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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
249.丹波晃

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 コユキに手招きされ仕方なさそうにテーブルに着いた青年は、怪訝けげんそうな顔を浮かべてクンカクンカ炒飯の香りを確かめていたが、空腹に耐えかねたのか恐る恐ると言った感じでプラスチックスプーンを口へと運んだのである。

カッ!

 そんな音がしそうな勢いで、大きな目を一層見開いた後は、ガツガツと凄まじい速度で炒飯を掻き込んでいく。
 あっと言う間に平らげて、今度は餃子を割り箸で摘み上げて先程同様クンカクンカして、今回は嫌そうな表情を浮かべた、たぶんニンニク臭が鼻についたのだろう。

「大丈夫よ、騙されたと思って食べてみなさいよ」

 コユキの言葉に疑わしそうな顔をしながら頷いて餃子の端の方を一齧りかじり……

っ!!

 驚いた表情でコユキを振り返った青年に、満足そうな頷きで答えたコユキは漸くようやく話を始めるのであった。

「あのね、さっきの赤い石が『悪魔』ウトゥックだって言ったでしょう? 悪魔って言うのは自分の属性、タチが似た魂の人間にちょっかい出すものなのよね、んで、アイツの好みの魂ってのが、所謂いわゆる『慢』っていう煩悩ぼんのうなんだけどね」

 青年は餃子を頬張りながら聞いている。

「慢って言うのは、自分をスゲーって思って他人をあなどっちゃう感じとか、逆に俺なんてサイテーだって自分で勝手に決めちゃうって事でね、簡単に言えば『独りよがり』みたいな煩悩なのよ、分かり難い事だけど『我慢』って徳みたいに思うでしょう? んでもあれだって立派な煩悩なわけよ、俺一人で何とかする、耐えてみせるっ! って良く考えてみたら他者を頼りにしない高慢に他ならないでしょう? アンタの発言はもっとハッキリと周りを見下してて分かり易いんだけどね」

 そこまで言うとコユキはお代わりの餃子を取り出して(利子の袋から)青年の前に置いてから言葉を続ける。

「そういう風に周りを見下したり、逆に卑屈ひくつになって見上げてたりするとね、さっきまでのアンタみたいにああいう風に非科学的な理由で病気になったりもするのよね、オカルトや霊的な物もね、人類が未解明なものなんて存在しないって断じたりするのだって途轍とてつもない『慢』じゃない? どう、非現実的な事を実際目にした感想は? 間違えてたでしょう?」

 青年は口中のお代わり餃子を飲み込んで、恥ずかしそうに言うのであった。

「いやぁ、返す言葉も無いです…… まだまだ僕の知らない事って沢山有るんですね…… これからはもっと謙虚に学ぼうとつくづく思いましたよ…… なんか、コユキさんって凄いんですね……」

「ううん、アタシなんか見てくれが良いだけの一般人よ、もし、アンタが今みたいな事教わりたいんなら、アタシん家近くの幸福寺ってお寺に来てみなさい、もっとちゃんと教えてくれるわよ、善悪が! あ、善悪ってのはアタシの幼馴染の坊主なんだけどね♪」

「僕みたいな勘違い馬鹿でも教えてもらえば何とかまともになれるかな?」

「ほら、それが『卑下慢ひげまん』よ! 大丈夫よキット、今だって炒飯と餃子の美味しさを経験して覚えたんじゃないの? 人間って幾つになろうが誰からだって学んで成長できるもんなんだってよ」

「それも、その善悪さんが言ってたの? そうか、そうだね! 今日は色々学べたよ! ありがとうございました、コユキさん! あ、あのこれからも宜しくお願いしますね」

 少し元気を取り戻した僅かわずかに油っぽい顔で元気に答えた青年医師は立ち上がり、コユキに向かって右手を差し出すのであった。
 
 その手を見ながらコユキが言った。

「だから、濃厚接触はダメってリリィ小池が言ってたじゃない! 全く…… ところでアンタ名前なんていうのん、お寺に来るかもって善悪に伝えといてあげるから♪」

「あ、あう……」

 お見合いなのに名前も覚えて貰っていなかった事に少なくないショックを受けた青年医師、丹波たんばあきら四十歳は又少しゲッソリと戻ったように見えた。

 因みちなみに余談ではあるが、この代々典薬頭てんやくのかみを歴任してきた家柄に生まれた若き医師は、この後、コユキ善悪と深い友情で結ばれ、二人が世を去った後は残された茶糖家、幸福家の家族達を守るため、文字通り命がけの活躍をする事になるのだが、それは又別のお話しなので、この場では割愛させて頂こうと思う。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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