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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
587.端午の節句

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 アスタロトが珍しく興奮した様子で叫んだが、その姿はここ幸福寺の潤沢な魔力を吸収したのか、紫の羊型の頭蓋骨にムフロンとエランドみたいな角を生やした悪魔、いいや魔神その物の姿に変じていた。

「だ、だったら、トシ子と同じ様にサパとか飲んでさっ! そうすれば老いる事なくいつまでも、ひぐっ! い、いつまでも一緒に居られるじゃないかぁっ! だろう? コユキぃ、善悪ぅ! ば、バアルぅ……」

 バアルは俯いたままである。

 何か思う所でも有るのだろうか?

 グッと下唇を噛み締めて小刻みに幼い少女っぽい体を震わせている。

 無論、アスタとバアルと言う、魔神の弟妹だけではなく、人間として一緒に過ごして来たリエとリョウコも黙っていた訳ではない、というか黙って聞いてはいられなかったようだ。

 リョウコが言う。

「どうなのかなぁバアルさん、コユキにサパ飲ませて若返りし続けたら、お婆ちゃんみたいに生き続けられるのぉ?」

 バアルの答えを待つことなくリエの質問も響く。

「それか吸収されるんじゃなくてサタンを乗っ取る方法とかは無いの? ほら『内側から浸食される気分はどうかな』的な事とか出来ないのかな?」

 俯いて震えたままのバアルは力ない声で答える。

「トシ子と違って二人はルキフェル兄上のアートマンを半分づつしか持っていないんだよ…… 肉体とルキフェル兄上は若返るけどね、二人の人間部分の魂はそうじゃないんだ…… トシ子とリヅパは完全に融合しているけれど、兄様姉様の魂は不完全な兄上と混ざり合った部分と純粋な人間部分とで構成されている筈だよ…… 人間部分は若返らない、何が起きるか見当もつかない、良くない予測だけは出来るけどね…… はあ…… ア、それとリエちゃん、漫画じゃ無いんだよ? どうやったら人間が悪魔を取り込めるの? 無理だよ……」

「そ、それは、ほらっ! サタンの指を食べたりしてさっ! 今流行ってる呪術――――」

「ありがとうね、リエ、リョウコ、良いじゃない別に無駄死にって訳じゃあないんだから、絶望的で前回までダメダメだった展開に風穴を開ける為に最善だと思う方法にじゅんじるだけよ、わば国殤こくしょうみたいなもんよ、お互い寂しいとは思うけど悲しむ必要はないわよ」

 リエが言う。

「国殤って何?」

「えっとねぇ、あれだよ、呉戈を操りて犀甲を被り、車は轂を錯えて短兵接す、ってやつだよぉ」

 リョウコの声を聞いた善悪が感心した様に言った。

屈原くつげんの九歌第二、国殤でござるな、リョウコちゃん良く知っているのでござるな、感心感心」

 リエが負けじと言う。

「ああ、屈原か! あれでしょ? 端午の節句の人だよね? 私的には風神を共に天帝を訪ねる方が好みだよ! 離騒りそうだっけか、格好良いよね、あれって」

「あ、うん、あれは奸臣かんしん佞臣ねいしん蔓延はびこった国の行く末に対する嘆きの歌なんだけどね…… んまあ、文字だけ見れば確かにファンタジーでござるな、格好良いかもでござるな」

 コユキが国殤を詠じる。

呉戈ごかとり犀甲さいこうを被り、車はこしきまじえて短兵接す

はたは日をおおいて敵は雲のごとく、矢は交々こもごも墜ちて士は先を争う

余が陣を凌ぎて余が行を踏み、左驂ささんたおれて右は刃に傷つく

両輪をうずみて四馬を繋ぎ、玉枹ぎょくほうりて鳴鼓めいこを撃つ

天時に墜ちて威霊いれいは怒り、厳殺げんさつし尽くして原野に

出でて入らず、往て反らず、平原忽へいげんこつとして路超遠みちちょうえんなり

長剣を帯びて秦弓しんきゅうを挟み、首身しゅしん離なるとも心りず

誠に既に勇んで又以またもってたけく、ついに剛強にして凌ぐからず

身既に死するも神は以って霊に、子の魂魄こんぱく鬼雄きゆうと為る」

「おお、流石でござるな」

 善悪は満面の笑みである、コユキも笑顔を向けて続けた。

「今取れる最善を行うだけよ、なはは! んまあ、オルクス君がニブルヘイムの入り口見つけるまではしばしの休息って所じゃない? ゆっくり折り合いなさいよ、皆」

「そうそう、でござるっ!」

 仲間達だけでなく運命神まで沈痛な表情で俯き黙り込む中、皆の前に並んで立つコユキと善悪の二人はニコニコと満面の笑みであった。

 背中に回して隠したてのひらは、お互いに縋るようにしっかりと握られていた。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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