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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
606.生生流転

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 JR千歳線から函館本線、根室本線と乗り継いで富良野からJR富良野線で旭川方面に向けて最後の乗り換えを終えた一行は車窓に映る景色をボーっと見つめるのであった。

 一駅目の学田がくでんを過ぎた時、コユキが誰にともない呟きを漏らした。

「大田園地帯だわね…… 流石は北海道…… まるでロシアね……」

 無論コユキはロシアに行った事など無い、テレビかネットで見た感じだけで言っているのだ。

 正確性に掛けた発言に対して誰も突っ込みを入れないままで時間は流れ、やがて二つ目の停車駅、鹿討しかうちに到着するのであった。

 駅周辺の景色は代わり映えしていない。

 周囲には広大な耕作地が広がり捲っている。

 目指す中富良野は次である、富良野線の中でも停車本数が極端に少ない、ここ鹿討に立ち寄る事は二度と無いであろう。

 そう思ったコユキの目には素朴な木製でブルーに塗られたホームの端で、なにやら揉めているらしい姿が目に入ったのである。

 高校生位だろうか? 一人の派手めな女子高生を囲む様に同級生らしい男子が四人、ホームの端に追いやった土木作業員風の二人組に詰めよって、大声で文句を言っている様である。

 女の子が叫ぶ甲高い声が車内まで聞こえて来た。

「ねぇっ! 何とか言いなさいよっ! 何だったら出るとこ出ても良いんだからねっ!」

 男の子達が声を合わせて続いた。

『そうだそうだっ! やっちまうぞっ! この野郎!』

 コユキは溜息を吐きつつ言葉を漏らした。

「はぁー、日本人ってのはどこでも似たり寄ったりね、何か気に食わない事があれば他人と揉めたり愚痴ばっかり言っちゃってさー、こんなに大らかで広大な空と大地のその中でねぇー、んまあ、アタシには関係無いか」

 その時、揉めている高校生達の方から微かに聞こえた声。

「あ、兄貴ぃー」

「く、クソォー、お、オンドレーぇ!」

「っ! あの声はっ! 『加速アクセル』!」

 JR北海道の乗客に優しいアナウンスが、ドアが閉じる注意を促す中、コユキは神速でホームに降り立ったのである。

「こ、コユキ殿! どうしたのぉー……」

 車内から突然のゲッロフに驚く善悪の声が聞こえたが、徐々に小さくなって行き、やがて消えた。

 コユキは遠ざかるキハ150に人差し指と中指を揃えて、目尻から前方に向けてクイッっと動かして言ったのである。

「グッバイ善悪…… さてと…… おーい! アンタ達ぃ、何揉めてんのよぉ!」

「? なんか変なおじさんが話し掛けて来たわよ、皆」

「おわ、でけぇオッサンだな」

「おじさん関係ねーからアッチ行ってろよ」

 女子高生に認められてあわよくばお付き合いしたり行く行くは嫁取りでも画策しているのだろうか?  

 四人の男子の中からイキリ気味の一人がオラついて来たが、コユキの興味はそこでは無かった。

虎大こだい竜也たつやぁ、アンタ等こんな最果てに居たのね、一別以来ね、もう一年になるかな? ふぅようやく合流出来たわねー、んでもギリギリ間に合ったわよ♪ 今日の夜にはお父さんお母さんに会えるからね、うちのお婆ちゃんが連れて行ってくれるわよ」

「あ、あねさんっ!」

「お、お姉さん!」

「なははは」

 学生達に囲まれた土木作業員風の男性は、幸福寺で待つイラとルクスリアの生前の息子、虎大と竜也の二人であった。

 念の為に言っておくが、この二人と父親であるイラの間は、遺伝子とか血筋とかそんな安っぽい物では無く、うーん、そうっ! 魂の奥底で繋がっている、とってもナイスな親子関係だったのである。(※ルクスリアとは普通に血縁です)

 父や母に会える事が余程嬉しかったのか、ティーンエイジャーの前だと言うのに、二十歳はたちを優に過ぎた二人は人目もはばからずに涙を流すのであった。

「なははは、アタシてば、仲間達と一緒にこの先の中富良野に用があって来たのよー、さあ、一緒に向か――――」

「ちょっとおじさん! 今アタシ達がこいつらに話してんの位、見たら判るでしょぉ! ちょっと黙っていてくれない!」

「むっ?」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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