代にしていた時は逞しいダキア王ブレビスタの姿だったのが、骨を封印された今、逆に骸骨の姿に戻っているのだから、少々混乱する。

 変化は、全ての悪魔が本来の姿に戻っただけではない。
 コユキと善悪がアンラ・マンユに封印された瞬間から、私の『観察』と『経験』の対象者が父である長短へと切り替えられてもいたのである。
 まあ、オーディエンスの皆さんには、これといって変化は無いから言わなくてもいいのだが、一応ね。

 一万三千年ぶりに本来の魔神王の姿に戻ったルキフェルであったが、別段感慨の類は感じていない様である。
 彼の魔神王は静かに、それでいて聞く物の魂に沈み込む様な声音で言った、既に声は重なっておらず一つキリであった。

「バアル」

「はい、兄様、ターシャ?」

 ルキフェルの声に即答したバアルはナターシャに声を掛け、彼女が美雪と長短、聖邪、ピョートルとエカテリーナを結界で守ったことを確認した後、両手を広げて口にしたのである。

因果混沌カオスティック領域フィールド、『領域解除フィールドリセット』」

 ズンッ!

 途端に周辺に溢れ出したのは有り得ないほど濃密な魔力であった。
 ルキフェルが言う。

「我が朋友ほうゆう、そして眷属よ、地上に残すともがらへの手向けである、おのおの限界まで吸い尽くすのだ、ふふふ、この地を清めてくれようではないか」

 言葉に答え黙々と行動に移す悪魔達。
 有る者は両手を上方や前方に広げ、又有る者は魔力が噴出する地面に己が手を付け、空中を飛び回り、虚空を大きな口腔こうくうえぐる様にかじり取り、父の言葉を否定したい訳では無いが、神というよりやはり悪魔その物の様相を呈していた。

 しばらくそんな行動を続けていた悪魔達であったが、やがて少しづつ変化が見え始める。
 具体的には、数柱の悪魔が魔力を吸収する為にとっていた姿勢をやめて、元の通り直立に戻った事が切欠きっかけであった。
 それらの悪魔の体は、例外なくそれぞれのオーラの色で光り輝く、力強い天使のそれと変化しており、先程まで有った化け物風味は消え失せていたのである。

 光の天使は徐々にその数を増やして行き、程なくして、ルキフェルと彼の周囲に陣取る魔神や大魔王、魔獣神と側近、数十柱を残すのみとなったのである。
 ルキフェル、アスタロト、バアル、サタナキアを除いた面々は、躊躇無く周囲を埋め尽くす魔力を吸収し始める。
 イーチもスプラタ・マンユも序列に拘る事無く、同時に凄まじい勢いで光り輝いていく。

 燃え上がる灼熱色の天使と化したネヴィラスは寸分違わぬ姿になったフルーレティと微笑を交わし合っていた、んまあ、双子だから当然だろう。
 相方のサルガタナスも、弟のアガリアレプトと同色の青色マーヴィに変じた体を誇らしげに見つめていた。

 イーチは純白、そっと敬愛するオルクスの傍に寄る。
 黒いオーラの天使はモラクスの元に、桃色の者はラマシュトゥ、オレンジはパズス、緑はアジ・ダハーカに、金色がアヴァドン、銀っぽいヤツはアルテミスの近くに移動したようだ。
 
 最期にシヴァが紫色の天使と化して、アスタロトの後ろに寄り添うと、近い色の悪魔達が胸を張ってその後ろに移動したが、真紅のネヴィラスが口惜しそうな視線を向けていたのが印象的であった。
 いつも通り、冷静でクレバーなモラクスは自身の分け御霊、影たるルキフゲ・ロフォカレの横に無言のまま立ち、配下の天使達もそれに続く。

 様々な色合いが、視覚を刺激し続けて明滅する中、ルキフェルは言った。

「弟達よ、吸い尽くせ」

「「「ははっ!」」」

 アスタロト、バアル、サタナキアが、それぞれ紫、灰色いいや鼠銀ねずぎん、金色に輝くと、周囲を覆っていた魔力は忽然こつぜんと消え去り、爽やかな風が吹き抜ける北の草原に姿を戻したのである。

 ルキフェルは言った。

「ターシャ? もう結界を消していいわよ! ここからは僕チンからの贈り物でござる! ご覧あれぇ! ルキフェル本気の本気よぉぅっ! で、ござるぅっ!」

 素直に結界を消したナターシャの前で奇跡は起きた。
 見渡す限りの大草原からは、石化の痕跡は消え失せ、控え目に伸びた草花が短くその身を揃え、この地では既に死に絶えたはずの蜜蜂や数種の蝶達が、脈絡も無く飛び始めたのである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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